株式市場のリバウンドは続くか-新興国リスクの正体-=村上尚己
先週一時2013年11月初旬同様の安値まで急落した米国株はその後反発、1月後半からの混乱で下げた分の、半分以上を取り戻した(グラフ参照)。今週の市場の最大の材料とされた、2月11日のイエレン新議長の議会証言では、バーナンキ前議長の路線を引き継ぐ点が主に言及されたが、米国株市場はこれを好感した。
イエレン議長の発言の中身は、特段目新しい発言はなかった。ただ、先週悲観に振れ過ぎた市場は、先週半ばから「過度の悲観」が修正される局面に入っていた(2月10日レポート)。議長の発言にサプライズもなく無難な内容だったので、「悲観からの揺り戻し」が続いたということだろう。
このまますんなりと、急落前の1月半ばの高値水準を、超えるか?雇用統計など重要経済指標を踏まえると、米経済は2014年に入ってから軽微な減速局面に入っており、それが「軽微」かどうかを判明するには、もう少し時間を要するのではないか(筆者は軽微な減速だと予想している)。今後、天候要因で経済指標がブレると予想されるので、焦る必要はないだろう(日本株は、米国株に対して出遅れているが..)。
また、1月後半以降の米国株急落を引き起こしたきっかけは、新興国の通貨急落への懸念である。2月10日レポートで紹介したが、トルコリラが一足早く、1月半ばまで通貨高に戻るなど通貨安は一服している(グラフ参照)。これも、今週の米国市場の「悲観からの揺り戻し」をもたらした要因の一つだろう。
新興国の通貨売りに歯止めがかかったのは、中銀の緊急利上げなどの対応で、急落した通貨のリバウンドを狙う買いが入ったためとみられる。筆者は新興国通貨の下落は、テーパリングを巡る新興国へのマネーフローに対する思惑がもたらした面が大きく、これが新興国の経済活動や金融システムに悪影響を及ぼす可能性は低いと考えている。
ただ新興国の経済は盤石とは言い難く、市場の不安心理が再び高まるシナリオを否定できない。このため、改めて新興国通貨の現状を整理したい。テーパリングに対する思惑による新興国通貨の下落は、2013年5月から8月にかけて既に起きているので、1月後半の通貨下落は「前回の続き」と位置付けられる。2回に及んだ新興国通貨の下落を根深い問題とみるか、あるいは今回の通貨安を最終段階とみるか(筆者はこの可能性が高いと考えている)で、新興国だけではなく各国の株式に対するリスクの取り方も異なってくる。
この判断は難しいが、市場でテーパリングに対する思惑が高まった2013年5月からの通貨下落局面と、2014年1月後半からの下落局面の異なる点を一つ紹介する。今回の通貨下落局面では、いわゆる「脆弱な新興5か国」に焦点が集まったが、加えてアルゼンチンなど南米や東欧でも通貨安が起きた。一方で、「脆弱な5か国」の中でもインドネシアやインドの通貨下落は小幅で、更にマレーシア、フィリピン、タイ(これらは前回局面で大きく通貨が下落した)などアジアの通貨下落は1~2%と「通常の通貨安」に止まっている(グラフ参照)。
今回の新興国懸念の要因として、中国経済に対する警戒が高まったことがあるが、「中国リスク」が新興国リスクの遠因なら、アジア通貨も2013年同様にも売られるはずだがこれは起きていない。理由は定かでないが、1月後半以降の新興国に対する通貨安は、中国などのファンダメンタルズに対する懸念より、「脆弱」とみなされる通貨に対する投機の面が大きいという仮説が成り立つ。
これは仮説の一つで、今後アジア通貨にまで通貨売りが広がる余地がある、との解釈も可能だろう。どちらの解釈も可能だが、2月3日レポートで紹介したが、中国の経済指標は旧正月の要因で悪化している面があるので、景気停滞が深刻とは言えない。この判断が正しければ、中国経済の落ち着きが判明すると、今回通貨安が起きなかったアジア地域同様、投機的な通貨売りに見舞われた南米や東欧の混乱は、(FRBによる配慮がなくても)徐々に収束するというシナリオが描ける。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
先週一時2013年11月初旬同様の安値まで急落した米国株はその後反発、1月後半からの混乱で下げた分の、半分以上を取り戻した(グラフ参照)。今週の市場の最大の材料とされた、2月11日のイエレン新議長の議会証言では、バーナンキ前議長の路線を引き継ぐ点が主に言及されたが、米国株市場はこれを好感した。
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2014-02-12 17:45