「4M変動管理」は中国工場の差別化を図る決め手

 世界の工場と呼ばれた中国の製造業も、経済成長の鈍化によって陰りが見え始めてきました。競争激化によってますます厳しくなる経営環境下で、かつて中国進出を果たした工場は、今では生き残りを賭けた経営改革を講じる必要が生じています。特に中小企業にとっては、経営資源も限られている中で、「技術」、「人材」、「管理の仕組み」などのソフトな経営資源を強化することが求められます。  今回は、その中でも、工場の品質を支える「4M変動管理」の仕組みについて解説して見たいと思います。 ■ もの足りない品質対策書  品質対策書に一般によく書かれている不良の発生原因は、「作業員の不注意」、そして流出原因は「検査漏れ」です。  なぜ不注意が起きるのか? なぜ検査漏れが起きるのか? 頭が固まっていると、次のステップまで進まない。いわゆる「なぜ・なぜ・なぜ」の追求が足りないのです。そして、「三現主義」に基づいた現場、現物、現実をよく観察していない場合も非常に多いのです。  頭のよい(?)管理者が現場に行かずにオフィスで品質対策書を書くとこんな具合になります。特に中国人の管理者はプライドが高く、現場に行かずにオフィスにこもっている傾向が強い傾向があります。  そして、彼らが主張する対策ですが、「作業員に注意する、教育する」、現場には「不良写真の掲示」、「重点検査をする」などの内容が多いものです。原因の追及が甘いと、発生したどの不良に対しても、だいたい同じような対策になります。このような対策では、同様な不良が何度も繰り返し発生してしまうのです。  1度発生した不良が2度と発生しないようにするためには、また不良を未然に防止するためにはどうしたらいいでしょうか? ■ 不良対策のステップ  まず、現場の管理者、あるいは品質保証部のスタッフが、作業現場の様子、作業をしている様子、そして現物(不良品)を良く観察することが必要です。デスクに座っていては、見ることができませんね。現場にいたとしても、忙しがっていては、じっくり落ち着いて観察することはできません。中国人管理者や品質保証部のスタッフに対しては、まず現場行くことが重要であることを十分に教育する必要があります。 (1)三現主義を徹底する  オフィスから出て、実際に不良が発生した現場に行って、作業現場の人や設備の現実を観察し、不良の現物をしらみつぶしに調べることが、原因追及の第一歩なるのです。つまり、「現場・現実・現物」の「三現主義」を徹底させることです。先入観を捨てて、素直に「現場・現実・現物」をゆっくりと観察するのです。そのためにはまず腰を上げて、行動を起こすことが大事です。  そして、現状をまず大まかに、できるだけ広く捉えることから始めます。時系列に過去から現在に至るまでの状況を、製造ロットごとにどうなっていたかを調べます。 ・いつ(いつから)発生したのか? ・何個作ってそのうち何個不良になったのか? ・製造ロットによって違いがあるのかどうか? ・不良の内容は同じなのか、違うのか?  などを把握します。これは、原因を推測し、絞り込むための有効な情報になります。  「三現主義」を実行し徹底させるには、実際には「言うが易し、行うに難し」なのです。普段の訓練と心がけが必要になります。先入観と他人の言うことに左右されず、また一部の事象のみに捉われないことが重要です。  1つの能力と言って良いと思いますが、中国人と日本人を比べると日本人に軍配が上がります。しかし、日本人でも相当に訓練しないと実際には難しいものです。重ねて言いますが、腰を上げて実際に自分の目で見て、他人の言っていることが本当に正しいのかどうかを確認することです。  これは、日本人指導者にも当てはまります。中国人のスタッフに対しても実際に教育した通り実行しているかどうか自分の目で確認する必要があります。指導者として「三現主義」を実行する必要があるのです。 (2)原因を4Mで分類する  次に、原因を特定する作業に入ります。探るための枠組み(フレームワーク)として、「4M」に分類すると、考えが整理され、漏れがなくなり、原因をすべて洗い出すことができます。この分類は、各企業、工場によって異なるため、独自の分類方法を考案しなければなりません。日本人管理者と、中国人スタッフを交えて試行錯誤を繰り返しながら精緻化していきます。 (4M分類例) 1:MAN(人)・・・作業員の熟練度、作業疲れ、能力・適正不適、作業者の交代、現場管理者交代による引継ぎ、始業/就業、深夜残業、休日出勤、病気、家庭事情…… 2:METHOD(方法)・・・作業順序、作業指示書、工程順序不適、作業方法変更、検査方法変更、教育・訓練方法、工程変更、作業場所変更…… 3:MASHINE(機械、治工具類)・・・修理、改造、点検、治具変更、型変更、故障、停電、破損、治具の不備、工具の不備、作業台、照明、拡大鏡…… 4:MATERIAL(材料・部品)・・・設計変更、メーカー変更、仕入れ先変更、購入ロット、類似部品の混入など  4Mに分類して、原因を探っていくと、不良の原因は1つではないことが判ってきます。