歯を削りたくない人に朗報、画期的なむし歯治療「ＫＥＳＳＬＥＲＳ」とは？

　インプラント治療の普及によって、安易に歯を抜くケースが多くなり、近年、その治療によるトラブルも増えている。この現状に対し、黒木歯科医院の黒木克哉博士（インディアナ大学歯学部歯周病学インプラント科客員講師）は、「歯科医師はもう一度原点に戻り、歯牙の寿命を出来るだけ延ばし、喪失を防ぐ為の最善の治療方法を考え直すべきである。患者さんは歯を削ったり失いたくないと誰もが思っているはずです」と語り、歯牙の寿命を延ばすことができる新しいむし歯治療法「ＫＥＳＳＬＥＲＳ」を考案した。（写真は、黒木歯科の黒木克哉博士。黒木歯科提供） 黒木博士は、２０１４年４月４日に京都で開催されたＴｈｅ　２ｎｄ　ＡＳＩＡＮ　ＣＬＩＮＩＣＡＬ　ＣＯＮＧＲＥＳＳ（ＡＣＣ２）で、「ＫＥＳＳＬＥＲＳ」の有効性について初めて発表した。 　現在、むし歯の診断は、目視かレントゲンによるものだが、この方法では初期むし歯が発見できないため、はっきり判断できない場合は、経過観察という措置がとられている。虫歯は目に見えないバクテリアが引き起こすのに、今までは目に見えるものしか治療してこなかったのだ。このため、すべての初期むし歯が放置され（隠れ虫歯）、ある程度まで進行したむし歯しか治療されてこなかった。その結果、むし歯治療には歯をドリルで削って大きな穴をあけることが当たり前になっている。 「むし歯は一度始まると自然治癒はない。また、削った歯は元には戻らないため、どんどん削ると、神経までいってしまい、神経を取ると歯が弱って、将来的に歯を抜く可能性がかなり高くなってしまう。なんともったいないことをしてきたのだろう。残念だ」と、黒木博士は歯を削らないむし歯治療法を求めてきた。 　そして、「歯の寿命を延ばすには歯の神経を取らないことであり、歯の神経を取らない為には出来るだけ歯をドリルで削らないことである」と考え、今まででは発見不可能であった極初期段階のむし歯を発見し、歯を全く削らなかったり、できるだけ歯を削ることなく治療する方法を求めて、「ＫＥＳＳＬＥＲＳ」にいたったという。 　「ＫＥＳＳＬＥＲＳ」は、診断、治療、予防の３段階で成り立っている。 まず、診断にあたっては、むし歯菌が作り出すポルフィリンという化学物質がある波長の光に蛍光反射する原理を用いた「むし歯スキャナー」によって、むし歯の進行度合いを測る。「むし歯スキャナー」を使うと、「なんと今まで見えていなかった隠れ虫歯が見えてしまうのだ。こんなに虫歯が隠れていたとはビックリさせられる」という。やむを得ず歯を削る場合も専用メガネを使うことで、むし歯の部分だけが蛍光反射するため、必要以上に歯を削ることもなく、むし歯の取り残しをすることもない。従来では目に見えていないものを感覚的に削っていたのだ。 また、レントゲンを使わずに近赤外線を用いて歯の中をレントゲンよりもより鮮明に透視することができる機械を使うことによって、歯に穴が開く前にむし歯を発見し、歯を削らずに治療することもできるようになった。 　治療にあたっては、オゾンガスを用いて１分間で虫歯の原因のバクテリアを直接やっつけることで、初期う蝕（Ｃ１）、一部の象牙質う蝕（Ｃ２）などの処置を、まったく歯を削ることなく治療できる。やむをえず歯を削る場合でも従来よりも少なく削ることが出来るようになった。そして、歯の再石灰化も期待出来るそうだ。 　予防は、オゾンガスが１０分間で口の中のすべての細菌を瞬時に殺菌する効果を利用。その後、口腔内全体へのプロバイオティクス（善玉菌）の利用によって常在細菌叢を健全化し、虫歯や歯周病になりにくくする。同時に、リン酸塩、カルシウム、および、フッ素のようなミネラルを供給することで歯の再石灰化を促進し、歯のキズなどの修復を図ることもできる。今までの予防歯科とは違って、口の中のバクテリアに対応していくという新しい発想の予防法になっている。 　黒木博士は、「ＫＥＳＳＬＥＲＳは従来の歯科医師が治療対象としてきたむし歯を早期発見することで歯牙を守り、口腔内疾患の予防を行い、歯牙の喪失を防ぐことが可能になった。また同時に、歯原性菌血症をも予防することにより、全身疾患を予防することも可能になるだろう」と語り、「ＫＥＳＳＬＥＲＳ」の普及に努めたいとしている。（編集担当：八木大洋）