商船三井問題と中国ビジネスリスク 企業はどう向き合うべきか

商船三井の船舶が杭州で差し押さえられたことが大きな話題になっています。もちろん、さまざまな考え方があるわけで、これをもって「中国ビジネスがいよいよ難しくなった」というとらえ方もあれば、2010年に確定していた訴訟であり、その和解も成立しなかったことを受けての差し押さえであることから、「一般の企業には大きなリスクではない」という見方もあります。
今回は、これについての私なりのビジネスリスクの解釈と企業の対応についてを書きたいと思います。
■中国政権の考え方次第で今後も高リスクに
中国内でのビジネスで言えば、そもそもの実態が純粋な法治国家では有りませんから、最初から最悪の場合は接収という事ですら起こりえるリスクはあったわけです。
もちろん、中国側が安直に「接収」という挙にでれば、国際的な問題にも発展しますので、そんな事が簡単に起こるわけではありません。が、万が一にも本当に国として断交ということになれば(私自身は双方の立場から見ても、それはないと思っています)、そもそも相手国内の企業資産を持ち出せるのかという問題でもあります。普通に考えて、それ自体が難しいでしょうし、出来るにしても相当な時間を要します。
つまり、中国ビジネスリスクの本質として見れば、こういうことは最初からありえるリスクの一つであったという事です。他方、日本政府側は今回の件について「すでに解決済み」という見解であった事例であり、それを信じるなら、本来リスク要因のはずでは無かった話でもあります(それでも訴訟案件ですから企業側はリスクとしてカウントしていたと思います)。
実際には、日中関係が今の様な険悪な状態にならなければ、差し押さえの実力行使に許可がでたかといえば、多分でなかった話でしょう。
つまり、こういう方向性について言えば、中国の政権の考え方次第でどういうことでも起こると言うことであり、多方面からリスクは考えざるをえないと言うことになります。また、日本政府側も少なくとも尖閣問題については譲る事ができませんので、この面のリスクは今後も高くなるだろうと考えておくべきです。
■「投資リスク視」はやわらげたい中国
他方、中国側の立場としては、経済的に中国を見れば景気も減速しており、外資投資も減っている中、例えそれが日本であっても外資投資はウエルカムだということです(特に地方政府にとって資金確保は深刻です)。あるいは、日本企業の撤退により、中国人民の労働市場が縮小してゆくのも共産党批判につながるため、何とか避けたいところです。
実際に中国外務省の秦剛報道局長が今回の件に伴い「外国企業の中国での合法的権益は法に基づき保護される」と言うコメントも出しており、その意味するところは、通常の外国企業にはこういうリスクはないという示唆であり、中国への外資投資のリスク視をやわらげようとしているわけです。
そういう配慮もしながら、それでも厳しい対応に出ている所に大きなポイントがあります。中国側としても尖閣問題は絶対に引けない問題であり、極力避けたいというのが本音はありつつ、多少の影響出しても差し押さえを実施しようという意思が表れたのが、今回の対応なのです。そういう意味で、非常に難しい所に来ているのは事実でしょう。
他にも戦時中の強制連行問題で訴訟案件が出されており、中国の司法当局がこれまでの姿勢を変え、訴えを受理していることから、今後、これらが何らかのバーターに使われる可能性もあります。もっとも、現在の日本政府の対応から見て、それらのバーターに応じるとは思えませんから、そのリスクは企業がかぶることになります。
■ビジネス面での影響や注意点は?
