【大陸ビジネス新潮流】クロスボーダー通販で大陸需要を掴め=劉海濤氏

 劉海濤氏、今、勢いのあるインターネット通販会社の社長である。中国安徽省出身。来日し、1995年に東京商船大学(現東京海洋大学)流通情報工学部卒業。株式会社亜土電子工業勤務を経て1999年株式会社ストリームを設立。同社代表取締役。1968年生まれの47歳だ。 ■31歳で選んだ起業家という選択  劉海濤氏が独立し、株式会社ストリームを設立したのは、大学卒業4年後の1999年のことだった。最初から起業を目指していたわけではない。勤めていた株式会社亜土電子工業が他社に買収され、 担当していた業務から撤退することになってしまった。今でいうリストラの危機だ。  そこで亜土電子工業から香港を中心とした中国向けの日本製パソコン及び周辺機器の輸出業務の商権を譲り受け、社長を含めたった4人で株式会社ストリームを立ち上げた。当時31歳。  しかし、生産拠点を中国にもつ台湾や韓国のパソコンメーカーが台頭し、「日本製」パソコンの中国への輸出事業は徐々に縮小していってしまう。その一方で、同年12月には市場の急成長を見込んで国内外向けECサイト「Sunshine」を立ち上げ、インターネットでのパソコンの通信販売事業を始めた。これが、今の株式会社ストリームの基盤となっていく。  2002年1月にはECサイト「Sunshine」を「EC カレント」にリニューアルし、通販事業を本格化させていった。その後、クレジットカードも利用可能な「カレントプラス」、「EC カレント楽天市場店」、モバイル通販「EC カレントモバイル」、その他の提携ECサイトを販売チャネルとし、家電・PC分野のインターネット通販専業で国内トップクラスの規模に成長していく。  さらに、2005年にはベスト電器と業務・資本提携を行い、2007年には株式会社ストリームを東証マザーズに上場させた。現在、同社は家電販売を中心としたインターネットサイトの「ECカレント」、「eBEST」、「特価COM」を運営する。会員数は700万人以上を誇るとともに、上記3サイトともにgoogle認定ショップや楽天市場に加入するなど日本国内でのプレゼンスを確保している。起業から16年を経た今、劉社長は日本で最も成功した華僑起業家の1人となっている。  その劉社長にストリームグループの現状や、同氏が思い描く今後の事業展開についてお聞きした。 ■劉海濤社長へのインタビュー ーー現在ストリームグループの売り上げは、年200億円を超えている。今後、ストリームグループは、どこに行こうとしているのか? 劉:日本での、E-コマース、PC家電通販サイトとしては、一応の成果を出し、従業員もグループ全体で100人規模まで大きくなった。一時期は、「ライバルはAmazonだ」と言ったこともあるが、環境や商売の形態の違いもあり、まだまだおよばない。  しかし、ある時期に、弊社の扱う製品は買い替え需要の足が長いことに気づいた。家電やパソコンなどの買い替えまでにご購入いただける良い商材はないかと考えていた。 ーー何か良い商材が見つかったのか? 劉:化粧品だ。  旧ダイエー系列の株式会社エックスワンという化粧品開発・販売会社を2014年に買収し、ストリームの連結子会社とした。エックスワンは、1987年にダイエーの子会社として設立され、化粧品や健康食品などを中心に自社開発した生活必需品を会員制の無店舗販売で展開していた。  現在、我々の参加で、エックスワンの商品を使用したスキンケア中心のエステティックサロンを銀座と南青山に展開。さらに、会員制ネットワークによる製品販売を行っている。  また、日本の良質な商品を欲しいという中国人を含む訪日観光客の需要に応えるため、国内免税販売の代表的な存在であるラオックス株式会社と業務提携した。昨年(2014年)7月から、ラオックス銀座店など3店舗でテスト販売を重ね、良い結果を得られたため、ラオックス全店舗で販売を開始した。訪日客は増加しており、大変期待できる商材を得たと思っている。 ーーエックスワンはどれぐらいの売上規模になっているのか? 劉:まだ始まったばかりなので、30億円ほどの規模だ。ただし、買収金額からすると安い買い物だったと思っている。長い間、良質の製品を販売してきた会社なので、ブランド力も高く、商品もスキンケア、メークアップをはじめ健康食品、ホームケアと広範囲に及び、安全かつ安心で良質の商品を求める顧客層にしっかりアピールできる。 ーー今のお話ではエックスワンは、日本国内での販売だけとなるが、華僑起業家として中国への輸出は考えていないのか? 劉:エックスワンの商品を中国の店舗で直接販売したり、代理店経由で販売することは考えていない。中国では、化粧品を輸入するには輸入免許を取らなければならず、煩雑な手続きが必要となるからだ。 