実は、この発想がきわめて重要なのです。  例えば、「ねじが良く締っていない」という不良が起こったとします。これは「作業者が不注意で閉め忘れた」ためと簡単に済ませてしまうのではなく、4Mに分類して、あらゆる可能性を探ってみます。 「人」ついて・・・誰が作業したのか? その作業者は新人か? それとも熟練者か? 夜勤か? etc 「方法」について・・・作業指示書の手順や指示内容は適正か? 作業台、作業場所の環境は? etc 「設備」について・・・電気ドライバの種類、トルクの調整状況、調整の記録etc 「材料」について・・・部品のねじ穴加工不良、ねじそのものの不良etc  あらゆる可能性を想定してじっくり調べてみると ・作業者に対する訓練が不足していたこと ・指示書の記載が間違いやすく、説明不備だったこと ・作業台が作業しづらい構造だったこと  など複数の項目があげられ、それぞれの原因が重なった時に不良が発生していることがわかります。従って、これらの原因1つ1つについて、それぞれ対策を講じないと不良の発生は防げないのです。そして、もう1つ重要なことが分かってきます。それは一体なんでしょうか? (3)変化点管理  4Mの変化の状況を毎日記録し、適正に管理することを「4M変動管理」または「変化点管理」といいます。この管理がされていないと、不良発生時の状況を示す情報が残っていないために、原因の調査ができないことになってしまいます。  これを防止するために、必要な記録は残しておかなければなりません。記録する担当者、フォーマットを決め、記録する時間や間隔を決めます。そして、その記録は必要なスタッフに情報がすぐわかるような仕組みを作って管理します。 ・勤務実績、作業者記録 ・設備点検記録 ・作業記録 ・生産数量、ロットの記録 ・不良の記録 ・検査記録 ・設計変更適用の記録 ・原材料のロットの記録 ・その他  この記録を調べることによって、不良が発生した当時、どのような状況で、だれが作業したのかが特定でき、原因を絞り込むことができるのです。そして、同様の不良がいつから発生し、それが倉庫に搬入されたのか、市場に流出したかどうかも特定可能となります。「変化点の記録管理」は、原因の特定と、不良がどの範囲で、何個の不良が発生したのかも推測が可能になります。 ■ 不良発生を未然に防止する  「変化点」管理は、不良原因の特定にとどまらず、管理項目ごとの変化を定期的にチェックする「見える管理」を行うことによって、アラームとして上がるようになり、不良を未然に防ぐツールとして使うことが可能になります。  ある項目に変化が起こったら、検査を強化する、あるいは、作業方法を変更するなどの対策を講じ、不良の発生や流出を防ぐことができます。  例えば、このロットから設計変更が適用されたので、確認のための検査項目を追加する、などです。この時、あらかじめ、このロットから設計変更が適用された部品が流れてくるといった情報が判っていなければなりませんね。事前に見えるように管理の仕組みを講じておかないと、後から分かったのでは手遅れになってしまう場合があります。  このような実績を徐々に積み上げ、4Mの内容や管理方法をレベルアップし、精度を上げていきます。 ■ 工場の強みとして  このように「4M変動管理」は工場の品質を左右する重要な管理であることを分かって頂けたと思います。最近では、中国でも多品種少量生産が主流になりつつあります。少品種大量生産に比べ「4M変動管理」は「スタッフのスキル」「管理の仕組み」を数段上のレベルに高めなければなりません。  「4M変動管理」を工場の仕組みに落とし込み、実行し、継続的に改善する「PDCA」サイクルを回すことで、独自の強みとして、他社との差別化につながる経営資源(ノウハウ)となります。これは他社が一朝一夕に真似ができないがゆえに、自社の強みとなるのです。(執筆者:浜田金男 提供:中国ビジネスヘッドライン)
 世界の工場と呼ばれた中国の製造業も、経済成長の鈍化によって陰りが見え始めてきました。競争激化によってますます厳しくなる経営環境下で、かつて中国進出を果たした工場は、今では生き残りを賭けた経営改革を講じる必要が生じています。特に中小企業にとっては、経営資源も限られている中で、「技術」、「人材」、「管理の仕組み」などのソフトな経営資源を強化することが求められます。
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2014-02-20 10:45