長期保有で価値が高まる欧州リートの魅力、「NN欧州リート・ファンド」が設定1周年

欧州中央銀行(ECB)の量的金融緩和で注目度が高まる欧州不動産に投資する「NN欧州リート・ファンド」が設定から1周年を迎えた。同ファンド(毎月決算コース/為替ヘッジなし)の設定来トータルリターンは約21%(15年5月末現在)、純資産残高は200億円を超えた(シリーズ合計は300億円超)。同ファンドを運用するNNインベストメント・パートナーズのクライアント・ポートフォリオ・マネージャー不動産担当のロゥーフ・グルーナフェルト氏(写真:右)と、投信評価機関であるモーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏(写真:左)が対談し、欧州リートの今後の展望を語り合った。
朝倉氏: モーニングスターの調べでは、日本で一般の投資家が購入可能な欧州リート(不動産投資信託)ファンドの純資産残高は2015年5月末時点では700億円と、過去1年間で約19倍に急増しています。
グルーナフェルト氏: NN欧州リート・ファンド(毎月決算コース/為替ヘッジなし)、(資産形成コース/為替ヘッジなし)は、2014年6月30日の設定から1年を迎えました。2015年1月には(毎月決算コース/為替ヘッジあり)、(資産形成コース/為替ヘッジあり)を、4月には(毎月決算コース/通貨カバード・コール戦略)、(資産形成コース/通貨カバード・コール戦略)を設定し、シリーズ6本の合計の運用資産総額は、300億円を超えました(2015年5月末現在)。
朝倉氏: 欧州リートファンドの約4割が「NN欧州リート・ファンド」で占められており、純資産の増加に最も寄与しています。そもそも、欧州リートファンド全体がここまで大きく増加したのは、欧州中央銀行(ECB)による利下げと欧州経済の好転による投資家心理の改善が主な要因でしょうか。
グルーナフェルト氏: 欧州リート市場への注目が急速に高まっている背景にはいくつかの要素がありますが、何よりECBが量的金融緩和策を当面の間は継続する見通しである点があげられます。2015年3月にECBは、国債などの資産を買って市場に大量のお金を流す量的金融緩和を初めて導入しました。「デフレ」を防ぐ政策は、リート市場にとってプラス要因になると考えられます。
また、欧州経済が好転し投資家心理の改善したこともリート市場にとってプラス要因になります。欧州リートが、他の地域と比べて大きく異なっている点として、店舗や複合施設の割合が高いことが挙げられますが、店舗の賃料は固定賃料の他に売上高に連動した歩合賃料が設定されている場合があります。つまり、景況感の改善による消費の拡大は、直接リートの収益の拡大にもつながるといえるのです。
朝倉氏: 日本のリートファンド全体に占める欧州の比率はまだ1%にも達していませんので、低コストでの資金調達による収益改善に、投資家心理の改善が加わるとなれば、今後は一段と投資家の人気が高まることが予想されます。投資家が注目すべき点の一つは、欧州リートの配当利回りの高さでしょうか。
グルーナフェルト氏: 現在の欧州の国債利回りと欧州リートの配当利回りの差は歴史的に見て高水準にあり、しかも長期間にわたって続いています。欧州リートの配当利回りの相対的な魅力度が高まったことが、欧州リートに多くの資金の流入が続いている要因となっています。
朝倉氏: 「NN欧州リート・ファンド」(毎月決算コース/為替ヘッジなし)の設定来のトータルリターンは2015年5月末時点では約21%と、欧州リートファンド平均を約2%上回っています。好調なパフォーマンスの要因はどこにありますか。また、同月末時点では株式も2割以上組入れていますが、株式への投資に対する考え方についてもあわせて教えていただけますでしょうか。
グルーナフェルト氏: 「NN欧州リート・ファンド」では、設定当初は、厳しい制約からオフィス物件の供給が限られ、価値が高くなる傾向があったロンドン中心地のオフィスを保有するリートに着目しました。2014年後半には、住宅価格が相対的に安く、上昇の余地があると判断したドイツの住宅の比率を引き上げ、これが好調なパフォーマンスをあげた要因のひとつになりました。
ちなみに、ドイツの住宅への投資は、不動産事業会社への投資によるものです。欧州の不動産事業会社では、既存の不動産を購入し、改装、管理するのが中心で、開発を行うことが少ないため、収益に占める賃料収入の比率が高い特徴があります。その点から、欧州ではリートと不動産事業会社を切り離してとらえる必要はそれほどないと考えています。「NN欧州リート・ファンド」でもリートの他に不動産事業会社の株式を通して、ドイツやスイス、スウェーデンなどリート市場が未発達、未導入の国で魅力的だと考える銘柄に投資をしています。
