トランプ大統領就任で変動幅の高い相場に? 外為オンライン佐藤正和氏

2017年、新たな1年がスタートするが、やはり金融マーケットの話題はトランプ新米国大統領の誕生だろう。ドル高政策で行くのか、それともドル安政策に転じるのか・・・。米国経済の今後4年間を占う意味で、大統領就任が実現する1月相場は、大きな転換点になる可能性もある。トランプ新大統領の登場で、為替相場はどう動くのか。外為オンラインアナリストの佐藤正和さんに、1月の相場動向について話を伺った。
――トランプ氏の大統領就任で為替市場はどんな展開になるのでしょうか。
周知のように、大統領選挙が終了してからも記者会見を開かず、経済政策や外交政策がどんな方向になるのか、いまだに推測の域を超えていません。就任前に予定されている記者会見や就任式の当日行われる就任演説などによって、徐々にトランプ政権の経済政策などが見えてくるとはいえ、かなりの不安感が漂っています。
現時点では、トランプ政権の閣僚人事などで判断するしかありませんが、法人税減税や所得税減税、そして10年で1兆ドルと言われるインフラ整備などの政策は、景気を押し上げるという予測から「ドル高」に振れていきます。
その一方で、メキシコに壁をつくる、TPP離脱、NAFTA見直しといった「保護貿易」へのアクションは、明らかに「ドル売り」のサインになります。とりあえずは、記者会見での発言内容や1月20日の就任演説で何をしゃべるのか、注目する必要があります。
――2017年の利上げ予想は3回とされましたが、ドル高は今後も続くのでしょうか?
イエレンFRB議長が記者会見で、金利見通しを示すドット・チャートなどから「3回程度」を示唆する発言をしました。2016年は4回と言われていたのが1回にとどまったことを考えれば、確実とは言えませんが、2017年は金利引上げが数回あると考えたほうが良さそうです。
トランプ新大統領の経済政策が大きなストッパーにならない限りは、当面はドル高が続くと考えられます。ただ、このところニューヨークダウが2万ドルの大台まで、あとわずかというところで足踏み状態を続けており不安が残ります。年内にも大台を突破できれば、順調にドル相場も上昇を続けていくものと見られます。1月6日の雇用統計でも、おそらく大きなサプライズはないと思います。雇用に関しては、米国経済は落ち着いていると言って良いのではないでしょうか。
1月相場で、トランプ新大統領以外にリスクがあるとすれば、改めて警戒されているものに「チャイナショック」があります。トランプ次期大統領の挑発で、中国と米国の関係がやや揺らいでいることもあり、中国経済も予断を許さない状況と言えます。
たとえば、中国の外貨準備高は大きく減少、外貨が流失しているのではないかと危惧されています。この1月1日元旦に発表される「PMI(製造業購買担当者景気指数)」がどんな数字になるのか。11月のPMIが51.2と大きく回復したものの12月はどうなるのか、注目したいところです。数値次第ではドル高が一層進む可能性もあります。
――ドル高円安は日本経済には追い風ですが、ドル円のレンジは?
日本の動きは当面、何もないと考えていいのではないでしょうか。1月30日-31日には日銀の金融政策決定会合がありますが、いまのところ動きはないとみています。やはり、トランプ政権がどんな政策を打ち出してくるのか、どんな対日政策を展開するのか。そうした動きが分からないうちは静観するしかないと思います。
1月のドル円の予想レンジとしては1ドル=113円-120円、と考えています。どうしてもボラティリティ(変動幅)が大きくなるのは仕方がありませんが、2015年のドル円相場は1年間で10円しか動きませんでした。それが2016年は22円も動きました。2017年はひょっとしたら、それを上回るような大きなボラティリティがあるかもしれません。
――欧州では極右政党の台頭が注目されていますが、ユーロ相場の行方は?
ECB(欧州中央銀行)は、12月8日の理事会で、それまで月額800億ユーロとしていた債券買い入れの規模を2017年4月から600億ユーロに縮小することを決めました。さらにQE(債券買い入れ)の期間も9月まで延長すると発表しています。
イタリアでは、多額の不良債権を抱える銀行3位の「モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ」に対して、政府が公的資金を導入して資本補強をすることを決定。もっともその後、それでも足りないという報道が出て、相変わらず不良債権問題には苦しんでいる状況と言えます。
加えて、いま直面しているのが極右の台頭です。移民排斥、EU離脱を掲げる政党であり、英国ブレグジット(EU離脱)やトランプ次期米大統領の誕生を背景に、極右の人気が高まりつつあります。数多くの選挙を控えている2017年は、極右の影響を大きく受けるのではないかと言われています。欧州での極右派勢力にも注意を払っておいたほうが良いかもしれません。
ユーロ相場のレンジとしては、ユーロ円で1ユーロ=118円-127円、ユーロドルで1ユーロ=1.01ドル-1.06ドル。英国ポンド円は1ポンド=138円-146円といったところでしょうか。こちらも、普段よりはボラティリティの大きな相場になると考えられます。
――原油価格が上昇しましたが、豪ドルは今後買われていくのでしょうか?
OPEC(石油輸出国機構)総会で、原油の減産合意が成立したため原油価格が上昇トレンドに転換しています。原油価格の上昇は、他の資源価格も押し上げることが見込まれており、オーストラリア(豪)経済にも好景気をもたらすかもしれません。
とは言え、豪経済は7‐9月期(第3四半期)のGDP成長率が前年比0.5%減少となり、2008年以来の大幅な落ち込みになりました。やはり、原油価格の低迷が続いていたことと、いまだに不動産バブルが続いていると言われる中国経済の動向に
大きく左右されたためと考えられます。
今後、原油価格が上昇に転じたこともあり、豪経済は徐々に回復していくのではないかと思われますが、やはりトランプ政権次第というところもあります。対中政策に対して厳しい態度をとり続けるのであれば、中国経済に与える影響も大きく、トランプ政権が選挙中の公約通りに「就任と同時に中国を為替操作国に認定」といった行動に出れば、豪ドルも売られてしまいます。
豪ドル円のレンジとしては、1豪ドル=83円-88円というところでしょうか。
――トランプ政権誕生に当たって、FX投資の注意点は?
やはり、2017年はボラティリティが大きな相場になることは避けられないと思います。100年1回とも言われる「ブラックスワン」も、2-3回は覚悟しなければならないかもしれません。
そうなると、やはり大切なのは「資金管理」です。目いっぱい投資するのではなく、余裕をもって投資しましょう。自分の読みが外れることを想定するのも、投資の大切なスキルです。(文責:モーニングスター)。
トランプ新大統領の登場で、為替相場はどう動くのか。外為オンラインアナリストの佐藤正和さんに、1月の相場動向について話を伺った。
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2016-12-29 11:30