低コスト、低分配頻度の投信でNISAの普及・拡大を=投信協会

投資信託協会の会長、白川真氏(大和証券投資信託委託代表取締役社長)は、少額投資非課税制度(NISA)について「NISAの普及によって投資家のすそ野拡大につながるよう、投信業界をはじめ関係者の地道な努力が必要」と語る。投資信託協会では、NISAの普及・拡大に向けた投資信託商品として「分配金頻度が低い投資信託」「低コストの投資信託」「リスク許容度の低い投資家向けの商品」などについての考え方をまとめている。白川氏に、NISAへの期待を聞いた。(写真は、投資信託協会会長の白川真氏。サーチナ撮影)
――「NISA」についての評価は?
NISAの趣旨は、家計の自助努力による安定的な資産形成を支援するということ、また、預貯金などに「眠っている個人の金融資産」を社会に回して経済成長に必要な資金の供給拡大に繋げようというものであり、この趣旨は極めて意義のある制度だと思います。日本に住む20歳以上の方に、投資することへのインセンティブを与える制度が創設されたということはとても大きな意味があると思います。
NISAの非課税のメリットは、既存の投資家の投資を拡大する効果もあると思いますが、投資信託商品を購入した経験のない方々にも、このような制度があるということが投資のきっかけとなり、投資家のすそ野が広がっていくという効果に期待しています。
――協会としてNISAの普及について取り組んでいることは?
NISAの周知活動が、投資信託協会として、今年度の最大の課題であるという位置づけです。行政や関係団体とも連携しながら、周知活動に取り組んでいます。
たとえば、昨年から、協会のホームページにNISAの特設ページを設け、フィナンシャルプランナーがNISAについて、わかりやすく解説をする動画を掲載しています。また、「知っておきたい! 投資の基本」というリーフレットをつくり、リスクとリターンの関係や分散投資、中長期投資の効果を説明しています。この「投資の基本」は、映像化も検討しています。
その他、「投資信託ガイド」や「REITガイド」でも、NISAについて解説するページを設けています。また、毎年行っている地方の講演会や働く女性を対象に行っているセミナーでも、NISAについて話をしました。2月13日の「ニーサの日」には、対談記事広告を全国紙に掲載するなど、制度の普及を促す広報活動を行っています。
一方、2013年6月に「少額投資非課税制度(NISA)の普及・拡大に向けた投資信託商品の提供について」という報告書を公表しました。続いて、NISAの普及・拡大に向けた商品開発が行われているのかを調査し、結果を11月に発表しています。
まず、NISAの普及・拡大に向けた投資信託商品として、「無分配、または、分配頻度が低い投資信託」「低コストの投資信託」「リスク許容度の低い投資家向けの商品」などについての考え方を整理しました。
その上で、証券投資信託を提供する85社に対し、NISAを意識して設定した商品を調査したところ、2012年10月から2013年12月末までに設定された「NISA向けの投資信託商品」は全体で336本にのぼりました。うち、分配頻度が低い商品は314本(商品全体の93%)、低コストの商品は77本、リスク許容度の低い投資家向けの商品は86本でした。投資家とってNISA向け商品の選択肢が広がることは意義があることだと考えています。
この調査結果からも、投資信託業界を挙げて、NISAの普及・拡大に向けて積極的に取り組んでいることがわかっていただけると思います。
――「NISA」の制度としての改善要望は?
協会としては、10年で切れる制度の恒久化、また、5年間の非課税期間の期間延長を求めています。これらに加えて、個人的には、1年間に100万円という投資枠の拡大も必要だと考えています。
制度の改定については、NISA制度の利用者拡大が条件といわれますが、制度が良くなることによって利用者を呼び込むという効果もあると思います。制度の普及に努めるとともに、利用者の声を集めて、より良い制度になっていくように制度を改めていくことも大切な取り組みだと思います。
――「NISA」によって「貯蓄から投資へ」は実現しますか?
日本では、約1600兆円の個人金融資産の50%以上を「眠った資産」といわれる預貯金が占め、投資信託の比率は4.7%程度にすぎません。株式が5.3%、債券が1.9%、合わせても投資商品の比率は12%程度にしかなりません。ところが、米国では投資信託の保有比率が11.4%、株式が18.9%、債券が8.4%で合計39%程度になり、預貯金は13%程度です。「貯蓄から投資へ」といわれるときには、この日米の差が意識され、預貯金から投資信託への資金シフトを促そうと、これまでも様々な努力がなされてきました。
日本において「貯蓄から投資へ」と長らくいわれながら、それが実現しないのは、一つには日本の証券市場の低迷が要因になっていると思います。米国の個人金融資産に占める投資信託の割合が急速に高まった1980年代から90年代は、米国の株価が大きく値上がりした時期に重なっています。
そして、米国で投資信託は、約40%が確定拠出年金(DC)を通じて保有されています。日本にもDC制度はありますが、現在、DC制度を通じた投資信託の購入は2兆円程度にとどまります。給与からの天引きで、積立投資ができる上に、税制面でのメリットは大きいにもかかわらず、個人型、企業型ともに制度の普及が足踏みしており、利用されている商品についても、元本確保型が多く、投資信託商品の利用は半分以下です。今回スタートしたNISAと同様に「非課税」の投資制度として、今後はDC制度も積極的に活用されることが期待されます。
NISAは国民に与えられた貴重な権利といえます。せっかく用意された権利ですから、それを使わないともったいないと思います。この点での広報活動は重要です。
また、NISAで投資を始めた方々が、投資によって収益を手にするという成功体験があることで、翌年以降にも積極的な投資が実行されると思います。NISAで初めて投資をされる方々には、投資タイミングによる収益の良し悪しという影響が小さくなるよう、積立て型の投資に、じっくりと取り組んでいただきたいと思います。
このような投資を促す活動は、成果が表れるまで地道に息長く行う必要があります。これまでもそうだったように、「貯蓄から投資へ」の実現は簡単ではありません。NISAをきっかけにした、これからの取り組みがカギになると思います。地道で息の長い取り組みが絶えることがないよう、投資信託業界もあらゆるサポートを行っていきたいと思います。(編集担当:徳永浩)
投資信託協会の会長、白川真氏は、少額投資非課税制度(NISA)について「NISAの普及によって投資家のすそ野拡大につながるよう、投信業界をはじめ関係者の地道な努力が必要」と語る。(写真は、投資信託協会会長の白川真氏。サーチナ撮影)
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2014-02-25 13:45