緩やかな景気回復局面の債券投資、ハイ・イールド債やメキシコ債に妙味

 モーニングスターは2014年3月15日、東京で「MORNINGSTAR AWARD受賞記念セミナー」を開催し、債券ファンドの受賞4社の担当者による運用戦略に関するパネルディスカッションを行った。4社の担当者は、2014年の世界の金融市場は、米国経済の緩やかな拡大を背景に、徐々に金利が上昇する見通しにあるものの、上昇スピードは緩やかなものになるだろうという見方ではおおむね一致していた。  議論に参加したのは、三菱UFJ投信 委託運用部長の笹井泰夫氏(写真:左)、フィデリティ投信 商品マーケティング部シニア・マネージャーの原浩一氏(写真:左から2人目)、ドイチェ・アセット・マネジメント チーフ・インベストメント・オフィサーの戸田敦子氏(写真:右から2人目)、大和住銀投信投資顧問 商品担当執行役員の村松靖氏(写真:右)。モデレーターをモーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏が務めた。  三菱UFJ投信の笹井氏は、世界景気の見通しについて「米国を中心に緩やかに回復する見通し。新興国は経常赤字国やウクライナ、ロシアなどが不安定。欧州は回復局面に入ってきたが回復力は弱い。インフレは全体的に落ち着いており、金利がどんどん上がる状況にはない」という見通しを示した。そして、「ハイ・イールド債には発行体の収益改善による格付けの引き上げ期待も出てきて、良いパフォーマンスが期待できる状況」と語った。  ドイチェ・アセットの戸田氏は、欧州の状況について「回復の初期段階、転換点にある。良くなり始めたばかりなので、長く低金利が続くだろう。この低金利の中で、利回りを求める向きは、ハイ・イールド債に注目している。企業収益は着実に上向いていて、社債投資の環境も良い」と語った。  また、新興国の債券市場の見通しについて、大和住銀投信投資顧問の村松氏は、「米国の量的金融緩和の終了に向けた動きによって新興国市場に逆風が吹いている。新興国ブームによって、新興国全体が買われていた時代が過ぎ、新興国市場の2極化が鮮明になっている。たとえば、このところの動きだと、メキシコや韓国は横ばいだったが、ブラジルやトルコは売られた」と語った。「また、米国景気がしっかりしてきても、短期金利は依然として低く置かれたままになる見通しなので、中期債への投資がインカムゲイン+キャピタルゲインが狙える環境にある」と指摘した。  このような世界的な市場見通しを受けて、フィデリティ投信の原氏は、「たとえば、メインシナリオとして米国景気が回復するという局面を予測すれば、ハイ・イールド債やエマージング債に活躍余地が広がる。反対に、景気が停滞した状態が続くと国債が上がって、ハイ・イールド債などのパフォーマンスは良くないということになる。景気の状況が、どのようになるのか見通せない中では、債券投資についても国債やハイ・イールド債など分散して投資することを考える必要がある」とアドバイスした。  一方、為替相場の見通しについて、ドル/円の見通しを問われたフィデリティ投信の原氏は、「日米の金利差、日米の中央銀行の政策スタンスの違い、日米の貿易収支の見通しなどを考え合わせると、中期的にはドル高・円安の方向に向かっていると考えられる」と語った。また、ユーロについて、ドイチェ・アセットの戸田氏は、「景気と金利差の状況を考えると、ユーロは買われすぎているという見方もあるが、欧州危機で投資資金が引き上げられてしまったという状況から、欧州経済全般が落ち着いてきたことによって、欧州への投資が戻ってきているため、依然としてユーロの先高感は強いと感じている」と解説した。  AWARD受賞ファンドについて、「フィデリティ・ストラテジック・インカムファンド Bコース(為替ヘッジなし)『愛称:悠々債券』」がファンド オブ ザ ディケード2013を受賞したフィデリティ投信の原氏は、「愛称のように、ゆっくり、ゆったりとした運用を望まれる方に、債券の分散投資ポートフォリオを提供するファンドとして1998年以来、16年にわたって運用し、設定来の基準価額は75%上昇している。この間、為替は135円から100円台へと大きく円高になっても良いパフォーマンスをあげられたのは、あらゆる債券に分散投資して、安定したインカム収入と成長を取ってきたため。今後も分散による安定的な運用成果を続けていきたい」と語った。  「ピムコ ハイ・インカム毎月分配型ファンド」で同じくディケードを受賞した三菱UFJ投信の笹井氏は、「当ファンドは、世界の投資適格債とハイ・イールド債に50%ずつ投資するという運用コンセプトが、長い期間にわたって安定的な収益をあげてきた理由になっている。投資適格債は金利低下局面で投資効果が高く、ハイ・イールド債は金利上昇局面でパフォーマンスが出せるので、景気サイクルが良い時も悪い時にも対応できる。受賞対象となった過去10年間は、リーマン・ショックなどかつてないほどの厳しい環境にあっても、基準価額は86.1%上昇、年率6.15%の上昇となった。この運用を支えるピムコ社の運用体制も大変優れている」と、ファンドを紹介した。  一方、ファンド オブ ザ イヤー 2013の最優秀ファンド賞(ハイ・イールド債券型部門)を受賞した「DWS ユーロ・ハイ・イールド債券ファンド(毎月分配型)Bコース(円ヘッジなし)」を運用するドイチェ・アセットの戸田氏は、「ユーロ市場のハイ・イールド債券市場は、米国の4分の1程度の規模ながら、この5年で残高が倍増するなど急成長を遂げている市場。また、デフォルト率は2%を切るほどに低水準で落ち着いている。これから成長が期待できる市場として、ひとつの資産クラスの候補に、欧州のハイ・イールド債券を考えていただきたい」と提案した。  同じく、ファンド オブ ザ イヤー 2013の最優秀ファンド賞(債券型部門)を受賞した「メキシコ債券オープン(毎月分配型)『愛称:アミーゴ』」を運用する大和住銀投信当市顧問の村松氏は、「メキシコ国債に投資するというシンプルな商品。メキシコ・ペソが最安値の1ペソ=5.33円を付けた2012年6月1日に設定したファンド。それが、現在は7.7円までペソが上昇してきてファンドのパフォーマンスも良好になっている。メキシコは、米国に接しているものの、一時期は世界の工場としての中国に米国向けの生産拠点が移って厳しい時代を経験した。今では、中国とメキシコの人件費がほぼ等しくなり、輸送コストで優位にあるメキシコでの生産が復活している。メキシコ・ペソの一段の上昇も期待できる」と、同ファンドへの注目を呼びかけていた。  モーニングスターの朝倉氏は、株式型ファンドとは違った切り口で市場についての見通しを聞くことができたと、債券型セッションを振り返った。そして最後に「投資家主権の確立が大切。自ら判断し、誰もが主体的にファンド選択ができるよう、モーニングスターとしての情報発信をより活発に行っていきたい」と語っていた。(編集担当:徳永浩) 
モーニングスターは2014年3月15日、東京で「MORNINGSTAR AWARD受賞記念セミナー」を開催し、債券ファンドの受賞4社の担当者による運用戦略に関するパネルディスカッションを行った。(写真は左から、三菱UFJ投信の笹井泰夫氏、フィデリティ投信の原浩一氏、ドイチェ・アセット・マネジメントの戸田敦子氏、大和住銀投信投資顧問の村松靖氏。サーチナ撮影)
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2014-03-15 22:45