一転してドル売りへ! 節目は変わったのか? 外為オンライン佐藤正和氏

1日あたりの感染者数が、日本全体で1200人を超えるなど、新型コロナウイルスによる感染拡大の第2波が濃厚になってきた。世界でも、感染者数の累計が1700万人を超えるなど、依然としてウイルス拡大の勢いは止まっていない。そんな中で、ずっと続いていた有事の「ドル買い」が一転して「ドル売り」に転じてきた。本来であれば、市場も夏休みを迎える季節だが、今年はその状況が大きく変わりそうだ。外為オンラインのアナリストの佐藤正和さん(写真)に8月の為替相場の行方をうかがった。
――ここにきて急に円高が進みましたが、その背景は?
7月の4連休の間に、今年の3月13日以来となる1ドル=104円台を付け、急速に円高が進みました。その背景には互いの領事館の閉鎖を命じるなど、滅多に経験することのないステージにまで進んでしまった米中関係の悪化があります。
ドル売りの直接のきっかけは、7月21日に5日間に及ぶマラソン会議を経てEU(欧州共同体)が7500億ユーロ、約92兆円規模に相当する「復興ファンド」創設の合意が成立したことです。結果的にユーロが買われ、相対的にドル安が進んだわけですが、その他にもドル売りの要素が重なったと言っていいでしょう。
たとえば、相変わらずコロナ感染拡大の先が見えず経済の先行きが厳しい現実があります。加えて11月に行われる米国大統領選挙も不透明感が高く、米中関係悪化も厳しい状況にあります。これらの要素が重なって長期金利も下落傾向にあり、当面ドル買いの魅力が低減した結果、ドル安が進んだと考えていいでしょう。
――ドル安に連鎖する形で、「金」や「仮想通貨」が買われていますが?
ドル安以降の金融市場を見てみると、明らかにリスク回避モードに入ったと考えていいでしょう。アメリカの長期金利は0.6%を割り込み、30日には0.53%台まで低下し、過去最低を更新しています。
加えて、金価格は史上最高値を更新し続けており、2000ドルに届く水準にまで近づいています。ビットコインなどの仮想通貨も大きく上昇しており、WTIの原油先物価格も高水準で推移しています。
ドルが売られる時に買われることの多い、これら金融商品の動きを見ても、金融市場全体がリスク回避モードに動きつつあると考えて良いでしょう。ただナスダックなど一部の米国株式市場では、相変わらず強気の売買が続いており、今後の動向が注目されます。
――8月はどんな相場になりそうでしょうか?
7月28-29日行われたFOMC(連邦公開市場委員会)では、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標レンジを、現行の0-0.25%に据え置くことをきめ、パウエル議長は会見で「(今回の景気低迷は)我々が経験したことのない厳しさ」であるとして、景気はウイルス次第であり、金融・財政両面での支援が必要だと強調しました。当面はこの状態が続く、ということです。
本来であれば、8月は夏休みのため欧米を中心に投資参加者が減少して、比較的流動性の低い、変動幅の大きな相場になりがちですが、今年は夏休みだからと言って投資家の数が減少するとは限らず、実際にどうなるのかは不透明です。むしろ、新型コロナの第2波がどんな状況になっていくのか、全国規模のパンデミックにまで拡大してしまうのか・・・。そうなった場合の円相場がどうなるのか、判断は難しいところです。
ただ、8月はもう少し円高が進む可能性が高いのではないでしょうか。米国の長期金利はFOMCで分かったように当面ゼロ金利が続き、少なくとも2020年末までは金利で稼ぐことができないために、株式や金、原油といったキャピタルゲイン狙いの投資が活発になるはずです。
――8月の各通貨の予想レンジは?
復興ファンドの創設が決まったEUでは、当面はユーロが買われる可能性が高いと思います。ただ、米国も中央銀行であるFRB(連邦準備制度委員会)が、9月までの予定だった「緊急融資プログラム」を3カ月延長させて今年末まで継続することになり、さらに民主党は3兆ドルの経済支援を打ち出しています。米大統領選挙もあと100日を切り、大統領選挙に合わせて米中関係はさらなる悪化も予想されます。今後も何が起きても不思議ではない状況と言えます。8月の予想レンジは次の通りです。
●ドル円・・1ドル=103円50銭-107円
●ユーロ円・・1ユーロ=122円-126円
●ユーロドル・・1ユーロ=1.1650ドル-1.2ドル
●英国ポンド円・・1ポンド=133円-138円
●豪ドル円・・1豪ドル=74円-76円50銭
――8月相場で注意する点を教えてください。
市場参加者は通常の月よりは少なくはなるとは思いますが、それでも全体の流れは「円高」と考えられます。1ドル=107円台に戻るのは大変で、そう簡単には戻らないかもしれません。それでも、円高が「1ドル=103円50銭」程度まで進んだ時は円買いと考えても良いのではないでしょうか。
いずれにしても、最悪のシナリオを常に頭に入れながらトレードすることが大切です。最悪のシナリオとは、たとえばコロナの新規感染者が日本全体で1日2000人程度まで増えてしまう、あるいは来年のオリンピックが中止決定・・・、といったところでしょうか。どちらも、経済に与えるインパクトは極めて厳しいものがあります。
その時点で、円が売られるのか、あるいは買われるのか・・・。緊張感をもって、市場をまめにウオッチすることです。(文責:モーニングスター編集部)。
ずっと続いていた有事の「ドル買い」が一転して「ドル売り」に転じてきた。本来であれば、市場も夏休みを迎える季節だが、今年はその状況が大きく変わりそうだ。外為オンラインのアナリストの佐藤正和さん(写真)に8月の為替相場の行方をうかがった。
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2020-07-31 10:15