中国「千葉」商標問題の講評 日本の商標法の方がよほどおかしい

 「千葉」、「浦安」、「房総」などの名称が中国で商標登録されていたことがニュースになっている。これがなぜ問題になるのかというと、商標登録をされているということは、中国で「千葉」、「浦安」、「房総」という地名を使うことができなくなる可能性があるからだ。  ニュースによれば「千葉」も「ちば」と表現されており、明らかに「日本国千葉県」の名称を使えないようにした悪質なものと認識されているようである。  中国では1950年8月28日に「商標注冊暫行条例」、1963年4月10日に「商標管理条例」、その後1982年に「商標法」がそれぞれ公布され(施行は1983年3月1日。小改正は何度かされている)、その度に旧法は廃止されてきた。  中華人民共和国が建国されてすぐの段階で既に、経済の立て直しのためにも、「企業のブランド力」を保護する必要があったのであろう。1950年という建国翌年のの混乱期に既に商標に関する規定は存在していた。  そして、1950年の「商標注冊暫行条例」第4条は「商標として認められない例」が挙げられている。同条第8号は、「他人の姓名、肖像もしくは企業、団体の名称など。ただし相手方の同意を得た場合はこの限りではない」と定めていた。この条文には直接的には書かれていないが、「他人の………名称『など』」とあり、「他国の地名」がこの中に含まれると考えること(「商標として認められない例」に含まれること)は至極当然のこととして考えられた。  ところが、このような「他国の地名」を商標とすることができないと解釈できる条文は、一度1963年の商標管理条例では削除され、現在の商標法には「公衆がよく知っている外国の地名は商標とすることはできない」と規定されている(商標法第10条第2項)。  つまり、中国の商標法の文言に沿って言えば、「千葉」、「浦安」、「房総」という名称が広く一般人に知られているかがポイントになるのだ。この点からすれば「東京」、「京都」、「北海道」などの地名は中国で商標にできないと思われる。しかし、「浦安」、「房総」という名称が中国で広く知られているとは思えない(浦安、房総の方、ごめんなさい)。  しかし、日本側が異議申し立てをしても、現実としては政治的判断による結論が出されるであろう。「公衆がよく知っている外国の地名」と言っても公式統計の中国の人口である14億人全員にインタビューすることは不可能だからである(仮にできたとしたら、むしろ日本側は負けると思われる。中国はインターネットなどなく外国のことなんか全く知らない農民の方が多いからである。むしろ単純に「農民も含めた中国人全員」で言えば「東京」という地名すら知らない者の方が多いのではないだろうか。そのため先に「東京などの地名は商標にできないと『思われる』」と述べた)。  つまり、この不服申し立ての結論を予想するならば「中国政府が日本側のご機嫌取りをしたいか否か」が直接に表れる結論になると思われる。この結論は注視して見ておきたい。  なお、まだ登録がなされているだけで、実際に「千葉」、「浦安」、「房総」などの名称の入った商品が発売されたとの情報は入っていないようだが、仮に発売されて、その商品の産地が「千葉」、「浦安」、「房総」などから輸入したものでない場合、商標法の別の条文で商標権の無効を主張できる可能性がある。商標法第10条第1項も商標に使用できないものを列挙している。その中に「詐欺性のあるもの、公衆に対し商品の品質などの特徴もしくは産地の誤解を与えるもの」とあるからだ(商標法第10条第1項(七))。  日本の報道では、「中国の商標はおかしい」というような論調があるようだが、実は中国に比べたら「地名」に関しては日本の商標法の方がよほどおかしい。日本では「産地、販売地を商標にしてはいけない」という規制があるだけで(日本の商標法第3条第3号)、産地や販売地以外の地名ならば商標にしてもかまわないとされている。事実「シダモ(エチオピアの地名)」、「ジョージア」、「コロンビア」などは日本で商標登録されている。  最近、マスコミの偏向報道が話題になっているが、この事件に関して「中国の商標事情はおかしい」という論調を見たら、「中国や日本の条文知識すらないままに語っている」、「また中国はおかしな国だという偏向報道をやっている」という形で見ておいた方がよいかもしれない。(執筆者:高橋 孝治 提供:中国ビジネスヘッドライン)
 「千葉」、「浦安」、「房総」などの名称が中国で商標登録されていたことがニュースになっている。これがなぜ問題になるのかというと、商標登録をされているということは、中国で「千葉」、「浦安」、「房総」という地名を使うことができなくなる可能性があるからだ。
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2015-07-15 09:45