再び悲観に傾く市場心理-分からないリスクが相次ぐ-=村上尚己

 2月26日レポートでは、米国株が高値圏にある中で、米債券市場では長期金利はほぼ横ばいで推移していることを紹介した。短期的には、米株市場が経済指標にナーバスになる可能性はあるが、3月後半以降は米経済への不安が拭われ、株式市場に遅れて長期金利が上昇する格好で、両者のかい離が縮小するシナリオをお示しした。  実際には先週後半、米国株は続伸し、長期金利は低下し、両者のかい離が更に広がっている(グラフ参照)。先週金曜日(2月28日)に、ウクライナ情勢の緊迫化が伝えられ、債券が買われ米長期金利が再び低下した。週末に、ロシアによるクリミアへの軍事介入に対して、米国からロシアに対する批判や制裁措置の可能性が表明され、「世界大戦勃発」まで指摘する声もあり、更に緊迫化している。  1月末の相場の波乱要因になった新興国通貨は、足元では落ち着いている。それに代わり、中国の株安や金融不安(2月28日レポート)、そしてウクライナ情勢緊迫化という、リスク発生が市場心理を冷やしている。ウクライナを巡る混乱の、今後の展開やどう収束するかを考えるのは、筆者の力量を超えている。相場的には、生起確率やインパクトが計測できない(分からない)リスクが重なり、安全資産である国債が買われる局面が、目先続くのかもしれない。  ただ安全資産への資金逃避で、米長期金利が2.6%前後まで下がり(3月3日アジア時間)、先のグラフで分かるように、2013年11月初旬以前の水準まで、再び長期金利が低下している。11月初旬はFRBによるテーパリングがいつ始まるか、見通しが分からなくなっている状況だった(その後発表された雇用統計の改善でテーパリング近いとの思惑で、金利上昇、株高が始まった)。  この米長期金利の水準をどう考えるか。FRBはテーパリングを始めている。足元は寒波の悪影響もあり米景気は減速しているが、米国の経済正常化の過程にあるとみられる。「経済正常化」とは、成長率が3%前後に高まるだけではなく、FRBの金融政策が、デフレリスクへの対応(金融緩和強化)から、出口戦略の模索に変わるということである。  今起きている米国の長期金利低下は、再びFRBがデフレリスクを警戒する状況に、米国経済が逆戻りすると、市場が認識しつつあるということになる。債券市場では、「米景気減速によるテーパリング変更」が意識され始めている。ただ、現在の米国の経済状況を踏まえれば現在の状況は持続せず、長期金利が更に低下する可能性は低いとみられる。  筆者の判断が正しければ、米国の長期金利(年初から同様の値動きして日本株も同様)は、相当低い水準まで低下しているということになる。1か月前の相場急落直後に書いたレポート(2月5日レポート)では、市場は悲観に傾き過ぎていると指摘した。現在の米長期金利は、この時同様、市場心理が悲観過ぎる領域に再び戻りつつあることを示している。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
2月26日レポートでは、米国株が高値圏にある中で、米債券市場では長期金利はほぼ横ばいで推移していることを紹介した。短期的には、米株市場が経済指標にナーバスになる可能性はあるが、3月後半以降は米経済への不安が拭われ、株式市場に遅れて長期金利が上昇する格好で、両者のかい離が縮小するシナリオをお示しした。
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2014-03-03 18:00