予測不能なトランプ政権には小さなポジションで? 外為オンライン佐藤正和氏

 就任以来、大統領令を連発する米国のトランプ大統領だが、その荒っぽい政策運営は世界中を混乱に陥れている。しかも、ツイッターひとつで為替市場や株式市場が揺れ動く事態も招いている。実際に、トランプ大統領が日本の為替政策を名指しで批判したためにドル円相場が揺れた。こうしたボラティリティー(変動幅)の大きな荒っぽい相場はまだ始まったばかりだが、今後も延々と続きそうな状況だ。トランプ政権はどこへ向かうのか、為替市場にはどんな影響を与えるのか・・・。外為オンラインアナリストの佐藤正和さんに、トランプ政権に揺れ動く2月の相場動向について話を伺った。   ――トランプ大統領の経済政策で何が起こるのか、世界中が注目していますが・・・    トランプ政権の経済政策などによって何が起こるのか、金融市場は無論のこと、世界中の人々が疑心暗鬼となり強い不安感を抱いています。こんな状況では、先行きの予想は非常に難しくなりますが、当面予想できる事態は米国の「長期金利上昇」であり「インフレ」と「ドル高」です。    この中でも、特に注目したいのは長期金利の上昇です。FRBのイエレン議長は最近の講演の中で、「2019年末までに年2~3回の利上げ」を示唆しています。現在の長期金利の水準は2.5%程度ですが、今後は徐々に利上げされていくものと予想されます。    こうした状況の中で、トランプ政権は10年間で1兆ドル(約115兆円)のインフラ整備に着手すると明言しています。メキシコとの国境に壁をつくる大統領令にも署名しており、トランプ政権の経済政策全体が、金利上昇を招く方向に動いている、と言って良いでしょう。実際に、住宅ローン金利などはすでに上昇を始めています。    米国の長期金利上昇は、当然ながらドル高を招きます。特に、低金利の転換点とも言われる「3%」を超えるような水準になると、世界中の資金が米国に回帰することになり、ドルが買われて予想を超えるドル高があるかもしれません。   ――日本経済への影響はどんなことが考えられるのでしょうか?    日本銀行の「金融政策決定会合」が1月30日-31日に行われましたが、特に大きな動きはありませんでした。さらに、FOMC(連邦公開市場委員会)が2月1日-2日に渡って実施されますが、大きな変化があるとは考えにくいと思います。また、2月3日の雇用統計も大きなサプライズはないと考えています。    日米ともに中央銀行が大きな動きを見せないのは、やはりトランプ政権の動向を見守っているせいだと思います。トランプ政権は選挙中に公約したことを次々と実現させる動きを見せていますが、今後、米国主導による「ドル安」政策に転換する可能性も捨てきれません。あるいは、トランプ大統領が日本からの輸入品に20%の国境税をかける、と言い出すかもしれません。そういう意味では、あらゆる状況に対応できるように準備をしておくことが大切と言えます。   ――とりあえず、2月のドル円のレンジはどの程度が予想されるでしょうか?    ドル円では、1ドル=110円-117円と見ています。イベントとしては、国防長官のジエームズ・マティス氏が、2月1日-4日のスケジュールで日本と韓国を訪問。日本では稲田防衛大臣と会談することになっていますが、その際にどんな発言があるのか。    また、安倍首相が訪米してトランプ大統領と会談する2月10日が、ひとつのヤマになると思われます。トランプ大統領が、日本を名指しで「為替政策」を批判する発言をしたことで、日銀の量的緩和政策やアベノミクスそのものにも言及があるのか・・・。その結果次第では、為替相場が大きく動く可能性があります。    いずれにしても、日銀は異次元の量的緩和をこれまで同様に続けていくと明言していますが、米国の金利上昇圧力が強まるにつれて、日本の長期金利も徐々に上昇傾向が強くなっていくのではないでしょうか。とは言えトランプ政権の政策次第で、円安が進む可能性もあれば、逆に大きく円高に振れる可能性もあります。油断は禁物です。    ――欧州では「ECB」が緩和縮小への動きを表明しましたが・・・?    ECB(欧州中央銀行)は、前回の理事会で、これまで行っていた量的緩和の額を2017年4月以降、これまでの800億ユーロから600億ユーロに縮小すると発表しました。いよいよECBも「テーパリング(緩和縮小)」の動きに出たわけですが、「何か起きたらすぐ戻す」といった発言をドラギ総裁も繰り返し発言しており、とりあえずは、これ以上のテーパリングといった事態は考えにくいと思います。    一方、英国ではメイ首相がEUから完全に離脱する「ハードブレグジット」を選択することを表明しましたが、議会承認が必要という結論を最高裁が出したため、やや不透明になって来ました。トランプ大統領は、欧州に対しても「NATO(北大西洋条約機構)」の見直しなどを選挙公約に入れており不透明です。加えて、トランプ大統領の誕生で欧州の極右政党が勢いを増しており、政治的にも不安定な状態が続きそうです。    また、トランプ大統領が新設した「国家通商会議」の責任者であるピーター・ナバロ氏が「ドイツは過小評価されているユーロを利用している」とコメントし、ユーロが買われる場面もありました。2月のレンジとしては、ユーロ円で1ユーロ=119円-125円、ユーロドルでは1ユーロ=1.03ドル-1.09ドル。英国ポンド円で1ポンド=138円-146円と見ています。   ――トランプ政権がエネルギー関連の規制緩和を実施しましたが、豪ドルは?    トランプ大統領は、カナダから米国に石油を輸送する「キーストーンXL・パイプライン」など石油のパイプライン敷設事業を推進する大統領令に署名するなど、エネルギー関連の規制緩和を実施しました。にもかかわらず原油価格はあまり動いておらず、1バーレル=53ドル台を維持。資源価格にはまだ大きな影響は出ていないようです。    資源価格の変動は、オーストラリア(豪)ドルに大きな影響を与えますが、資源価格同様に影響を与える中国に対して、トランプ政権の姿勢がまだはっきりしません。対中国への経済政策が分からないうちは、動かないほうが良いかもしれません。    レンジとしては、1豪ドル=83円-88円と見ています。中国と米国の関係は、日本経済にも大きな影響を与えそうであり、注目して行く必要がありそうです。   ――トランプ大統領就任後わずか1週間で世界中が混乱しています。今後の注意点は?    結論から言えば、出来るだけ「オーバーナイト」の取引は避け、その日のうちに手仕舞うデイトレードがお勧めです。予測不能な不確実性の高い相場では、とにかく慎重な投資を心掛け、大きなポジションを持たないこと。当面は、こんなスタンスで投資をしていくしか方法はないかもしれません。    むろん、トランプ大統領の動向には十分な注意を払い、彼がツイッターで何をつぶやくのか、注意深く情報の変化に対応するしか方法はありません。荒れ放題の相場が続くときは、慎重な投資姿勢が重要です。(文責:モーニングスター)
トランプ政権はどこへ向かうのか、為替市場にはどんな影響を与えるのか・・・。外為オンラインアナリストの佐藤正和さんに、トランプ政権に揺れ動く2月の相場動向について話を伺った。
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2017-02-01 13:15