米大統領選、どちらが勝っても円高か? 外為オンライン佐藤正和氏

 いよいよ米国の大統領選挙が11月3日に迫ってきた。トランプVSバイデンの戦いは、まったく予断の許さない緊迫したものとなっているが、いずれにしても為替相場を始め株式市場や債券市場で大きな変動幅が予想される。加えて、スペインやフランスでは外出規制などが再開され、パンデミック第2波の様相を呈してきた。波乱に満ちた為替相場になることが予想される11月の動向を外為オンライン・アナリストの佐藤正和さん(写真)にうかがった。  ――いよいよ米国大統領選挙ですが、注目すべき点はどこになるのでしょうか?  支持率では劣勢のトランプ現大統領が4年前同様に逆転勝利するのか、あるいは予想通りにバイデン候補が勝利するのか・・・。こればかりは蓋を開けてみないと分かりません。問題は、その結果がいつごろはっきりするのか、ということがポイントになると考えられます。本来であれば、日本時間で11月4日の正午ぐらいには大勢がハッキリすることが多いのですが、今回は郵便投票問題やトランプ大統領が負けを認めない可能性などが指摘されており、その時期ははっきりしません。  ただ、大統領選挙にとって最も重要な激戦区に「フロリダ州」がありますが、これをどちらが取るかで大体の状況がわかるのではないか、といわれています。とりわけ、これまでトランプ優勢が指摘されていた数多くの州でバイデン優勢が伝えられており、仮にトランプが激戦区の重要な拠点であるフロリダ州を落とすようなことがあれば、再選の可能性は極めて低くなるだろうと予想されています。  そのキャスティングボードを握ると言われるフロリダ州ですが、これまで常に選挙の開票でトラブって来たものの、今回はスピーディーな投票集計への改革プログラムを実施しており、きちんと機能すれば日本時間の11月4日の昼過ぎには、フロリダ州の結果が判明するのではないかと報道されています。この時点でバイデン勝利が濃厚になれば、バイデン勝利のシナリオで金融市場は動くものと予想されます。  大統領選の結果は誰にもわかりませんが、個人的には「バイデン勝利、上院は共和党が多数」というシナリオではないかと考えています。「バイデン勝利、上院、下院とも民主党が多数」といった結果になると、こちらは金融マーケットがどんな動きになるのか、判断は難しいところです。  ――選挙の結果によって為替市場はどう動くのでしょうか?  トランプ勝利のシナリオでは、「ドル安円高、株高」が考えられます。もともとトランプ氏はドル安を望んでいるためにドルが売られることが予想されます。トランプ大統領が再選を果たし、35議席が改正される上院選挙で共和党が多数派をとれば、これまでと同じようにドル高円安、株高が続くことになると考えられます。  一方のバイデン勝利のシナリオですが、勝利が決まった直後は「ドル安円高、株高」に振れると思いますが、中期長期的に考えればやはり「ドル高円安」に振れていくと考えています。現在0.78%前後の長期金利は、大規模な追加の景気対策を主張する民主党のバイデン勝利によって、1%程度の水準まで上昇することが予想され、そうなればドル高円安に触れていくものと考えられます。ただ、株式市場はトランプ、バイデンどちらが勝っても上昇するとみる人が多いと思います。  また、どちらが勝利するにしても上院、下院がどういう構成になるのかによって、そのシナリオも大きく変わっていく可能性があります。現在、合意できずに宙に浮いているコロナへの景気刺激策も、選挙後には合意することになると思います。その場合、バイデンが勝利し、下院も民主党が多数をとれば、大規模な財政出動が必要になるため、今度は財政赤字問題がクローズアップされてくるかもしれません。大統領選挙や議会選挙の結果次第では、米国の会計年度が新年度を迎えているため、予算の成立が難しくなって、12月以降、政府機関が閉鎖されるような事態があるかもしれません。  ――心配なのは、欧州など世界各地でコロナの感染者数が増加していますが?  米大統領選の結果にも影響を及ぼしそうな状況が続いています。アメリカでは、記録的なペースで新型コロナウイルスの感染者が増え続けており、ウイルスの脅威を過小評価する発言を繰り返すトランプ大統領の支持率低下につながっていると言われています。  加えて、スペインでは非常事態宣言が発令され、フランスでは1カ月の外出制限が発令されました。近くイギリスでも、何らかの規制が発表されると予想されています。ロックダウン(都市封鎖)を伴う感染爆発第2波がすでに始まっているとみて良いでしょう。  10月28-29日に実施された日銀の金融政策決定会合でも、引き続き新型コロナウイルスに対応した企業への資金繰り支援策や上場投資信託(ETF)の買上措置が継続されることになりましたが、黒田総裁も10月28日-29日の金融政策策決定会合後のインタビューで「新型コロナウイルスへの警戒感が残る。不確実性が高く、下振れリスクが大きい」と語っています。  米大統領選挙と言う不安定要素の高いイベントに加えて、世界中で新型コロナによるパンデミック第2波が始まり、金融マーケットは大きく揺れ動く可能性が高くなっています。変動幅の大きな1カ月になる可能性があります。  ――11月の各通貨の予想レンジは?  せっかくの景気上昇局面でありながら、欧州で始まっている感染拡大再燃は、大きな痛手になる可能性があります。ドルが不安定であることは言うまでもありませんが、ユーロにも目を向けておく必要があるかもしれません。  また米国では大統領選直後の11月4日-5日に中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度)のFOMC(米連邦公開市場委員会)があります。大きな動きはないと思われますが、大統領選挙の動向によって新しい動きがあるかどうか確認しておきましょう。大統領選挙の結果も踏まえて、11月の予想レンジは次の通りです。 ●ドル円……1ドル=102円-109円 ●ユーロ円……1ユーロ=120円-128円 ●ユーロドル……1ユーロ=1.150ドル-1.20ドル ●英ポンド円……1ポンド=130円-140円 ●豪ドル円……1豪ドル=72円-78円  ――11月相場の注意点を教えてください。  やはり大統領選挙が行われる11月3日前後の相場の展開には注意を払いたいものです。4年に一度という大きなイベントでもあり、これまでも指摘したようにポジションを押さえて、様々な結果が出揃ってから動くようにしましょう。  選挙では、速報が随時出されますが、とりわけ今回はトランプ陣営がどんな手を使ってくるのか分かりません。安易に相場の流れを決めて、先走って投資するようなことは避けたほうが良さそうです。  とは言え11月相場は、ボラティリティ(変動幅)が大きくリスクは大きいものの、チャンスもまた大きいと言っていいでしょう。こうした大きなイベントで賢く生き残ることもFX投資の醍醐味であり、魅力でもあります。(文責:モーニングスター編集部)。
波乱に満ちた為替相場になることが予想される11月の動向を外為オンライン・アナリストの佐藤正和さん(写真)にうかがった。
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2020-10-30 14:00