中国の労務派遣暫定規定―経費削減、柔軟な活用は今までより困難に
中国では、2013年7月1日、改正「労働契約法」が実施され、2014年3月1日、その労務派遣に関する規制の実施細則である「労務派遣暫定規定」(以下、「本規定」という)が実施された。
本規定は、派遣労働者の雇用比率、福利待遇・社会保険における同一労働同一賃金の原則、派遣先が派遣労働者を派遣元事業主に戻すことができる事由等を定めており、これまで人件費の削減、臨機応変且つ柔軟な人材活用のために派遣労働者を雇用してきた企業は、雇用体制を見直す必要があると考えられる。
以下、派遣先が注意すべき本規定のポイントを簡潔に紹介する。
1 派遣労働者の雇用比率
改正労働契約法は、派遣労働者を雇用できる要件(臨時的、補助的又は代替的な職務であること)を明確化したが、本規定はさらに、派遣労働者数の雇用比率を雇用総数の10%を超えてはならないと定めた。ただし、この雇用比率については経過措置がとられており、企業は本規定実施後2年以内に雇用比率を10%以内にすればよい。なお、雇用比率を10%以内にするまでは新たな派遣労働者を雇用することはできない。
2 福利待遇・社会保険における同一労働同一賃金の原則
改正労働契約法は、派遣労働者が派遣先の労働者と同一労働同一賃金の権利を受けることを定めた。本規定は、労働契約法の規定を受けて、さらに福利待遇においても差別を禁止し、福利待遇における同一労働同一賃金の原則を定めた。
また、本規定は、派遣元事業主に地域を跨ぎ労働者を派遣する場合、派遣先の所在地で派遣労働者のために社会保険に加入することを義務付け、社会保険における同一労働同一賃金の原則を定めた。
具体的には、派遣元事業主が派遣先の所在地に分支機構がある場合は、分支機構が派遣労働者のために社会保険に加入し、派遣先所在地の規定に従い社会保険料を納付する。分支機構がない場合は、派遣先が派遣元事業主に代わり、派遣労働者のために社会保険に加入し、社会保険料を納付しなければならない。
3 派遣先が派遣労働者を派遣元事業主に戻すことができる事由の明確化
派遣先が派遣労働者を理由なく派遣元事業主に戻すことを防ぎ、派遣労働者の雇用を安定させるため、本規定は派遣先が派遣労働者を派遣元事業主に戻すことができる事由を次のとおり定めた。
(1)労働契約法第40条第3号、第41条に規定する事由がある場合(なお、労働契約法第40条第3号には「労働契約」、「使用者と労働者との協議」の文言が用いられているが、これが派遣先と派遣元事業主との関係を指すのか、それとも派遣先と派遣労働者との関係を指すのか本規定では明らかでない。)
(2)派遣先が破産法に従い破産宣告を受けた、営業許可証が取り消された、閉鎖を命じられた、取り消された、経営期限前に解散を決定した、又は経営期限が満了して経営を継続しない場合
(3)労務派遣契約が期間満了により終了した場合
ただし、労働契約法第42条の事由がある場合(例えば、派遣労働者が妊娠、出産、授乳の期間にある場合等)、派遣期間が満了する前は、派遣先は派遣労働者を派遣元事業主に戻してはならず、派遣期間が満了した時は延長をしなければならず、当該事由がなくなった時に戻すことができる。
派遣先が本規定に違反して派遣労働者を派遣元事業主に戻した場合、労働行政部門は期限を定めて是正を命じ、期限を経過しても是正しない場合、1人につき5000元以上1万元以下の過料に処する。また、派遣先は、派遣労働者に損害を与えた場合、派遣元事業主と連帯して損害賠償責任を負う。
なお、上海市の裁判実務では通常、派遣労働者が派遣先との雇用関係を回復することを求めて訴訟を提起した場合、裁判所は派遣労働者と派遣先との間に契約関係が存在しないことを理由として雇用関係の回復を認めていない。
4 実質的な労務派遣に対する本規定の適用
本規定は、請負・業務委託等の名義を用いたとしても、実質的な労務派遣に対して本規定を適用することを明確に定めた。
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【筆者プロフィール】
●山本寛
関西学院大学法科大学院司法研究科法務博士、華東政法大学国際経済法専攻修士。2002年司法書士試験合格、06年司法試験合格。日本の司法書士事務所、法律事務所での勤務を経て、12年に華誠法律事務所に入所。中国市場に進出する日本企業に対して設立、契約、労務、知的財産、解散・清算等の分野においてリーガルサービスを提供する。
中国では、2013年7月1日、改正「労働契約法」が実施され、2014年3月1日、その労務派遣に関する規制の実施細則である「労務派遣暫定規定」(以下、「本規定」という)が実施された。
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2014-03-14 15:15