朝倉: NNインベストメント・パートナーズが運用を行う欧州リートファンドは海外でも高い評価を受けています。「NN欧州リート・ファンド」と同一のポートフォリオ・マネジャーが運用を行うルクセンブルグ籍の「NN(L)European Real Estate」は、厳選した銘柄への集中投資、優れたパフォーマンス、経験豊富なポートフォリオ・マネジャーによる運用などが評価され、総合でも「Bronze」(5段階中3番目)の定性評価を受けています。ポートフォリオの特徴、運用・調査体制などについて教えていただけますか。
グルーナフェルト氏: 「NN(L)European Real Estate」は2名のポートフォリオ・マネジャーが担当し、20年以上のトラックレコードがあり、優れた運用実績を残しています。ポートフォリオの特徴としては、一般的な個別銘柄分析、国別分析に加え、NNインベストメント・パートナーズ独自の「クラスター分析」を投資プロセスに組み入れていることがひとつとして挙げられます。
クラスターとは、各国において、同じような特性を持つ上場不動産をグループ毎に分けたものです。各国における不動産の保有状況やファンダメンタルズの違いにより、国別配分は有効な分散要素となります。
しかし、欧州リートおよび不動産事業会社の多くが、自分の国以外の複数の国や業種にまたがって物件を保有しているため、国別分析だけでは十分であるとは言えません。そこで、運用チームは、同じような特性を共有するグループに各銘柄を分類し、それらの企業群の相対的な見通しや、ファンダメンタルズの違い、バリュエーションなどを基に、あるクラスターが他のクラスターをアウトパフォームする要因を特定し、相対的な見通しを決めています。このクラスター分析は、「NN欧州リート・ファンド」の運用にも活かされています。
朝倉: 欧州リートの投資対象となる欧州の不動産については日本の投資家の中にはまだまだ馴染みの薄い方も多いと思われます。日本と欧州の不動産市場の違いはありますか。
グルーナフェルト氏: 石造建築の文化が根付いている欧州では、100年、200年といった長期で不動産を使うのが当たり前という感覚があります。年月を重ねた不動産にこそ価値があると考えているため、建て替えや再開発といった発想もほとんどありません。価値を維持するためのメンテナンスも心得ているので、築年数が長いからといって価値が下がるわけではなく、メンテナンス次第でむしろ価値が上がるのが欧州の不動産の大きな特徴といえるでしょう。
また、欧州では店舗や複合施設の割合が高いですが、これらは長期契約である場合が多いため、空室率が低く抑えられる傾向にあります。英国では、契約期間が10年から15年と大陸ヨーロッパよりも長く、賃料は契約期間中に見直されますが、通常、改定は値上がりのみで、値下がりはしません。投資家にとってはそうした安定性も欧州リートの魅力になっています。
朝倉: 日本とは考え方が異なりますね。そうした意味では、新規に投資を検討している投資家はもちろんのこと、既に投資経験はあるけれども、これまではJ-REITなどの国内資産を中心に投資を行ってきたという投資家にとっても、有効な分散投資先となりそうです。今後の各国のリート市場、経済状況などについて、どのような見通しに基づいて投資を行っていますか。
グルーナフェルト氏: 金利が長期的に低下し、消費者の信頼感が改善する環境において、欧州不動産は魅力的な成長が期待できると考えています。特に、リートには、質の高い資産を保有するものが多く、低金利による資金調達コストの低下の恩恵を最大限に享受できると考えています。
こうしたなか、「NN欧州リート・ファンド」では、引き続き、優良な資産を保有するリートや不動産事業会社へ地域的な分散を考慮しながら投資を行います。国別配分では、フランスの比率を高めに維持します。また、経済危機克服に向けた緊縮策や構造改革が進むスペインをポジティブに見ています。
クラスター配分では、主にオフィス、店舗を保有する英国メジャー(大手)と、不動産サイクルで底打ち局面にあるフランスのオフィスを高めに組入れます。ドイツについては、住宅から、消費者の購買意欲の改善が期待され魅力度が高まったと判断する店舗への配分を増やしていく方針です。(編集担当:徳永浩)
欧州中央銀行(ECB)の量的金融緩和で注目度が高まる欧州不動産に投資する「NN欧州リート・ファンド」が設定から1周年を迎えた。(写真は、NNインベストメント・パートナーズのロゥーフ・グルーナフェルト氏<右>と、投信評価機関であるモーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏<左>)
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2015-06-30 10:45