2013年香港10大ニュース<前篇>=香港ポスト

2013年は梁振英政権が発足から1周年を迎えたものの、行政会議メンバーや高官のスキャンダルは相次ぎ、政策もさまざまな障害に阻まれるなど不安定な施政が続いた。普通選挙問題ではセントラル占拠や米英の干渉など不穏な動きが持ち上がる中で公開諮問が始まった。また人民元国際化の進展で香港の優位性低下も懸念され始めた。今年の主なニュースを振り返る。
❶ 行政長官の普通選挙問題 セントラル占拠や米英の干渉も
3月の全国人民代表大会会期中に2017年の行政長官選挙をめぐって物議を醸した。全国政協の兪正声・主席は香港・マカオの政協委員と会談し、行政長官選挙について「中央に敵対する勢力が執政すれば香港や国家にとって好ましくない」と述べたほか、普通選挙の実施が認められた17年の選挙では民主派候補をふるい落とすため選挙委員会による予備選挙が設けられるとの見方が浮上した。
中央を刺激した動きの1つが民主派勢力の計画しているセントラル占拠行動だ。これは香港大学法学部の戴耀廷・副教授が1月末に提唱したもので、普通選挙実現に向けて政府が譲歩しない場合は市民を動員しセントラルを占拠するという計画。民主派議員もこれに合わせて3月に「真普選連盟」を発足した。
普通選挙をめぐっては米国と英国による干渉も取りざたされている。7月末に着任したクリフォード・ハート在香港米国総領事が政界関係者と頻繁に接触しているほか、英国のヒューゴ・スワイヤー国務大臣が普通選挙について「支援を提供する」との論説を発表。梁振英・行政長官や国務院外交部が内政干渉と強く批判した。10月にはセントラル占拠の発起人らが台湾に赴き元民進党主席らと会談。台湾独立勢力を引き込みセントラル占拠が過激化することも憂慮された。
12月には公開諮問文書が発表され、普通選挙をめぐる公式な議論も始まった。
❷ 人民元の越境利用が拡大 香港の優位性が脅かされる
中国証券監督管理委員会は3月、中国本土の証券市場に海外からの人民元建て投資を認める人民元適格海外機関投資家(RQFII)の規制緩和を発表。これまで本土のファンド運用会社と証券会社の香港子会社に限られていた試行機関は、本土の銀行・保険会社の香港支店・子会社、それに香港を登記地・主要事業地とする金融機関にも拡大した。香港との協力で金融改革を試行する深セン市の前海深港現代サービス業合作区では、香港の金融機関による人民元の越境融資が始まるなど、香港の人民元オフショア業務は順調に拡大している。
だがRQFIIは台湾、英国、シンガポールにも開放されることになった。10月に英国ロンドンに800億元のRQFII投資枠が認められたほか、中英は人民元と英ポンドの直接取引で合意。続いてシンガポールにもRQFIIの投資枠として500億元を認め、香港でも認められていない人民元適格国内機関投資家(RQDII)のシンガポール市場への投資を試行することも示唆された。中国の国家戦略による人民元国際化が進展を見せるにつれ、香港の優位的地位が揺らいでいる。
9月には上海自由貿易試験区が設置され、人民元の資本取引で自由を先行実施することが計画されているなど、香港にとって脅威になるとみられている。
❸ 香港の競争力が低下 政治的対立による疲弊に懸念
中央の対香港政策を主管する全国人民代表大会の張徳江・常務委員長は4月、財界基盤の立法会議員からなる香港経済民生連盟の訪問団と会見した際、香港経済の優位性低下に警鐘を鳴らした。周辺国・地域が発展を遂げる中、香港は昨今の政治的対立による疲弊で経済競争力が低下していることを中央が憂慮しているとみられている。
スイスのビジネススクール、IMD(国際経営開発研究所)が5月に発表した「国際競争力報告書」で、香港の競争力は昨年の1位から3位に後退した。中国社会科学院がに発表した「2013年中国都市競争力青書」では香港が11年連続でトップとなったものの、競争力減退への懸念も示された。
葵涌コンテナターミナルでは3月から40日にわたって港湾作業員によるストライキが行われ、香港のコンテナ取扱量は深センに抜かれることとなった。
ストではターミナル運営会社の親会社である長江実業の李嘉誠・会長に批判の矛先が向けられたが、民主派がかねて掲げている「不動産覇権の打倒」と結びつけるなどの政治目的との見方が濃厚となっている。
❹ 不動産市場の冷却化 抑制策に緩和・撤回の声
特区政府は2012年10月、短期的な住宅転売を抑制するための印紙税の税率を引き上げたほか、香港永住者以外に適用する購入印紙税を導入。さらに13年2月には住宅・非住宅物件ともに転売抑制のための印紙税の負担を倍以上に引き上げた。これによって過熱していた不動産市場では冷却化が進んだ。
曽俊華・財政長官は8月、立法会議員に不動産市場抑制策をできるだけ早く可決するよう求めた。抑制策は実のところまだ立法会を通過していない。そんな中で社会の一部や議員からは撤回や緩和の要求が上がっているため、曽長官は抑制策が法的地位を得ていないことの危険性を示した。
不動産取引の減少から業界では人員削減も行われ、立法会に抑制策を否決させるための署名運動やデモも行われた。財界基盤政党は抑制策が修正されなければ反対票を投じると表明、議会の圧力も高まっている。
10月には住宅価格指数が2カ月連続で下落したが、まだ返還バブルのピークより42%も高く、政府は抑制策を緩める意思のないことを再三示している。
❺ 公式貧困ラインを設定 香港市民の2割が貧困
梁振英・行政長官は9月、低所得層への支援を検討する扶貧委員会のサミットで特区政府として初めて設定する貧困ラインを発表した。これによると香港の貧困人口は131万人、貧困率は約2割に達する。
梁長官は低所得層支援と高齢者福祉を住宅問題に並ぶ施政の柱に掲げ、扶貧委員会の設置、高齢者向け医療費補助の倍増、交通費手当の条件緩和、新たな高齢者向け生活保護などの民生改善策を打ち出してきた。今回の貧困ライン設定は、過去の政権でなおざりにされてきた貧困対策に本腰を入れる表明でもある。
政府は貧困ラインを1カ月の世帯所得中位数の50%に設定。2012年末の統計に基づくと、貧困人口は54万世帯で計131万人、人口に対する貧困の割合は19.6%となる。政府は今後、定期的にラインを下回る市民の所得や人数の統計を発表、貧困対策の成果を確認する目安とする。
高齢化対策では新たな高齢者向け生活保護が立法会で暗礁に乗り上げかけたものの、予定より1月遅れの4月に施行。これに続き10月からは老後を広東省で過ごす便宜を図る「広東計画」も実施された。(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝 編集担当:水野陽子)
2013年は梁振英政権が発足から1周年を迎えたものの、行政会議メンバーや高官のスキャンダルは相次ぎ、政策もさまざまな障害に阻まれるなど不安定な施政が続いた。普通選挙問題ではセントラル占拠や米英の干渉など不穏な動きが持ち上がる中で公開諮問が始まった。また人民元国際化の進展で香港の優位性低下も懸念され始めた。今年の主なニュースを振り返る。
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2013-12-23 10:30