世界に広がる「和僑」 企業も人も「非グローバル」はリスクに

今回は法律から少し離れて、グローバル人材になるために、皆様の助けになるであろう一つの概念、「和僑」について紹介させていただきます。
■世界に広がる「和僑」
皆さんは、「和僑」という言葉、お聞きになったことあるでしょうか。この言葉は、良く知られている「華僑」―中国国外にて中国国籍を持ちながら働く人々―を意識して作られた造語です。
2004年8月、香港在住の日本企業家を中心として、日本にゆかりを持つ海外事業家によって「相補扶助」を理念とする会合がスタートしました。その後この会合は「華僑」を意識した「和僑」という造語を作り「和僑会」を名乗り始めました。
「相互扶助、和をもって貴しとなす」を理念に置くこの会は拡大を続け、2013年12月現在、香港、深セン、大連、東莞、上海、シンガポール、タイ王国、プノンペン、ヤンゴン、ジョホールバル、広州、北京、ホーチミン、その他日本の各地域、実に21地域にわたって、各地方の「和僑会」が作られています(なお、筆者は上海和僑会に参加しています)。
■和僑たちの活動 先達から学ぶ
「中国は4千万人、韓国は720万人、でも日本は日本国籍を有しなくなった日系人を入れても海外に出ている人口はわずか270万人なんです!」
著名なコンサルタント、大前健一氏のグローバル人材に関する熱弁に、世界中から集まった700人余りの「和僑」たちが固唾をのんで聞き入る―2013年11月、タイ、バンコクの高級ホテルにて開かれた世界各地の「和僑会」会員が一堂に会する和僑世界大会の一場面です。
基調講演となった大前氏の講演の他にも、世界各地で事業を成功させた和僑の先達たちが、自分たちの経験・苦労を講演や食事会の個人的交流を若者たちに伝えていました。
事業を立ち上げて間もない若者やこれから事業をしようとする若者たちは、「和僑」の先達から何か学ぼうと積極的に歓談をし、具体的なビジネスの話を進める姿も、会場となったホテルのあちこちで見られました。
中国の華僑と比べると、まだ人数も少なく、例えば資金融通のような組織だった援助が出来る段階ではありません。しかし、海外に出て事業をしようとする日本人たちが、共通ルーツのある仲間と相互補助をする枠組みは、この「和僑会」を初めとして、様々な形で、世界中で具体化しつつあります。
■まだ海外進出に消極的な日本人
日本の少子化などの構造問題、日本国内の20年にわたる不況の影響もあって海外に飛び出す事業家、若者は少なくありません。しかし平成24年10月1日時点における海外在留邦人(永住者及び長期滞在者)は124万9千577人に過ぎません(総務省 海外在留邦人数調査統計)。海外国籍を取得した者や短期滞在者を入れても、270万人程度です。
一方、華僑及び華人の合計は4千500万人(華僑華人研究報告より)であり、世界におけるプレゼンスの差は歴然です。それどころか、人口比では日本に劣る韓国でさえ、2007年には海外人口は700万人を超えています。海外におけるプレゼンスを単純に考えれば、世界は日本の3倍、韓国人に直接触れる機会があるわけです。
勿論、海外に出れば何でもいいという訳ではありません。日本国内の賃金の高さや労働環境の良さを考えれば、海外の基本的に安い賃金や悪い労働・生活環境に二の足を踏む人が多いのも納得できます。
■それでも企業が海外に出なければならない理由
それでも海外に出なければならない、たった一つの大きな理由は、人口少子化による構造問題に尽きるでしょう。
語りつくされている問題ですが、平成25年時点で1億2千700万人いる日本の人口は、5年後には1億千662万人、2048年には1億人を割ります。ビジネスの市場が2割近く減る訳です。将来に備えて、海外市場を狙えるように、人口と経済の成長が見込まれる新興市場に販路を早めに作るというのは企業のリスクヘッジの在り方として、一つの有力な選択肢でしょう。
■もはや「グローバル人材」でないことはリスク
更に、個人にとっても海外に出ずに非グローバル人材でいることには大きなリスクを伴います。
人材コンサルティング会社のディスコ社の「外国人社員の採用に関する企業調査」によれば、2013年度に外国人留学生を採用した企業が35.2%であったのに、来年度の2014年に採用予定の企業は、48.4%と増加しています。
実際、平成23年に留学している外国人が就職を目的とした在留許可変更を行って許可された件数は、前年度(7千831人)から約1割増えて8千586人でした(法務省入国管理局統計)。
企業は、日本国内であっても外国人の採用の数を増やそうとしているのです。これは当たり前の話で、旧来からの新卒採用自社教育システムで採用された人材は、海外経験やこれに匹敵するような人材としてのメリットを有していない者が殆どです。企業がこの人材からリターンを得られるのはこの人材が育ってからとだいぶ先となります。
この点、海外からの日本留学生であれば、必ず外国語を話すことができ、ビジネス知識としても日本以外の国の市場について前提知識があります。企業にとってもリターンを得られるまでの時間がきわめて短いのです。
更に、アジア圏の学生に限っていえば、他の地域の新卒採用の給与が日本よりも基本的に低いため、同じ賃金待遇であっても日本では採用できないような優秀な層の人材を比較的低コストで雇用することも可能となります。
こうした理由から、新人採用時に海外国籍の者を採用しようとする企業の姿勢は今後拡大していくことは間違いないでしょう。
一方、日本では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)は解雇を権利濫用とする法理が存在します。諸外国に比べて労働者は厚く保護されています。その結果、日本の学生、新入社員には、何とか正社員になろう、正社員になったら手厚い法律の保護のもと、とにかく失敗をせずに事なかれ主義で過ごそうという心理的動機が働いてしまいます。
これでは海外で勝負を掛けようという人材との競争になった時、日本の人材が勝ち残れるはずがありません。その為にも、海外の市場、そしてグローバル人材との競争を肌身で感じた人が、日本国内にも増えて欲しいと思います。そうでなければ国内の就労ポストも、重要なポストをグローバルで勝負を続ける外国人に占められてしまうのではないでしょうか。
■海外に出る決心がついたら
もちろん、海外進出は初期投資が大きく、個人にとっても労働環境が悪くなる可能性があるので、安易に薦められるものではありません。
それでも敢えて、少子化などの日本国内市場に対する危機感から、海外に出る決意されたのであれば、是非その地域にいる「和僑」の人々を訪ねることをお勧めします。和僑会がなくとも、色々な相互扶助の会は調べれば必ずあると思います。
そして筆者の経験上、コンタクトを取れば、その会や人によりますが、自分たちが海外で苦労した思いもあるせいか、何らかの力になってくれることが多いでしょう。そしてそこから、思いもよらない出会いや繫がり、気付きは必ず生まれます。
そして「和僑」(特定の会に入っていなくとも海外に根を張られている全ての日本にゆかりのある方々)に皆さんがなられた暁には、相互扶助の精神で次世代の仲間を是非助けていただければと思います。
言い忘れましたが、既に「和僑」である皆さんは、この記事、読み飛ばしてください。(執筆者:東城聡 提供:中国ビジネスヘッドライン)
皆さんは、「和僑」という言葉、お聞きになったことあるでしょうか。この言葉は、良く知られている「華僑」―中国国外にて中国国籍を持ちながら働く人々―を意識して作られた造語です。
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2013-12-19 09:30