中国の流通業界、拡大する消費市場をしり目に生き残りをかけた戦い
中国の消費市場は年率10%以上成長しているにもかかわらず、中国の主要な小売業は「生き残りをかけた大きな曲がり角を迎えている」という。野村総研(上海)の事業・経営戦略グループグループマネージャーの郷裕氏は、「2014年は中国の流通業界で、さらなる生き残り競争が予想され、勝ち負けが一層鮮明になる」として、中国における百貨店、家電量販店、GMS(総合スーパー)などの流通業界の変革に注目を促している。
中国の消費市場を表す「社会消費品小売総額」は、2004年以降一貫して中国GDPを上回る成長率を維持し、GDP成長率が7%台に低下した2013年においても2ケタ成長を維持している。2013年第3四半期成長率は前年同期比で13.4%だった。中国の消費の伸びは好調だ。ところが、百貨店業界の成長率は7.4%、GMSは7.8%と伸び悩んでいる。まして、収益性においては、主要百貨店42社中、半数が純利益減(2013年上半期決算)。またGMSの粗利益率は2013年第3四半期において前年同期比1.8%ポイント減など、苦戦ともいえる状況になっている。
消費市場全体が伸びている中で、流通業の業績拡大にブレーキがかかっている理由について、野村総研(上海)の郷氏は、同社も協力している「中国商業十大ホットイシュー2014」(発表は中国商業連合会)に基づいて分析した。郷氏が指摘したポイントは以下の通り。
■「三公消費」縮小、「自主消費」「理性消費」拡大で変わる消費
2013年の中国消費市場は、中央政府による一連の公費抑制策「倹約令」などによって、「三公消費(公費による外遊、接待、公用車の購入)」の大幅な縮小が大型百貨店のギフト需要や飲食業の減速をもたらした。また、家電などの普及を後押しする補助金などが打ち切られたことによって、政策等に依存しない「自主消費」が拡大するという傾向がみられた。さらに、安価なネット通販(EC)での購入など合理的で実用性を重視した「理性消費」といわれる傾向も強まってきた。
ECについては、2011年に取引額が7845億元だったものが、2012年には1兆3030億元(66%増)、2013年には1兆8500億元(42%増)予想と高い成長を続けている。その中で、スマートフォンの普及による「モバイル通販」は2013年に1676億元(予想)と前年比2.5倍超の成長と急拡大している。このEC市場の拡大は、中国最大のチェーンストア「蘇寧電器」が「蘇寧雲商」に社名変更しEC事業を積極的に展開し始めていることからもわかる。
また、百貨店やGMSなどが苦戦し、ウォルマートが3店舗を閉鎖、ロータスが8店舗を閉鎖など成長が鈍化していることと比較して、コンビニ、ミニスーパー、ドラッグストアなど小型店業態が成長していることも特徴だ。2013年第3四半期にはコンビニの売上高成長率は13.3%と伸びている。
■家賃・人件費の大幅な増大が収益を圧迫
一方、流通業界の業績悪化は、「家賃」「人件費」の2大コストが大幅に上昇している。家賃については、90年代に契約された多くの店舗リース契約(主に15年-20年)が更新時期を迎え、家賃が倍増するようなケースが相次いでいる。たとえば、TESCO上海鎮寧店は2012年5月のリース契約満期にあたって52万元だった賃料を174万元への引き上げを提示され閉店した。小型店舗の場合には、3年-5年の契約期間が一般的だったが、北京のショッピングモールなどでは1年で契約更新を求められるようになり、更新のたびに賃料の引き上げが行われ、収益を圧迫している。
人件費については、2012年に小売企業の人件費が20.5%上昇したが、「五険一金」と呼ばれる社会保険料の企業負担が増加する傾向にある。
さらに、2014年3月15日に施行された新「消法」(中華人民共和国消費者権益保護法)によって、企業が負担するコストが増大する。たとえば、「無理由返品制度」は通販で商品を受け取ってから7日以内であれば、理由なしで返品することができ、通販事業者は「修理・交換・返品」に責任を持つとされた。この他にも、商品紛争処理では以前は消費者の側に証拠提出が求められていたものが業者に立証責任が求められる「挙証責任転換」が実施され、「覇王条項(消費者に一方的な不利益をもたらすような契約条項)」の徹底排除も実行された。
■ビジネスモデル変革が求められ、優勝劣敗が鮮明に
このような状況を分析し、郷氏は、「政策による消費刺激は当面考えにくく、家賃や人件費の高騰などについては政府が手を打てていない、また、新『消法』など企業の負担増につながる施策は今後も増加してくることが考えられるため、従来の経営を超えた売上高を伸ばすビジネスモデルの構築を実施することが、今後の成長へのカギになる」と指摘する。
具体的には、アリババが展開する「天猫(T-Mall)」が蘇寧グループなどを抜いて中国流通業のトップに立つなど急速に拡大するECとの融合を進める「オムニチャネルモデル」の推進。また、プライベートブランドの強化など、自ら企画・開発・売り場作りをする「自主運営モデルの強化」。そして、「小型店業界の強化」など、新たな社会ニーズに合致した店舗戦略の推進など。このような新しい時代に対応した戦略の立案や効率的な店舗運営を実行するための人材の確保も重要な経営課題になると指摘している。
そして、郷氏は「2014年は大手各社がビジネスモデル改革に取り組むものの模索状態が続くだろう。さらなる生き残り競争が予想され、勝ち負けが一層鮮明になってくるだろう」と見通している。(編集担当:徳永浩)
野村総研(上海)の事業・経営戦略グループグループマネージャーの郷裕氏は、中国における百貨店、家電量販店、GMS(総合スーパー)などの主要業態の変革に注目を促している。
china,economic
2014-04-11 19:45