ここは「絶えず」でしょう 魯迅小説言語拾零(13)

日本語と中国語(396) (24)「眉間尺」凄惨な復讐譚   魯迅は三つの創作集を残している。先にちょっと触れた「狂人日記」や代表作「阿Q正伝」など14篇を収める第一集『呐喊』(1923年)、寡婦祥林嫂の悲劇的な生涯を描いた「祝福」ほか11篇を収める第二集『彷徨』(1926年)、女媧、老子、墨子ら神話や歴史上の人物8人を取り上げて独自の解釈を施した第三集『故事新編』(1936年)の三集、33篇である。   うち、『故事新編』中の「眉間尺」(1927年、のち「鋳剣」と改題)は、わが国でも『今昔物語』その他に収められていてよく知られている古代中国の伝説的人物である眉間尺の剣を巡る復讐譚である。作品に見る限り、魯迅は穏やかなヒューマニストとしても一面と、激越な戦闘者としての一面の、両面を併せ持っているが、その後者を最もよく代表しているのが「眉間尺」である。   眉間尺の父親は天下に名の聞こえた剣作りの名工であった。ある時、王妃が真っ青な透明の鉄の玉を産み落とした。鉄の柱を抱いて身ごもったものであるという。王はこの鉄で一口(ひとふり)の剣を鍛えようと考えて、その仕事を眉間尺の父に命じた。父は昼夜をおかずに剣を鍛え続け、ついに雌雄二口(ふたふり)の剣を鍛え上げた。うち、雌剣を王に献上し、雄剣を隠し残した。身ごもってすでに5、6か月になる妻に向かって父は言う、猜疑心の強い王はわしにこれ以上の剣を他人のために作らせないよう、きっとわしを殺すであろう。子供が成長したら、お前はこの剣を息子に渡して、わしのために復讐させるのだと。 (25)女も絶えず?女たちも時々?   果たして父は殺された。16歳になった眉間尺は母に送り出されて、父の復讐に旅立つ。   この先は凄惨な復讐の場面が描かれるが、それを紹介するのはわたくしの目的ではないので、この辺で本題に戻ることにしよう。ストーリーの展開に興味のある方は原作についてお読みください。   本題は、と改まるほどのこともないが、まあ話の続きは中国語の“时时”が、日本語の「ときどき」か「しょっちゅう」かという話でしたね。   眉間尺、おっとまだ説明していませんが、「みけんじゃく」と読みます。伝説では眉間尺は身の丈一丈五尺もある大男で、眉と眉との間が一尺もあったところからこう名づけられたとのことです。この眉間尺が野菜の荷を担いだ人の群れに混じって城内に入ると、城内は異様ににぎわっています。    男人们一排一排的呆站着,女人们也时时从门里探出头来。她们大半也肿着眼眶;蓬着头:黄黄的脸,连脂粉也不及涂抹。    男はあちこちにかたまって、ぼんやりつっ立ている。女も絶えず戸口へ顔をのぞかせる。その顔は大部分、まぶたは腫れ、髪はぼうぼう、化粧する間がないとみえ青ざめている。(竹内訳)    男たちは一ならびに一ならびになって、ボンヤリと立っている。女たちも時々戸口の隙間から頭をのぞかせる。彼女たちの多くは眼のフチを腫(は)らしているし、髪の毛を梳(す)かないままでいる、黄色い顔にはまだ化粧もしていない。(増田訳)   またも竹内訳の「絶えず」と増田訳の「時々」が分かれた。ここは「絶えず」でなければならない。でないと、続く    眉间尺预觉到将有巨变降临,她们便都是焦躁而忍耐地等候着这巨变的。(大きな異変のまさに起ころうとするのを眉間尺は予感した。この連中はみな、じりじりして、しかし辛抱強く、異変を待ちかまえているのだ。竹内訳) と、つながらない。(執筆者:上野惠司 編集担当:水野陽子)
魯迅は三つの創作集を残している。先にちょっと触れた「狂人日記」や代表作「阿Q正伝」など14篇を収める第一集『呐喊』(1923年)、寡婦祥林嫂の悲劇的な生涯を描いた「祝福」ほか11篇を収める第二集『彷徨』(1926年)、女媧、老子、墨子ら神話や歴史上の人物8人を取り上げて独自の解釈を施した第三集『故事新編』(1936年)の三集、33篇である。
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2014-03-12 09:45