ーーそうすると、日本でエックスワンの商品を購入した中国人や外国人観光客は帰国後、リピート購入はできないのか? 劉:クロスボーダー通販という手段がある。  日本では、まだポピュラーとは言えないが、中国を含めた海外では、消費者が海外のメーカーなり通販業者に直接商品をオーダーし、取り寄せる「クロスボーダー通販」が一般化している。インターネット通販の世界なら、eBayなどを経由してアメリカの商品を日本でオーダーし自宅まで取り寄せることも簡単だ。 ーークロスボーダー通販? それなら、中国で必要とされる化粧品の輸入免許もいらないのか? 劉:個人が使用する一定量なら関税もかからないし、個人輸入だから輸入免許も必要ない。  もちろん、自社の通販サイトに顧客を誘導しなければならないわけで、そのためにアリババ傘下の「tmall.com」に出店する。tmall.com は中国最大のEコマース・サイトであり、出店する意義は大きい。ここで注文を受けた商品をお客様に発送するだけで海外店舗もいらない。利便性に加えて化粧品以外の商品にも可能性がある。クロスボーダー通販が当たり前となる時代がくるだろう。 ーーアリババといえば、アリババ創業者のジャック・マー氏が学んだ長江商学院に現役で席を置いていると聞いたが? 劉:現在、長江商学院のCEOコースで学んでいる。香港最大の財閥・長江実業グループ会長、李嘉誠氏の個人財団が設立支援したビジネススクールだけあって、中国の起業家が多く通っている。今、世界で何が起きているかタイムリーに学べるし、日本とは異なりスピード感あるビジネス環境にも触れる事ができる。  グローバルに事業展開している経営者たちと非常に内容の濃い時間を共有するため、一生の友となる人物とも知り合えた。今では毎日のように来日してくるクラスメートや卒業生との面会や商談で以前にもまして忙しい日々を過ごしている。この先彼らとの国境を越えた協業や共同投資などを行うことも十分にあり得る。 ーー家電関係のE-コマースに化粧品や生活必需品の事業が加わり、大きく分けて2つの柱をお持ちだが、その他に事業として可能性があるのは? 劉:オンラインゲームの開発を始めた。マーケットは日本だ。コンセプトやビジュアル(キャラクターづくり)は日本で行うが、プログラムなどの開発は中国で行う。ゲーム開発には人手が必要だが、中国の方が優秀な人材がたくさんいる。去年から始めた事業なので、まだ先行投資の方が大きい。ただし、今後は、弊社の大きな事業の柱とするべく早い段階で10億、20億という売上規模にのせたいと考えている。 ーー最後にお聞きしたいのだが、日本と中国で事業を経験されている劉社長は、仕事の上で日中の違いというものを意識したことはあるか? 劉:「効率」ということかもしれない。  中国は、物事の決定や行動が非常に速い。日本では、効率が悪いとは言わないまでも、スピード感に欠け、手続き的なことに時間をかけすぎていると感じることがある。  また、もったいないこともたくさんある。例えば、私はいろいろな投資をしているが、いま、同じような売上、同じような業態なら、日本企業を中国企業の10分の1の価格で買収できる。非常に安く、投資家としてはありがたいことだが。 ーーありがとうございました。 ■グローバルな起業家への成長を目指して  劉社長の出身が中国ということもあり、こちらが勝手に大きな声で積極的に自分のことを話す方を想像していたが、その予想は大きく外れた。  こちらの質問には正直かつ率直に語るが、実際以上に自分を大きく見せようとしないし、余分なことは一切話さないタイプの人柄で、むしろ、こちらの都合どおりには話を引き出せない発言に慎重なタイプの経営者だった。  この文章でも勝手に在日華僑起業家という冠を被せたが、この表現もやや日本人的な色眼鏡で見てしまったと反省している。他の上場企業の経営者と較べて若く、グローバルな視点をもつ国際人だからだ。劉社長と話していて、中国、香港、シンガポールなどでは当たり前となっている、国籍や出身を超えたグローバルな起業家が珍しくない時代が日本にもやってくると確信した。劉社長は新たな学びを通じてさらにステップアップした舞台に立とうとしている。(執筆者:大上 智子 提供:中国ビジネスヘッドライン)
劉 海涛氏、今、勢いのあるインターネット通販会社の社長である。中国安徽省出身。来日し1995年に東京商船大学(現東京海洋大学)流通情報工学部卒業、株式会社亜土電子工業勤務を経て1999年株式会社ストリームを設立。同社代表取締役。1968年生まれの47歳だ。
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2015-07-15 09:45