ドル円は109円近辺で踊り場、トルコリラの下値リスクを意識=外為どっとコム総研

 1ドル=110円にタッチするような急速なドル高・円安になった4月のドル/円相場だが、今後もドルが強い基調を維持するのだろうか? 米中貿易戦争を材料に1ドル=104円台の円高に進んだ3月に「政治が外為市場に与える影響は短期間。ドルが買い戻される」と見通した外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、109円台から一段のドル高には慎重な見方を示した。神田氏の見通しは以下の通り。  ――1ドル=110円にタッチするような急速なドル高・円安になった背景は?  ひとつには、米中貿易戦争と呼ばれる摩擦に対して、中国が大人の対応を取ったことによる米中の関係悪化懸念の後退がある。中国の習近平国家主席がアジアフォーラムにおいて、自動車関税を年内にも引き下げると発言した効果は大きかった。  また、北朝鮮を巡る懸念が後退したことも大きい。南北会談が融和ムードの中で行われ、北朝鮮から「非核化」について前向きな発言があったと伝えられたことによって、米朝会談での良い結果への期待が高まった。  そして、もっとも効果が大きかったのは、米国のインフレ率が目標の2%に迫り、長期金利が3%台に乗せてきたことだ。FRBが注視しているPCEコア・デフレーターの前年比は1.9%となり、目標にほぼ到達している。トランプ政権の大型減税、インフラ投資の拡大などの政策は財政悪化につながりインフレ率を押し上げる効果がある。今後も米長期金利は上昇基調を維持するだろう。  この他にもユーロ圏や英国では、経済指標が景気の鈍化を示すものとなり、金融正常化に向けた利上げの期待感が後退し、ユーロ安、ポンド安が進むことになった。  日本でも日銀の展望レポートでインフレ率2%を達成する目標時期として記載していた2019年という期限が削除された。日銀の意図は想像するしかないが、緩和政策が長期化するとみなされて、円安の要因になった。  1ドル=110円にタッチするほどのドル/円の上昇は、このような様々な要因が重なった結果だと思う。  ――今後のドル/円の展望は?  1ドル=104円台半ばから110円まで上昇したが、この先の目標になるのは、年初の高値113.30円を超えるかということになる。  テクニカル的には、現在、200日移動平均線や52週移動平均線という長期の移動平均線が下降中で110.20-30円近辺にある。当面は、この水準を抜けることができるかどうかがポイントになる。  ドル高が持続するかどうかは、米国債利回りの上昇が続くかにかかってくるが、これまでに3%台へと上昇した長期金利は、年3回の利上げを織り込んだものだ。一段の金利上昇が実現するには、4回以上の利上げが見えてこないと難しい。雇用統計や消費者物価指数などで、年4回以上の利上げを正当化するような一段と強い数字が出てくるかというと、それは厳しいのではないかと思う。  また、これまで進んだドル高によって新興国経済を圧迫する懸念も出始めている。かつて、バーナンキショック、チャイナショックなどは米国の利上げ局面に起こっている。このようなショックに対する懸念が、一段のドル高を抑制する可能性もある。  当面は110円を超えて一気にドル高が進むような環境にはないと考える。ドルが上昇する過程の中の踊り場的な局面を迎えている。次の動きは6月中旬のFOMCを経て後のことになりそうだ。1ドル=107.50円~110.50円の間でもみ合う展開を予想する。  ――ポンド/円が大きく動いている。1ポンド=153円台から147円台にまで下落したポンドの行方は?  ポンドは5月利上げ期待が高まったことと、武田薬品工業によるアイルランドのシャイアー買収の見通しが重なったことで、4月前半にはポンド高が進んだ。ところが、4月17日に発表された英雇用統計で週平均賃金の伸び率が弱く、翌18日の消費者物価指数の伸びも事前の予想を下回ったことで、利上げ期待が一気に後退した。カーニーBOE(英中銀)総裁も「利上げは5月でなくても良い」と発言し、1-3月のGDPも弱かったことで、英国の5月利上げは、ほぼ消滅した格好になっている。  実際に市場の評価は、4月16日時点では英5月利上げの織り込み度が96%を超えていたが、5月4日時点では10.6%にまで低下した。  ただ、武田薬品によるシャイアーの買収が正式に決まったことで、買収金額である460億ポンド(約7兆円)の何割かはポンド買い・円売りが出る事になる。このフローやフローへの期待からポンド/円は下げ渋ることになるだろう。  5月10日のスーパーサーズデイ(金融政策委員会の議事録発表、インフレレポートの発表、総裁会見)では、利上げ見送りとなるだろうが、ポンドが安くなりすぎるとインフレ率が上昇しやすくなる。強烈なインフレファイターであるBOEは、インフレの芽を摘む行動に出やすい。次回のスーパーサーズデイである8月に向けて、BOEが利上げスタンスを崩す公算は小さいと見ている。現在、英国の8月利上げの織り込み度は50%程度に過ぎないため、BOEの利上げスタンスが確認できればポンドが持ち直す可能性もある。  ポンドは、武田薬品のシャイアー買収資金手当てなどを材料に下げ止まる局面になったと考える。3月安値1ポンド=145円を割り込むようなことにはならないだろう。当面は、145.50円~151.50円を予想する。  ――その他、気になる通貨ペアは?  ドル高の進展が、新興国経済を圧迫する懸念が高まると、投機筋を中心に新興国通貨の売り仕掛けが起こりやすい。狙い撃ちされるのは、インフレ率が高く、経常収支の赤字国だ。トルコは、これらに加えて、低金利主義者のエルドアン大統領の圧力でトルコ中銀のインフレ抑制策(利上げ)が後手に回るとの観測などがあり、ターゲットになりやすいと考える。  米国の利上げ局面では、メキシコペソが暴落した1994年の「テキーラ・ショック」や、1997年のタイバーツ急落が引き金となった「アジア通貨危機」など、新興国ショックが起きるケースがある。国際投資家の資金が新興国から米国に向かう事で資金流出懸念が高まるためだ。  資源輸入国であるトルコでは原油高も経常赤字拡大要因となるため不安材料となりやすい。先日、トルコ中銀は利上げを行ったが、4月インフレ率は10.85%と高止まりしている。次の中銀理事会は6月7日だが、6月24日の総選挙・大統領選挙の直前とあって、エルドアン大統領に配慮して利上げできないとの観測が根強い。  すでに対ドル、対円で史上最安値を更新しているトルコリラは、下値のメドも立てにくい。トルコリラ/円相場も下値リスクを意識しておくべきだろう。25円の節目を割り込めばストップロスを誘発して下げが加速する可能性もある。
外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、109円台から一段のドル高には慎重な見方を示した。
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2018-05-09 11:30