2017年も荒れる要素が多い、柔軟に市場の動きに対応することが肝心=外為どっとコム総研

2016年の為替市場は、Brexit(英国のEU離脱)や米大統領選挙でのトランプ氏の勝利など、事前の予測とは異なる結果に市場が振り回された。価格の変動率が大きくなったのも特徴だ。迎える2017年は、どのような1年になるのだろうか? 外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員、神田卓也氏(写真)は、「来年も荒れる要素はたくさんある。シナリオを固定して考えるのではなく、悲観ケースと楽観ケースをそれぞれに考えて、柔軟に市場の動きに対応していくことが大事になる」と語っている。
――ドル/円の見通しは?
基本的な方向性としては、ドル高・円安が継続すると考える。トランプ政権が進めると期待される減税や規制緩和、インフラ投資の拡大などの政策は、財政を拡張し、インフレを押し上げることにつながる。したがって、長期金利は上昇しやすく、利上げ期待が高まるため、ドルは一段と強くなる方向だ。
ただ、このドル高が新興国からの資金流出を促すなどリスク要因にもなるため、中国をはじめとした新興国の動きには注意が必要だ。ちょうど、昨年12月にも米利上げが実施され、年明けの1月には中国株式市場が急落し、世界の市場が動揺した。同じように、今年12月の利上げが、年明けの市場に響くことがあるかもしれない。
トランプ氏は、中国の人民元が為替操作されていると発言するなど、元安には厳しい見方をしている。折しも、中国が経済成長率の見通しを少し引き下げるのではといわれている中で、米国から元安をけん制する発言が出てくれば、中国経済の先行きに不透明感が高まり、市場がリスクオフになることもあり得る。
また、米中間では軍事的な緊張も高まりつつある。12月には米国の無人潜水艇が中国に拿捕されたというニュースがあり、それに被せるように、中国の空母が太平洋に現れたというニュースもあった。米中が戦争を始めることは現実感がない話だが、米中間が緊張状態にあることは、何かのきっかけで中国発のリスクオフが起こりやすいといえ、警戒は怠れない。
このようなドル高が引き起こす副作用が市場の波乱要因になりやすい。米ドルインデックスは14年ぶりの高値に進み、新興国からの資金流出、資源価格の変調などがリスクとして意識される場面もあるだろう。
一方、新興国経済も落ち着いて、トランプ政権の経済政策も順調に進展するといった楽観シナリオになると、FRBの早期追加利上げ観測が浮上することも考えられる。市場は3月利上げの可能性を25%程度しか織り込んでいない。これはドルの上値余地が大きい事を意味する。向こう3カ月間程度の期間では、1ドル=113円~121円程度の値動きになりそうだ。
その後は、トランプ政権の政策実現力が問われる。公約どおりに減税やインフラ投資などが実現されれば、それを受けてドルも一層強くなるだろう。FRBの利上げスタンスもややタカ派的に変化する可能性があり、年後半にはドルが一段高へ進むと考えられる。1年間の予想レンジは、1ドル=111円~128円とみている。
――豪ドル/円は?
豪ドル/円は中国発のリスクオン・オフに最も敏感に反応する通貨ペアだ。16年1月に1豪ドル=87円だったものが、中国株価の急落を受け、2月には77円まで下がった。年明けも中国の動き次第では大きく価格が動くこともありそうだ。
また、オーストラリア中銀の政策スタンスも、現在の中立的な立場から、緩和的な政策に動くのか、それとも、引き締め気味にしてくるのかによっても変わってくる。トランプ政権が順調にスタートし、世界的な株高が続くようであれば、インフレ期待の高まりから、中銀の政策は金融引き締めに動くことになろう。この点では、世界景気に大きく左右される度合いが強いのも豪ドルの特徴だ。
当面のレンジは、1豪ドル=78円~86円程度とみるが、1年間を通じては、70円~95円程度の幅で動くことが考えられる。
――その他、注目の通貨ペアは?
2017年はヨーロッパの主要国で大きな選挙があるため、ユーロ/ドルの動きからは目が離せなくなる。3月にはオランダで総選挙、4月から5月にかけてフランスの大統領選挙、そして、秋(9月が有力)にはドイツで連邦議会選挙がある。いずれも「反EU」「反移民」を掲げる内向きな政党が、支持を伸ばしており、どこまで票を伸ばすかという点が共通の関心事。
仮に、ポピュリズム政権が誕生すれば、最悪なケースでは、中核国からユーロを離脱する国が現れかねない。ひいてはユーロ崩壊につながることも覚悟しなければならなくなる。現在のところ、「反EU」を掲げる右派が、政権を取ることはないとみられているものの、選挙の結果がフタを開けてみなければわからないことは今年の例で身に沁みている。もし、ドイツでメルケル政権が倒れるというような結果が出れば、ユーロのパリティ(1.0ドル)割れは必至で、1ユーロ=0.9ドル割れも視野に入ってくるだろう。
一方で、選挙で大きな波乱がなく、米トランプ政権の政策効果などから世界的にインフレ率が上昇するようなら、ECBのテーパリング(量的緩和縮小)観測が高まる可能性がある。その際には、1ユーロ=1.1ドル程度の上値はあるだろう。ただし、この場合は、米ドル高の圧力も働きやすいため1.1ドルを超えると足どりが重くなると考えられる。
このように、2017年を展望すると、点検すべきポイントが多い。ヨーロッパの選挙やトランプ政権の政策運営力など政治的な要素が強いため、方向性を決めつけることは避けたい。方向感がつかみづらい動きになるので当面は、ポジションを長く引っ張らないことが肝要と考える。
外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員、神田卓也氏(写真)は、「来年も荒れる要素はたくさんある。シナリオを固定して考えるのではなく、悲観ケースと楽観ケースをそれぞれに考えて、柔軟に市場の動きに対応していくことが大事になる」と語っている。
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2016-12-28 16:00