牛乳「国産100%」維持するために 国内生産の回復が喫緊の課題

 バター不足が深刻化する背景には、日本の酪農の弱体化がある。一般社団法人中央酪農会議は6月30日、6月の「牛乳月間」に合わせて、大阪で「いま、日本の酪農を考える」と題したメディア向けの記者説明会を開き、食料自給率の低下が続くなかで国内で流通する牛乳のすべてを国産で賄う「国産100%」を維持するため、さらには生乳の安定供給のために行っている取り組みについて説明した。写真は左から株式会社ミルクファームすぎやま 代表取締役 杉山明氏、株式会社資源・食糧問題研究所 代表 柴田明夫氏、中央酪農会議 事務局長 内橋政敏氏。  農林水産省は5月27日、バターの安定供給に支障が生じないよう1万トンを追加輸入することを決定した。平成25年度における日本の食料自給率はカロリーベースで39%と、主要先進国のなかでは最低の水準にとどまり、牛乳乳製品の自給率も64%となっている。スイスやオーストラリア、米国、ドイツ、フランスなどの諸外国では牛乳乳製品の自給率が軒並み100%を超えている点を考えれば、日本の低さが目立つ。  日本の牛乳乳製品の市場規模は生乳換算で1164万トンに達し、うち約400万トンを輸入に依存しているが、牛乳に関して言えば「国産100%」だ。株式会社ネオマーケティングが20代から60代の女性500人を対象に行った調査によれば、国産の牛乳は「安心」、「安全」という評価が圧倒的に多く、食の安全性が取りざたされることの多い今日では、牛乳の「国産100%」は非常に大きな意義の有ることといえる。  しかし、中央酪農会議事務局長の内橋政敏氏によれば、日本国内では酪農農家数が1963年の42万戸をピークに、生産コストの増加や先行き不安などを背景に14年には1万8600戸にまで減少。減少分を残った酪農家が飼養頭数を増やすことでカバーし、生乳生産を維持してきたが、そうした努力も限界に達しつつあるという。  酪農農家数の減少には、酪農家をめぐる厳しい経営環境が背景にある。生乳生産におけるコストのうち、もっとも大きな要素は全体の約50%を占める流通飼料費だが、資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏によれば、世界中で異常気象が多発しているほか、中国など新興国の需要拡大、バイオエタノール向け需要の拡大などを背景に、流通飼料価格が上昇しているという。  酪農農家数が減少すると同時に、日本国内の生乳生産量も減少している。1996年の866万トンをピークに、14年には約15%減の733万トンにまで落ち込んだ。内橋政敏氏は、生乳生産の減少が続けば、乳製品需要への安定的な牛乳供給ができず、国産乳製品需要を安定して満たせなくなると警鐘を鳴らす。  内橋氏は「世界的に見れば、人口増加や新興国の経済成長などを背景に牛乳乳製品も逼迫基調にある」と述べ、輸入に過度に依存するようでは消費者にとって好ましい状況ではないと指摘。牛乳乳製品の国際価格についても上昇基調にあり、国内における供給、生産の回復が喫緊の課題だと指摘した。  こうしたなか、中央酪農会議では生乳の安定供給や、生産量の維持・回復に向け、さまざまな取り組みを行っている。国産飼料の増産や稲作農家との連携による飼料用米や稲発酵粗飼料の生産によるコスト低減、酪農家の減少など人手不足を解消するためのロボット搾乳器の導入なども進みつつある。  15年春から牛乳のほか、乳製品の価格が値上げとなったが、値上げの背景には「国産の牛乳乳製品の安定供給」や「減少し続ける生乳生産量の維持・回復」、「乳業メーカーの製造コスト上昇への対応」がある。だが、生産現場の代表として酪農家の現状を語ったミルクファームすぎやま(京都府船井郡)の杉山明氏は、「コストに見合う乳価が実現されなければ、現在の生産量を今後も維持していくことは困難だ」と指摘、酪農をめぐる厳しい経営環境に対する理解を求めた。(編集担当:サーチナメディア事業部)
バター不足が深刻化する背景には、日本の酪農の弱体化がある。一般社団法人中央酪農会議は6月30日、6月の「牛乳月間」に合わせて、大阪で「いま、日本の酪農を考える」と題したメディア向けの記者説明会を開き、食料自給率の低下が続くなかで国内で流通する牛乳のすべてを国産で賄う「国産100%」を維持するため、さらには生乳の安定供給のために行っている取り組みについて説明した。
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2015-07-01 14:15