今でも民衆に愛される中国地方歌劇「黄梅戯」

日本経営管理教育協会が見る中国 第366回--高橋孝治(日本経営管理教育協会会員)
● 中国では一般受けしない「京劇」
中国の伝統歌劇と言えば、多くの日本人は「京劇」を思い浮かべるだろう。しかし、当の中国では京劇を好む人はそんなに多くないように感じられる。
京劇とは、そもそも清代に北京で発達した歌劇であり、中国で公式には「国家を代表する歌劇」ということになっているが、北京で発達した以外にも数多くの歌劇があるのである。崑曲、越劇、評劇などはその代表例と言える。
確かに、最近の中国では京劇俳優の育成に力を入れるなど、京劇の普及・発展に力を入れているように見える。しかし、一般的な中国人と話をしていると驚くほど多くの人から「京劇を見たいとは思わない」という言葉を聞く。その理由を尋ねると、多くの人は「何を言っているか分からないから見ていてもつまらない」、「テレビで字幕着きで見るならいいかも」と答えるのである。日本でも歌舞伎役者が舞台で話すセリフには独特の抑揚があり聞き取りにくいが、京劇のセリフの聞き取りにくさはそれ以上なのだ。
中国の京劇の劇場に行ってみればすぐに分かることだが、京劇の観客の多くは外国人なのだ。中国旅行に来た外国人が「ガイドブックに載っているから見てみよう」と劇場に来ており、京劇が「人気があるように見える」に過ぎない(その意味では、京劇俳優の育成に力を入れていることは、外国人に対する観光資源の確保としての側面があるかもしれない)。
● 中国人の好む伝統歌劇は「黄梅戯(おうばいぎ)」
京劇に代わって中国人が好む伝統歌劇は「黄梅戯(おうばいぎ)」の方だ。黄梅戯はもともと湖北省黄梅地方で生まれ、後に安徽省に持ち込まれ発展した歌劇だ。黄梅戯は京劇に比べ、「セリフの発音が聞き取り易い」、「音楽がきれい」などの理由で非常に人気が高い。しかし、残念なことに黄梅戯は外国人にはほとんど知られていないように見受けられる。
「音楽がきれい」というのは黄梅戯の特徴の一つだが、特に黄梅戯のうち「天仙配」という演目の挿入歌になっている「夫婦双双把家還」という歌は夫婦愛を歌っており、中国の結婚式で新郎新婦が一緒に歌うことがよくある(最近の若い人には知らない人が多いが……)。この歌には「どんなに苦しくてもあなたがいればそんな苦しみもまた楽し」というくだりもあり、まさに伝統中国のラブソングだ。結婚式の定番ソングを輩出したという点も黄梅戯が中国で愛される理由の一つであろう。
先にも述べたが、どうも黄梅戯は外国人には知られていないように見える。しかし、特に中国と関わる人には、外国人向けのガイドブックに載らないような中国文化を愛でる姿勢も必要であろう。
写真は京劇の劇場。(執筆者:高橋孝治・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)
中国の伝統歌劇と言えば、多くの日本人は「京劇」を思い浮かべるだろう。しかし、当の中国では京劇を好む人はそんなに多くないように感じられる。京劇とは、そもそも清代に北京で発達した歌劇であり、中国で公式には「国家を代表する歌劇」ということになっているが、北京で発達した以外にも数多くの歌劇があるのである。崑曲、越劇、評劇などはその代表例と言える。
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2015-07-08 11:30