国内の伝統産業をデジタル化で活性化するラクスル、印刷に始まったDX改革がコロナ禍で脚光

 新型コロナウイルス感染症の猛威によって、国内事業が一時的に麻痺することを経験した日本経済だが、デジタルトランスフォーメーション(DX)による非接触型のサービスや社会の仕組みが浸透するとともに、徐々に経済活動が復活しつつある。印刷業界のデジタル化で成長したラクスル <4384> は、広告、物流業界へと広げたデジタル化の技術を、コロナ禍の下でも磨き続け、日本経済に先駆けてコロナ禍から回復し、2020年第4四半期(5月-7月期)には四半期ベースで過去最高の営業利益を出した。同社のデジタル化戦略の現状と今後の展望について、取締役CFOの永見世央氏(写真)に聞いた。  ――前2020年7月期決算は、コロナショックを受けた中での決算でしたが、第4四半期(5月-7月)は急速な業績回復が見られました。コロナ禍でDXが注目されていますが、御社のプラットフォームビジネスもDX進展の恩恵を受けていますか?  当社は、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をヴィジョンとし、印刷、広告、物流といった伝統的な産業をインターネット技術でデジタル化することによって産業構造の変革を促しています。  当社は、EC(電子商取引)/Marketplace(ECプラットフォーム)とSaaS(クラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネット経由でユーザーが利用できるサービス)という2つのビジネスモデルを1つの業界の中で同時に展開し、取引コストと業務コストの効率化を推し進めます。伝統的な産業を生産性・収益性の高い事業に変革することができるのです。  印刷・集客支援事業を効率化する「ラクスル」で培ったノウハウを活用し、テレビCM関連事業の「ノバセル」、そして、運送事業の「ハコベル」へと事業領域を伸ばしています。デジタル化によって事業が活性化できる事業領域を開拓しています。  4月、5月の頃は、非常事態宣言の影響もあって売り上げが落ち込みましたが、5月を底にして6月、7月には大幅に回復しました。「Withコロナ」といわれる3密を避けることをベースにした新しい生活様式を取り入れる中で、インターネットで完結する当社のサービスへの需要は、以前に増して高まってきていると感じます。  ――第4四半期に大きく業績が回復した要因は?  5月の売上高は前年同月比15.5%減でコロナ禍の影響を大きく受けました。6月に前年同月比0.5%増へと戻り、7月は同17.1%増と回復の度合いを強めました。この結果、第4四半期の売上高は48.96億円と前年同期比1.6%増となりました。コロナ前の水準を回復するまでには至っていませんが、概ね平常に戻って成長投資も再開しました。  売上高の回復には、4月~5月に新規投入した新サービスの効果も出ています。「ノバセル」では、広告効果の可視化を行う「ノバセルアナリティクス(Saas)」を4月に提供開始し、すでに30社程度が有償で利用していただいています。このソフトウェアは、放映した広告の反響や効果を分析するもので、この分析をもとにユーザーが最も効果的な広告コンテンツ、時間帯やチャネルで広告投資ができるよう、「ノバセル」では製作から放映までを一気通貫して提供しています。従来は広告会社の担当者の経験を頼りに、この時間帯のこのチャネルで広告を流しましょうという提案されていたのですが、「ノバセルアナリティクス」は、それをデータに基づいて可視化しました。テレビ広告が初めてのお客さまにも非常に分かりやすいと高い評価を得ています。  また、「ハコベル」で導入を広げている運行管理システム「ハコベルコネクト」は、荷主と全国の運送会社を繋ぎ、WEBアプリケーション上で自社の車両、協力会社の車両を管理し、配車、請求管理を行う機能と、ハコベル配車センターへの配車依頼を行う機能を備えています。またマッチングサービスでは、受注した荷物と運んでもらうトラックのマッチングを最適化するため、常にアルゴリズムの改良を重ねています。これらの取組が「ハコベル」事業の売上総利益の向上につながりました。  コロナ禍にあっても、業務の効率化など当社にできることは徹底して実施しています。コスト構造の最適化の結果、第4四半期の営業利益は2.37億円と四半期ベースでは過去最高益となりました。  ――2021年7月期の業績見通しは?  今期中に新型コロナウイルスによる大規模な緊急事態宣言が再発令されないという前提で、売上高は前期比25.6%~30.3%の増収、営業利益は3億円~5億円を見込んでいます。再び新規感染者数が増大する傾向が出てくるなど、コロナ禍は終わってはいません。このため、売上高は過去5年間平均で43.4%の増収を実現してきたものの、今期については慎重な見通しにしています。  また、営業利益については第4四半期に2.37億円の実績があり、通期で10億円程度を創出できる力はついたと考えてはいますが、第4四半期には成長のための広告宣伝等を絞り込んだ状態での営業利益でした。今期は、事業の一段の成長を重視し、一定の投資を継続しつつ、売上高総利益率の改善も図っていきます。  ――今後の成長戦略は?  印刷事業のEC化によって得たノウハウを、広告、運送へと展開し、広告、運送事業の黒字化がようやく向こう1年~2年で実現しそうなところまで来ました。この新しい事業領域は、印刷事業の3兆円市場よりも大きく、国内のオフライン広告市場は約5兆円(地上波テレビ広告市場だけで1.7兆円)、そして、国内トラック物流市場は約14兆円になります。広告も物流も、これまでは人を介した営業や管理が中心で、デジタル化が遅れてきた業種といえます。したがって、これからが成長のチャンスであると考えています。  現在の収益の柱である印刷市場についても、3兆円市場に対してオンライン印刷市場は未だ1000億円程度と全体の3ー4%程度に過ぎません。ドイツでは約30%をオンライン印刷が占めているという例もあります。印刷市場も潜在的な市場は依然大きいと考えています。  広告市場も当面は、テレビCM、交通広告、DM、折り込みなど、当社の得意分野が活かせる約2.8兆円市場を開拓していきますが、当社のTVCM関連事業が得ている約30億円程度の売上高は、わずかな足掛かりを得たという程度に過ぎません。物流市場においては、当社の売上高はまだ約22億円です。現在、ラストマイルといわれる宅配事業がEコマースの拡大の恩恵を受けて大きく伸びています。当社が進める「ハコベルコネクト」を使った効率的な運行管理システムの需要は一段と高まっていくと考えます。  現在、印刷、広告や物流といった伝統的なB2B産業に大きなデジタルシフトの波がやってきています。当社は設立して11年目ですが、先端のテクノロジーを活かして高い付加価値を提供し、産業の高度化、社会の効率化に貢献しています。DX時代にマッチした企業として、より高い成長に向けてチャレンジしていきます。投資家の皆様には、是非、当社の成長力にご期待いただきたいと思います。(情報提供:モーニングスター社)
印刷業界のデジタル化で成長したラクスルは、広告、物流業界へと広げたデジタル化の技術を、コロナ禍の下でも磨き続け、日本経済に先駆けてコロナ禍から回復し、2020年第4四半期(5月-7月期)には四半期ベースで過去最高の営業利益を出した。同社のデジタル化戦略の現状と今後の展望について、取締役CFOの永見世央氏(写真)に聞いた。
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2020-12-02 10:45