WPCのワイヤレス給電「Qi」、日本がリードする世界標準の実現へ

 世界初のワイヤレス充電の標準規格「Qi(チー)」が2014年春にも15ワットへと3倍にパワーアップする見通しだ。日本では、既に対応端末が数百万台出荷されているだけでなく、Qiを使った充電ステーションが3500カ所で展開されるなど、普及に向けたインフラ作りも世界に先んじて進んでいる。Qiの普及に取り組む標準化団体、「ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)」のメンバーに、Qiの開発の現状と、Qiに期待していることについて聞いた。(文中敬称略、写真は、左から東芝の春山かおる氏、フィリップスエレクトロニクスジャパンの黒田直祐氏、ロームの鈴木紀行氏、日立マクセルの今津龍也氏。サーチナ撮影) ――WPCが普及に取り組んでいる「Qi」の現状は? 黒田直祐(フィリップスエレクトロニクスジャパン 知的財産・システム標準本部 シニアオフィサー) WPCが結成されたのは2008年12月で、フィリップスは最初のメンバー会社8社の中に入っていました。その後、WPCのメンバーは世界に広がり、現在では約200社が参加しています。WPC正会員としては、日本からは東芝、ローム、パナソニック、ソニーが参加していて、WPCの活動は日本において世界で最も活発に行われています。  「Qi」はワイヤレス給電の世界標準ですが、日本ではコードレスホンやシェーバーなどの分野でワイヤレス給電の技術が早くから活用され、世界標準化の議論にも早くから有力メンバーが参加してきました。NTTドコモからパナソニックが開発したQi対応充電器を「おくだけ充電」として提示され、シャープから世界初のQi対応携帯電話が発売されるなど、日本では世界に先駆けたQi対応製品やサービスがいくつも出ています。  現在、Qi規格では5ワットまでの給充電をカバーし、携帯電話やスマートフォンなどの充電機器として広くビジネス展開されています。この5ワット規格では、例えばスマホの充電時間は空の状態から2時間程度でフル充電されるレベルです。 春山かおる(東芝 セミコンダクター&ストレージ社 技術マーケティング部 無線電力伝送技術主幹) 東芝では、認証を取得した電源モジュールを開発済みです。低損失で5ワットの給電が可能なモジュールとして製品に搭載できるレベルになっています。 鈴木紀行(ローム LSI商品戦略本部LSI商品戦略ユニット 技術主査) ロームでも半導体開発の一環でWPCによる標準化に注目し、5ワットの電源モジュールを開発しました。位置ずれ検出機能を付加して、給電器に充電する機器を置いたときの位置ずれに対してアラームを出力することができ効率の良い充電ができるようにしています。 今津龍也(日立マクセル ビジネスソリューション事業部 担当部長) 日立マクセルは2011年4月に国内で初めてQiに対応した充電器を発売し、その後もQiに対応した各種商品を発売してきています。たとえば、Qiの受電モジュールを組み込んでiPhoneをワイヤレス充電できるカバーも製品化しています。また、当社は二次電池の開発及び生産も行なっていますので、Qiと二次電池を組み合わせることでメリットが出せるような製品も考えています。 ――Qiの開発の方向性は? 黒田 早ければ、今春には15ワット規格に対応した製品へのサポートが始まる見通しです。15ワットになれば、パワーが3倍になりますので、スマホの充電時間はかなり短くなりますし、ノートPCなど大型機器のワイヤレス充電にも活発に応用されるようになると思います。 鈴木 WPCでは主に正会員が持ち回りでホストを務め、年に5-6回は国際会議を開催するというペースで議論を進めています。そこでは今後、30ワットや60ワット、120ワットといった大容量の規格についての構想があります。実際に、電源として電力を送る側と受ける側の機器の開発が絡むこと、さらに、受けた電力を充電する電池の開発も必要ですので、実際の商品化は、簡単な話ではありません。国際会議においては、世界標準を決めるために大変活発な議論が行われ、着実な前進が図られています。 春山 私が個人的に興味を持っているのはキッチンへの応用です。1000-1500ワットという大きな容量の電力を送受電しようとしていて、この規格化も平行して進んでいます。