中国調達:閉塞感に包まれる中国ローカルサプライヤー

誰も知らない中国調達の現実(223)-岩城真   主に日本向け輸出を生業とする中国のローカルサプライヤー、幾度となく襲った危機も乗り越えてきている。しかし、現在の状況は今までとは違う――そう感じているのは筆者だけだろうか。   人民元の変動相場制への移行とそれに伴う人民元高、増値税還付率低下、リーマンショック、労働荒(労働者不足)といった急激な変化に対して、かつては抵抗力があったように思う。急激な分、暫くのあいだ凌げば、収支は回復するといった楽観があったようにも感じる。ところが、現在のじわじわと深く浸透してくる人件費や人民元の上昇、景気の停滞には、先の見えない“不安”がたっぷり含まれている。   今回は、上海で日本向け機械部品の機械加工工場を経営する林浩(仮名)と話したことを書いてみたい。   休日に筆者の携帯電話が鳴った。取引先の総経理であり、個人的な友人でもある林浩からの電話である。「今、何していますか」と訊ね、筆者が自宅で寛いでいると判ると、「あくまでも友人として聞いてください」と断ってから話し始めた。「岩城さんの会社で、私の工場を買ってもらえる可能性ありませんか」とかなり唐突な質問を投げてきた。唐突な質問であったが、筆者は迷うことなく、「そんな可能性、限りなくゼロだね」と断った。   彼曰く、上海での工場経営に疲れたのだと言う。今から10年以上前に、日本で勤務していた会社の倒産を機に独立し、上海市内の実家の一室を事務所に会社を始めた。その後、工場を借り、さらには自社工場を持った。年々売り上げを伸ばし、筆者の身近なチャイニーズ・ドリームだった。ところが、ある時期を境に売り上げは伸びるが、利益が伸びなくなった。   10年近く、日本の町工場の加工賃はほとんど変動していない。材料費だけが上昇しただけである。一方、中国は、材料費はもちろん、人件費や人民元の上昇は、右肩上がり一辺倒である。それでも、数年前までは、材料費、人件費、人民元の上昇分を、輸出価格に転嫁することができた。なぜなら、その分を転嫁しても、まだ中国製の方が安かったのである。事実、筆者自身バイヤーとして、原価上昇分の値上げは認めていた。要するに彼の会社の利益は確保され、原価上昇分は、日本の顧客企業のコストメリットを食いつぶすことで吸収されていた。   ところが、一気に円高から円安に転じた一昨年から、そうはいかなくなったのである。原価が上昇しているのは理解しているが、それをまるまる転嫁されたら中国から購入するコストメリットは、吹っ飛んでしまう。筆者も「不良による仕掛損をなくせ、作業をもっと効率化しろ!」と言ったものの、中国の労働者のレベルが、日本の労働者のレベルに達していないのは、重々承知していた。結局のところは、企業の利益が削り取られているのである。春節が明けてからは、労働者の確保とその賃金で頭を悩ませる。もう、疲れた。質素に生活すれば、死ぬまでの生活費ぐらいは貯めたからと、かなり弱気なのである。   人件費を筆頭に生産コストは上昇しているが、労働者の質はそれに追いついていない。日本は景気が回復しても、物価はさほど上昇しない。かつて筆者が日本で感じた閉塞感を、こともあろうに中国人の彼は、上海で感じているのである。   現在の中国の状況を知っていれば、「工場を買わないか?」という提案に対し、即刻「不要!(いらない!)」と返答できる。返答に窮するのは、「じゃぁ、俺はどうしたらいいのだろうか?」という彼の相談である。労働荒のころ、彼は「ベトナムに第二工場を建設したい、出資しないか?」と誘ってきたことがある。彼自身を含めた出資者の目途はたっていたようで、友人である筆者の知らないところで、新しい事業をスタートさせることの後ろめたさからか、筆者に一応声を掛けたといったふうでもあった。しかし、筆者は、バイヤーとして猛反対した。もともと彼ひとりで成り立っている工場の管理が、ますますラフになることへの心配と、投資に失敗した場合の影響が本体にも及ぶ危惧からだった。   現在の中国、かつて筆者の感じた高揚がまったくないのである。その閉塞感は、日本をも凌ぐほどなのである。しかし、中国の製造業がこの閉塞感を打破できるか否か、まさに正念場なのかもしれない。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
主に日本向け輸出を生業とする中国のローカルサプライヤー、幾度となく襲った危機も乗り越えてきている。しかし、現在の状況は今までとは違う――そう感じているのは筆者だけだろうか。
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2014-03-11 11:00