分からないリスクとの付き合い方-シャドーバンキングへの不安-=村上尚己

 先日、筆者のレポートへのフィードバックに対して、「中国のシャドーバンキングの悪影響が心配。先般起きたような債務不履行が続けば、株価が大暴落するのではないか」というご質問を頂戴した。  1月後半からの新興国通貨下落が起きた一因として、中国の経済指標の悪化があった。そして、シャドーバンキングという潜在的な金融リスクを、中国が抱えているのも事実である。今週、米日株が上昇する中で、上海総合指数は大きく調整した。銀行が不動産融資を抑制している報道や、人民元安への誘導策に対する思惑が悪材料になった。  中国の株式市場が不安定なだけではなく、実際2月分の製造業の景況感指数は引き続き低下、中国経済の影響をうける鉄鉱石価格の下落が続いている(グラフ参照)。中国経済は停滞が続き、かつ潜在的なリスクを抱えている状況にある。  足元で和らいでいるとはいえ、中国そして新興国に起因するリスクは依然残っている。世界経済の足枷になるかもしれないし、少なくともアップサイド要因になる可能性は現状低い。質問として頂いた懸念について筆者も理解できるし、心配ではないかと言われれば心配である。3月の全人代を控えて、中国を巡る思惑が揺れ動く季節なのかもしれない。  一方で、中国の問題が深刻化するリスクシナリオが顕在化する蓋然性を見積もるのは、ほとんどの投資家にとって難しいことも事実だろう。1月末に起きた、一部の理財商品の債務不履行騒動も、地方政府が乗り出すことで事態は収束した。  中国政府の対応で事態はコントロールされているわけだが、何らかの事情でもし政府の対応が行われない場合は、大きな混乱が起こることが想像できる。ただ、その蓋然性(生起確率)がどの程度かと言うと、中国の政治事情に通じていない多くの市場参加者は分からない、ということではないか。筆者は、起こる可能性が極めて低いテールリスクに近いと認識している。  当然だがリスクとの見合いで投資リターンを得られるのだから、リスクをテイクしなければリターンは得られない。中国政治という多くが分からない要因に起因するリスクにナーバスになり過ぎると、投資機会を逸する場合もある。  中国経済は停滞気味だが、先のグラフで示したが悪化した製造業の景況感指数についても、2013年半ばに起きたのと同じ程度の減速である。中国経済が減速したが、2013年に米国など先進国の景気は総じて堅調に推移した。今起きていることも、それと同じ程度の範疇と判断できる。  そして、信用がシャドーバンキングを通じて膨らみ、その制御のために中国政府が対処している状況は2013年から続いている。理財商品への対処とともに、銀行などへの規制が強化され、それが企業の資金調達を滞らせる事態が懸念される。実際に、1月半ばまでは企業が資金調達に使うCP(コマーシャルペーパー)の金利が大きく上昇していることが報道された。この状況が長期化すれば、中国経済が今後大きく減速する要因になる。  ただ、1月初旬まで上昇していた、CPの金利は1月後半から徐々に低下して、足元では、2013年11月初旬と同程度まで低下している(グラフ参照)。当局による流動性供給の拡大によって銀行間取引金利が低下し、それがCP金利の低下につながっているとみられる。理財商品を通じた信用拡大への対処を続ける一方で、景気を失速させる金融機関の流動性不足には配慮を続けている模様である。  不動産融資を銀行が抑制するとのニュースで株価が下落したと報じられる。悪材料は頻繁にニュースになるが、先に述べた、足元で起きている資金調達金利の落ち着きつつあることはあまり目にしない。止むを得ないのかもしれないが、中国についてはリスクがピックアップされ、メディアで多く報じられる傾向がある。  以上を踏まえると、中国に起因するリスクについて軽視するのは良くないし、今後も短期的には予想外の波乱要因となりうる。ただ、深刻な問題が起きるのはテールリスクに近く、それが起きる確率は分からない。であれば、現段階では一歩引いた立ち位置で冷静に向き合う姿勢でよいのではないか。むしろ、世界経済の中心である米国そして日本を巡るリスク(まだ判断がある程度できる)、に対する考え方がより重要だろう。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
先日、筆者のレポートへのフィードバックに対して、「中国のシャドーバンキングの悪影響が心配。先般起きたような債務不履行が続けば、株価が大暴落するのではないか」というご質問を頂戴した。
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2014-02-28 17:45