米中貿易戦争は大阪G20まで待機状態か? 外為オンライン佐藤正和氏

 米中貿易交渉が行き詰まるなかで、互いの政府が報復合戦を繰り広げている――そんな状況の中でイランや北朝鮮をめぐる地政学リスクも高まってきている。EU(欧州共同体)の欧州議会選挙でも親EU派だけで過半数を取れないなど、新たな火ダネが次々に沸き起こっている・・・。そんな状況の中でも「円」はなかなか動かない。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に6月の為替相場の行方をうかがった。  ――米中貿易交渉が激しさを増していますが・・・?  この6月1日には、中国が米国に対して600億ドル相当の関税を25%に引き上げました。さらにトランプ米大統領は、残り3000億ドル分の対中輸入品すべてに対して、25%の関税をかける準備を指示しています。 そして金融市場を驚かせたのは、メキシコが米国への不法移民を放置しているとして、メキシコからの対米輸入品すべてに対して5%の関税をかけると発表したことです。まさに「貿易戦争」の拡大に歯止めがかからず、暴走し始めたと捉えた投資家も少なくありません。 その影響もあって米国株が大きく下げるなど、変動幅の大きい相場になっています。こうした状況は今後も続くことが予想され、とりあえず6月28日-29日に大阪で行われるG20サミット(主要20カ国首脳会議)で、トランプ大統領と習近平国家主席による直接会談によって、貿易交渉解決の糸口を見つけるしかない状況と言えます。  ――「ファーウェイ」の問題も貿易交渉の中に入ってきましたが・・・?  トランプ大統領が、中国大手通信会社「ファーウェイ(Huawei)」製品の使用を幅広く禁止する措置をとったことで、米中貿易交渉にさらなる不透明材料をもたらしました。次世代通信「5G」の主導権争いとも言われますが、 ファーウェイの製品は米国の通信設備にも幅広く使われており、米国側にもリスクのあるディール(交渉)になりつつあります。  気になるのは比較的穏やかだった中国の姿勢が、ここにきて「交渉する気はない」といった強い言動が目立ち始めていること。レアアース(希土類)の対米輸出を制限する動きも見えており、様々な手段で米国に圧力をかけ始めたことです。  米中ともに「相手が折れてくる」と思っていることが、貿易交渉をより複雑にしていると言っていいかもしれません。G20でトップ同士が直接対決したとしても即解決というわけにはいかないかもしれません。  ――トランプ大統領が来日して日米貿易交渉もスタートしました、その見通しは?  日米交渉は、トランプ大統領のツイッターによって、8月の日本の総選挙終了まで結論を先送りにすることが明らかになりました。日本側のトランプ大統領に対する接待も異常でしたが、日米貿易交渉も裏取引があったのではないかと報道されています。  いずれにしても米国は強気で来るはずですし、農産物や自動車にスポットを当てた厳しい交渉になることは間違いないと思います。対米輸出品への関税引き上げも、場合によってはあるかもしれません。  莫大なコストをかけて戦闘機を買い入れたことがプラスになるかどう・・・。日米貿易交渉の行方は当然ながら、ドル円が動く要因になります。結論がわかるまでは円高要因が強まる可能性があります。  ――6月は大阪でG20がありますが、為替市場への影響は?  G20の前に注目したい景気指標がいくつかあります。たとえば、6月7日には5月の米国の雇用統計が発表されます。米国景気は好調ですが、相変わらず3カ月物の米財務省証券(TB)が10年物米国債の利回りを上回るなど、金利の長短逆転現象いわゆる「逆イールド」が続いており将来の景気後退懸念が払拭されません。  またFOMC(連邦公開市場委員会)が6月18日-19日に行われる予定ですが、いまや「利下げ」の可能性に言及するFRB(連邦準備理事会、FEDとも言われる)理事も増えており、今後は金融緩和への傾向を示す「ハト派」にシフトしていく可能性が高いと思われます。日本銀行の金融政策決定会合も6月19日-20日の2日間に渡って行われますが、大きな変化はないと思われます。  一方で注目したいのが、やはり6月最大のイベントである大阪「G20」です。最も注目されるのは米中貿易交渉の行方ですが、いまや貿易交渉というよりも「貿易戦争」の様相を呈しており、G20で決裂した場合のシナリオも頭の中に入れておくべきかもしれません。トランプ、習近平の直接交渉の行方次第では想定外の円高があるかもしれません。  ――EU議会でもポピュリズム会派が躍進しています。その影響は・・・?  5月23日-26日にかけて行われた5年に1度の「欧州議会選挙」が注目を集めています。欧州議会というのは加盟国の人口比率によって議席数が決まっていますが、これまでと大きく異なりEU懐疑派もしくは民族主義派など、いわゆるポピュリズムを主張する会派が躍進したことです。これまで最大の会派を作っていた親EU派の2会派が、大きく議席を減らしたため、EU懐疑派の発言力が増すことになります。今後のEU運営に大きな影響をもたらすかもしれません。  さらに、ブレグジット(EU離脱)に揺れる英国でもメイ首相が6月7日に辞任すると発表。7月には次期首相が決まるはずですが、メイ首相辞任に伴う保守党の党首選挙をめぐって英国ポンドが大きな変動幅を見せるかもしれません。  ――6月の予想レンジを教えてください。  米国経済や中国経済の動向によって多少のブレは覚悟する必要があります。さらに豪ドルは利下げの可能性もあるため、豪ドルに投資している人は要注意です。6月の予想レンジは次の通り。 ●ドル円・・1ドル=107円-110円 ●ユーロ円・・1ユーロ=120円-125円 ●ユーロドル・・1ユーロ=1.09ドル-1.13ドル ●ポンド円・・1ポンド=135円-145円 ●豪ドル円・・1豪ドル=74円-79円  ――6月相場の注意点を教えてください。   クラリダFRB副議長が述べた「 インフレ率はFEDの予想より低くなっている」といった発言が、ハト派だったと受け止められ、将来の金融緩和を連想するものとしてややドル安が進みました。相変わらず逆イールドの拡大も進んでおり、市場は徐々に利下げを意識した動きを示すようになっています。  とはいえ米国経済の雇用は安定しており、住宅市場もようやく底値を示す指標も出て来ています。米中貿易戦争の行方次第ではありますが、現時点で利下げを前提としたポジションを作るには時期尚早ではないかと考えています。  いずれにしても6月はそれほど大きな変動はないかもしれません。イランや北朝鮮の地政学リスクが落ち着いてさえいればという条件付きですが、今月は相場の行方を見極める時期と言って良いかもしれません。(文責:モーニングスター編集部)
「円」はなかなか動かない。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に6月の為替相場の行方をうかがった。
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2019-06-03 10:45