イエレン新議長が進める金融正常化がドルを押上げ=外為どっとコム総研

 米国の金融政策を担うFRB(連邦準備理事会)の新議長にイエレン氏が就任して初のFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、新しい動きが始まった。外為どっとコム総合研究所の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏に、米ドルの動きを中心にして、当面の為替相場の見通しについて聞いた。(写真はサーチナ撮影) ――米国のFRB議長にイエレン氏が就任し、就任後初のFOMC後の記者会見で、“失言”とも取られる発言をして、市場が反応することがありました。イエレン新体制が、今後の為替相場に与える影響は?  イエレン氏は、“ハト派”の代表と見られていたのですが、FOMC後の記者会見で、「QE(量的緩和)が終了した後、6カ月で利上げ」と受け取れる発言をしたために、市場にショックを与えました。  現在のところ、市場関係者の見方は、QEは今秋に終了という見通しですから、2015年4月頃の利上げもあり得るということになります。従来は、2015年後半までゼロ金利政策が維持されるという見方でしたので、イエレン氏の発言は、従来よりも前倒しで利上げが検討されるという風に受け取られました。  すなわち、イエレン氏の発言は、市場の関心を「テーパリング(量的緩和の段階的縮小)」から「利上げ」に転換させる効果があったといえます。その点では、前任のバーナンキ氏よりも、金融の正常化については強い意志を持って政策の運営にあたるということなのかもしれません。  少しうがった見方になりますが、今回のイエレン氏の「6カ月発言」は、決して失言ではなく、意図して発言したということも考えられます。つまり、イエレン氏は、「利上げまでの最短ルート」を明確に示してみせたのではないでしょうか。  今回のFOMCでは、金融政策の方向性を示す指針であるフォワードガイダンスで、「利上げ開始は失業率6.5%」を廃止しました。このため、市場参加者がFRBの政策の方向性を予測する手がかりがひとつ失われたのですが、そこに、「最短ルート」を設定することによって、ひとつの目安を与えたのではないかと感じました。  1回目のFOMCだけでイエレン氏の政策運営を判断することはできませんが、「6カ月発言」も含め、市場との対話にはクレバーな印象を受けました。いずれにしても、イエレン氏は、金融政策の決定においては、雇用統計、インフレ率の他、幅広い指標を検討すると言っている通り、FRBの政策変更が市場を混乱させることがないよう、慎重な姿勢で市場に臨むものと思われます。 ――当面のドル/円相場の見通しは?  「来年春の利上げ」については、市場は半信半疑の状態です。それほど、今年の寒波の影響は大きく、例年であれば春先には米国の経済指標が好転するところ、今年の1月-2月の指標は良くないものが目立っています。今後は、3月-4月の指標に寒波で抑えられたことへの反動が出るかどうかを慎重に見極める必要があります。大局的にはドル高・円安基調が続くと考えていますが、3-4月の経済指標が劇的に好転しない限り、当面は1月に付けた年初来高値である1ドル=105.44円を抜けてドル高が進む展開は考えにくいと感じます。  半面、中国でのデフォルトの発生、また、ウクライナ情勢での予想外の混乱などがあれば、2月の安値である1ドル=100.75円を瞬間的に割り込むことも考えられます。したがって、当面の予想レンジは、1ドル=100円-105円とみます。 ――ウクライナ情勢が緊迫化していることは、ユーロにはどのように響くのでしょうか?  ウクライナ情勢は、政治的には大きな問題といえますが、経済的な影響は、さほど大きくはないと考えています。実際問題として、欧州は天然ガスの30%をロシアに依存するなど、ユーロ各国とロシアの経済的な結びつきは非常に大きなものがあります。それだけに、経済的な断交などといった措置は、ユーロ各国にとってもロシアにとっても経済に与える影響が大き過ぎてとれないと考えています。したがって、ウクライナ問題がユーロを大きく揺さぶることはないといえます。  一方で、ユーロは、受給関係によって価格が引き上げられているという側面があります。これは、2013年12月にもみられたことですが、3月末に向けたレパトリ(外貨売り・ユーロ買い)によってユーロ価格が押し上げられています。また、ウクライナ問題でロシアから資金が引き上げられ、その受け皿としてユーロに資金が流れていることも考えられます。  このため、4月に入ると、特殊要因が剥げ落ちて一旦はユーロが下落することになるでしょう。今年1月には年末に1ユーロ=1.39ドル目前まで買い上げられていたユーロが、1.34ドルまで下落したということがありました。ただ、その後再び反発しているように、ユーロ圏の経常黒字に裏打ちされた実需のユーロ買いは根強いものがあります。したがって、当面のユーロの予想されるレンジは、下落後の反動を見積もって、1ユーロ=1.33ドル-1.41ドルと少し広めに考えています。  ユーロ/円については、日本が消費増税後に景気が落ち込むようなことになれば、株安によってクロス円が下落するというリスクがあります。その場合は、1ユーロ=135円程度の下値はあってもおかしくありません。 ――その他、注目されている通貨ペアは?  カナダ/円に注目するタイミングだと思っています。カナダは利下げ観測が出たことなどによって、1カナダドル=90円程度にまで下落しました。  ただし、米国がテーパリングから利上げへと動く中で、カナダが利下げに動くとは考えにくいと思います。住宅市場は引き続き好調を維持していますので、逆張りで押し目の90円台を拾っていけば、少し長い目でみて1カナダドル=100円が狙っていけると思います。(編集担当:徳永浩)
米国の金融政策を担うFRB(連邦準備理事会)の新議長にイエレン氏が就任して初のFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、新しい動きが始まった。外為どっとコム総合研究所の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏に、米ドルの動きを中心にして、当面の為替相場の見通しについて聞いた。(写真はサーチナ撮影)
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2014-03-28 18:15