そういう背景も踏まえた上でビジネス面での影響を考えてみると、先ず、商船三井の様に戦前からの歴史があり(当初は三井物産ですが)、過去の戦後補償などで中国からの訴訟対象になる所はリスクの多寡に応じて個別に考える必要がありそうです。
もちろん、いまだ進出していなくて訴訟対象になる可能性がある企業であれば(多分、無いと思うんですが一旦撤退したという場合などがあるかも知れません)、わざわざ差し押さえの材料を与えることもありませんので、進出しない方に私なら“1票”。
それ以外は、戦後補償の訴訟リスクも改めて実リスクとして勘案した上で、それでも続けるか、撤退するのかという判断を行うことになります。歴史があって続けているという事は、それなりに利益も上げてきたはずですから、すでに投資分は回収しており、失う物が大して多くないなら放っておくという考え方もあると思います。
また、一般の企業の場合は、まずは撤退できる法人や仕組みになっているのかという問題があります。スタート地点で撤退しにくい仕組みにしてしまってあれば、選択肢の範囲が限られてしまいます。また、撤退する場合はどうせ工場などは日本に持って帰れないということでもありますし、残るのと撤退するのとの損得勘定というのもポイントになります。
合弁であれば撤退自体が相当に難易度が高いわけですし、相手が撤退を認めたとしても、設備など最後は二束三文で置いてくる事になる場合が多いのです。そう考えると、撤退しても残る物がnaい場合も多い。とすると、今更改めてリスクを再認識したところで、実質は変わりません。
また、中国報道局長のコメントからも読み取れる様に、中国側としては、こういうことを頻発(ひんぱつ)することにより外資が逃げてゆき、中国の現在の経済状況にダメージを与えるのは避けたい。そういう視点から見れば、日本から進出している一般企業が拡大解釈で訴訟等を起こされ、相当に不利な状態に追い込まれるということも考えにくいところです。もともと中国内での訴訟については簡単に勝てないという話はありますが、それは別問題です。そもそも存在したリスクなのです。
ただ、これ以上の投資は止めとこうという話はありかもしれませんし、利益が出ているのなら、新規の設備投資には回さず、少しでもそれを回収しておくという戦略も選択肢です。ちなみに、現在は税金を払えば、株主への配当の支払いは問題ありません。
■これからの中国進出について考える
新規進出についてはどうでしょう。賃金上昇や為替、政治から来るリスクを含めて、すでに中国内に多額の設備投資をして生産拠点を作ろうと言う企業はほとんどありませんから、そういう意味では接収などのリスクは小さいです。
また、現在の進出の主な業種はサービス業と飲食業、販売業などの市場ターゲットのビジネスですから、設備投資など大きな費用を伴う物が少ない(郊外型の大型ショッピングセンターなどは金額も大きいでしょうが)。そうであれば当初から大きなリスクを背負っていませんし、必要最小限の費用で始め、駄目だったら止めてしまうという手も使えます。
日本国内の出店と閉鎖の様な感覚です。大きく伸ばせ儲かる様なら本気で拡大すればよいのですし、一定の利益を確保し元を取ってしまえば、最悪の場合に残る全てを置いてきても損はしません。
そう考えた場合、当然、社員構成も大半を現地採用ベースで構築しておくべきです。そうしておけば人的リスクも少ないし、日本人であるが故のリスクも避けられます。当然、賃貸契約の期間にもノウハウが出てきますし、定款などの法人の作り方にもポイントがあります。
撤退が自由にできる事が最低条件ですから、合弁はしないということでもあります。また、業種自体が制限職種でどうしても合弁にならざるを得ない場合は、実態も相手側が事業主体で、日本からはそこに出資をして高利回りの配当を得るくらいの気持ちでの進出もよい方法だと思います。もちろん、この場合は投資ですから全て失う可能性もゼロではありません。よって、失っても耐えられる金額が限度となります。
企業戦略によりますが、その形式で中国に出る意味があるかどうかは考えどころです。その会社の中身や方針、将来の読みなどで多いに変わる所でもあります。状況如何(いかん)ではタイミングを見て(法律変更や市場動向、日中の関係性)、相手側からの持分譲渡という方法もないわけではありませんので、選択肢のひとつとして私は「あり」だと思います。
■中国のカントリーリスクは昔からあまり変わっていない
本来は、中国ビジネスの場合は、国のシステム自体が日本とは違う仕組みの上で動いている訳ですし、どんな事でも起こりうる話で、そもそもそういうリスクを覚悟の上で進出すべきです。
仮に、そんな事を考えずに進出してしまったとしても(こういう日本企業は多いです)、今更撤退しても大きな金額が回収出来るわけではありませんので、元が取れたか取れないかを踏まえた総合判断だと思います。もちろん、ブランド価値があり、中国企業に売却して大儲け出来るなら、それも有望な選択肢です。
また、新しく出て行く場合は、きちんとリスクを理解した上で、保険を掛けながら(撤退出来る様な手法や組織という意味)、「身の丈に合った無理のない範囲の進出」を行うということだと思います。
今回のニュースは日中ビジネスに関わるものに取ってはあまりよいニュースではありませんが、一部の企業を除き実態にはさほど影響が出ないことでもあります。また、どこの国に行っても何らかのリスクがあることや、実は中国におけるカントリーリスクは昔からそう変わっていないこと、全体的な市場やインフラの整備の度合い、自社の事業モデルも踏まえ、イメージだけでとらえず、合理的に判断してゆくことが大切だと思います。(執筆者:福田完次 提供:中国ビジネスヘッドライン)
商船三井の船舶が杭州で差し押さえられたことが大きな話題になっています。勿論様々な考え方がある訳で、これをもって中国ビジネスがいよいよ難しくなったという捉え方もあれば、2010年に確定していた訴訟であり、その和解も成立しなかったことを受けての差し押さえであることから見て、一般の企業には大きなリスクでは無いという見方もあります。
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2014-04-23 11:00