触っても火傷の心配がないクールトップでヒーターを作ることも可能で、今あるIHクッキングヒーターとは比べ物にならない便利な機器の開発が可能です。また、調理器具に料理のレシピ情報を送れば、調理をサポートしてくれる「インテリジェント調理器具」も実現可能なのです。 黒田 車載Qiについての開発も日本ではもちろん、欧州や米国でも大変熱心です。こういった国々ではスマホをカーナビとして使ったり、長距離運転中にハンズフリーで電話会議に参加する等、長時間スマホを利用するケースが増えてきており、そういった使用形態に対応したワイヤレス充電機能付きのクレードル等も数多く発売されています。更に、これはかなり先の話だとは思いますが、電気自動車へのワイヤレス充電も議論され始めています。たとえば、高速道路などで充電レーンを走るだけで充電ができてしまうなどといった研究も進んでいます。スマホなどでは既に電池切れが最大の克服課題になっていますが、電池切れを心配しない生活への流れは、今後もっと幅広い分野で加速していくものと考えています。 今津 カプセル型内視鏡のような医療機器、活動量計やスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスなどのように、二次電池を使う機器の小型化も市場のもうひとつの大きな流れになっていますが、このような小さな容量の機器への充電にもワイヤレス給電が採用されてくると思います。ワイヤレス給電であれば充電にコネクタが不要になるので、機器の小型化や防水、防塵といった要求に容易に対応でき、さまざまな可能性が広がってくると思います。 春山 技術的には、次世代のQiが導入する「共鳴方式」によって、接触しないでも電力が送れる仕組みが面白いと思います。最近注目を集めているウエラブルデバイスにおいても、送受電器同士をぴったりと合わせる必要なく、適当に転がしておくだけで充電させることも可能です。 ――WPCの議論に参加していて、Qiの今後への期待は? 春山 キッチンへの応用には、大きな可能性を感じています。これから1-2年後の早いうちにプロトタイプが出てくると思うのですが、ワイヤレス給電を使うと加熱調理だけではなく、ミキサーやジューサー、クーラーなどあらゆる応用が可能です。しかも完全にフラットなテーブルで、各種の調理器具を自由に使えるようになります。キッチンテーブルがそのまま調理台になってしまうなど、これまでの生活の概念を変えてしまうほどの変化が現れると思います。 黒田 ワイヤレス給電という技術は、各種のポータブル機器の制約になっている電池切れというネックを解消する大きな進歩をもたらす技術だと思います。いつでもどこでも手軽に充電できるという「ユビキタス充電」を想像すると、これまでには考えられなかった様々な可能性が見えてくると思います。機器の開発とインフラの整備が、互いに刺激し合ってスピーディに進歩している日本での展開に大いに期待しています。 鈴木 Qiの開発は、日本の電子部品業界が世界をリードできる新しい分野として、日本メーカーが世界にアピールできる舞台だと思います。エレクトロニクス業界ばかりでなく、自動車メーカーや医療機器メーカーなど関連業種も幅広い業種に及びます。WPCでの議論においても日本メーカーがリーダーシップを発揮して世界に広める技術をリードしていきたいと思います。 今津 ワイヤレス給電は、充電ケーブルの抜き挿しを必要としないストレスフリーな電気機器の使用環境を提供できます。また、機器ごとにACアダプタを必要としないというエコな仕組みでもあります。ワイヤレス給電の規格にはQi以外のものもありますが、対応製品数や参加企業数の多さ、グローバルな普及の観点から、Qiが他の規格と比較して先んじているのは客観的な事実だと思います。これからの社会のインフラとしてQiがさらに普及し定着するよう、WPCとしても取り組みを進めていきたいと思います。(編集担当:徳永浩)
世界初のワイヤレス充電の標準規格「Qi(チー)」が2014年春にも15ワットへと3倍にパワーアップする見通しだ。日本では、既に対応端末が数百万台出荷されているだけでなく、Qiを使った充電ステーションが3500カ所で展開されるなど、普及に向けたインフラ作りも世界に先んじて進んでいる。
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2014-03-19 10:00