2021年の幕開けで為替相場はどうなる? 外為オンライン佐藤正和氏

 新型コロナウイルスによるパンデミックで大きく揺れ動いた2020年が終わり、新たな1年が始まろうとしている。すでにワクチンの接種も始まり、新しい希望も見えつつあるが、北半球がコロナ禍に喘いでいるなか、実際の経済や金融市場への影響はこれからが本番と言う人も多い。はたして来年の為替市場はどうなるのか・・・。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に来年1月の為替相場の動向と2021年全体の行方をうかがった。  ――2021年1月相場で最も注目すべき点は何でしょうか?  やはり、現在北半球が直面しているコロナ感染拡大の第2波が大きなポイントになると思います。ファイザーやモデルナのワクチン接種が始まりましたが、このワクチン接種で感染拡大にブレーキがかかるのか。世界中が注目していると言っても過言ではないでしょう。  そんな中で英国で新型コロナウイルスの「変異種」が発見され、米国やドイツ、フランスにも流入していることがわかり、各国が英国からの入国に制限をかけたと報道されています。  一方で、ファイザーとともにワクチンを開発した独ビオンテックのサヒンCEOが、この変異種に対してもワクチンがおそらく有効だ、と述べており、ワクチンへの期待が残っています。  ――コロナ以外で注目すべき点にはどんなものがあるのでしょうか?  注目すべきは、12月31日に切れる英国のEU離脱に関する通商交渉が最終期限を迎えることです。離脱協定には2020年12月末から最長24ヶ月の延長を認めるオプションがついていますが、すでに延長を可能にする法的根拠がないとも報道されています。英国の株式市場や為替市場に大きな影響が出る可能性があります。  また、注目したいのは米国の上院が本会議の採決でコロナウイルス感染拡大の影響に対して、約9000億ドル(約93兆円)規模の追加経済対策を可決しました。すでに下院でも可決されているため、あとはトランプ大統領の署名を待つだけとなっていますが、署名しないとも報道されており微妙なところです。ただ、同法案は1兆4000億ドル規模の2021年会計年度(20年10月一21年9月)の歳出法案も含まれており成立することは間違いないと思われます。  9000億ドルという金額に対しては少なすぎるという指摘もありますが、追加の経済対策が通過したことで、1人当たり600ドルといった現金給付も再開されることになり、景気対策には効果的と考えられます。1月20日には、バイデン次期大統領の大統領就任式もあり、いよいよバイデン政権が動き始めることになります。追加の経済対策などが機能し、さらにワクチンの効果が出てくるのか。1月はその当たりがポイントになると思います。  ――1月の各通貨の予想レンジは……?  1月に予定されている為替市場に大きな影響をもたらす可能性のあるイベントとしては、いつものように1月8日の米雇用統計、1月26日-27日のFOMC(連邦公開市場委員会)には要注目です。とりわけ、FOMCはバイデン政権に変わった直後になるため、変化があるのかを見たいものです。また、日本銀行の金融政策決定会合も1月20日-21日に予定されており、大きな変化はないと考えられますが、念のため注目しておきましょう。  夏を迎えているため、比較的コロナの感染者数が抑えられているオーストラリアでは、中国との関係は最悪になっているものの、現在は米国の長期金利よりもオーストラリア国債の金利の方が高くなっており、いまや年1%の金利を付けている先進国はオーストラリアぐらいです。鉄鉱石などの商品価格も上昇しており、豪ドル買いの傾向が続くと考えられます。各国の予想レンジは次の通りです。 ●ドル円・・1ドル=102円-105円 ●ユーロ円・・1ユーロ=125円-128円50銭 ●ユーロドル・・1ユーロ=1.2050ドル-1.2300ドル ●ポンド円・・1ポンド=134円-149円 ●豪ドル円・・1豪ドル=76円50銭-79円50銭  現在の為替市場というのは、「リスクオン=ドル売り、リスクオフ=ドル買い」となっており、普段とは逆のメカニズムが定着しつつあります。全体的にみて、「緩やかなドル安」相場が続くとみて良いでしょう。  ――例年、年末年始の為替相場は大きく動きますが、注意すべき点は何でしょうか?  クリスマス休暇中に入っている欧米の相場では、ほとんど投資家が不在になるためにボラティリティー(変動幅)の大きな相場となり、荒れることが多い時期になります。  加えて、今年は12月31日に英国がEUとの離脱交渉の最終期限を迎えます。すでに市場は織り込み済みの部分はありますが、合意なきEU離脱が決まった段階で英国ポンドは売られ、その影響を受けて米ドルが買われます。さらに、その反動で日本円が買われて円高が進むといった構図が見られます。  フラッシュ・クラッシュと言われる市場価格の瞬間的な変動に、今年も注意が必要です。ただ、今年は1月1日が金曜日のため、世界的に年明けの取引は1月4日になるため、日本だけがクローズしているという事態にはなりません。言い換えれば、1月4日の初取引では注意が必要かもしれません。  念のため、ポジションをクローズしたり、縮小するなどの準備をしておいた方がいいと思います。  ――最後に、2021年全体の見通しについて考えをお聞かせください。  やはり、新型コロナウイルス感染拡大の行方次第ではないでしょうか。ワクチン接種によって、感染者数が減少に転ずることが確認できるのか。ワクチンが効果的であることが証明されれば、2021年後半にも経済は復興していく可能性があると思います。  パンデミックの状況がおさまってくれば、米国国債の長期金利が1.0%を超えてくる局面も予想されます。為替相場や株式市場に大きな動きが出てくる可能性があります。  また、2020年との大きな違いは、Twitterひとつで世界中を振り回してきたトランプ米大統領という「不確定要因」がひとつ消えることで、市場はある程度、落ち着きを取り戻す可能性が高いと思います。バイデン政権への期待は高いと思います。  2021年で注目したいもののひとつとしては、米国の新しい財務長官に前FRB(連邦準備制度理事会)議長のイエレン氏が就任する可能性が高いことです。これだけのキャリアと実績を持った財務長官は初めてで、財政健全化などを含めた「ドル政策」に注目が集まります。  日本では、菅政権の支持率が急落するなど短期政権の可能性も指摘されており、政治の面では21年も不透明と言えます。  こうしたことを総合的に考えると、2021年のドル円相場の予想レンジとしては、円高方向では「1ドル=97円」程度、円安方向では「1ドル=112円」ぐらいまでが想定される範囲と言って良いでしょう。(文責:モーニングスター編集部)。
外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に来年1月の為替相場の動向と2021年全体の行方をうかがった。
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2020-12-24 11:45