年内テーパリング発言受けてドル相場に膠着感か? 外為オンライン佐藤正和氏

注目されたパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長のジャクソンホール会議でのリモート講演を受けて、マーケットでは米ドルが売られたのちに買い戻された。テーパリング(資産買取縮小)がすぐに実施される可能性が低くなり、株価が上昇し、債券や金も買われるという状況になっている。アフガニスタン情勢も懸念材料のひとつだが、金融マーケットへの影響は少なそうだ。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に9月の為替相場の動向をうかがった。
――「ジャクソンホール」後の金融相場をどう見れば良いのでしょうか?
米国の金融政策の転換点となる「テーパリング」開始の時期が示唆されるのではないか、と注目されたジャクソンホール経済フォーラムでのパウエル議長の講演は、結果的には大きなサプライズはありませんでした。為替相場は講演前に動いた米ドル高の動きを取り消して、また元の水準に戻ってしまいました。
パウエル議長は「テーパリングは年内に開始するのが適当」と述べ、インフレ目標や労働市場についても、資産購入の縮小を年内に開始するレベルに達しているとの考えを示し、その半面で5%の失業率は依然として高く、「デルタ変異株の感染もさらに拡大しており、今後入手するデータと変化するリスクを慎重に見極めていく」と語っています。
こうしたメッセージを受けて考えると、とりあえず9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でのテーパリング示唆の可能性は極めて低く、10月はFOMCがないため、11月もしくは12月のどちらかでメッセージが出されるものと考えていいと思います。ただ12月は企業決算が集中するため、11月にテーパリング開始のメッセージが発信されて、実際のスタートは2022年の年明け早々になるのではないでしょうか。
――9月の注目すべきイベントとは……?
とりあえず9月3日には、8月の米国雇用統計が発表されます。7月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は94万3000人の増加と大きく伸びましたが、8月の予想では75万人となっています。7月よりも20万人ほど下がる予測ですが、その反面で失業率は7月の5.4%から5.2%に改善する予想が出ています。
仮に、100万人を大きく超えるようなサプライズがあった場合には、9月のテーパリング開始の表明もひょっとしたらあるかもしれませんが、その可能性は低いのではないでしょうか。とはいえ、9月は失業給付金の増額支給が終わるため、雇用統計には注目する必要があると思います。
その他のイベントとしては、日本の総選挙の動向が注目されるところです。9月解散説も浮上しており目を離せない状態です。ただ、株式市場にはプラス材料になるかもしれませんが、為替はあまり大きな影響を受けないかもしれません。
また、日経新聞が報道したように新型コロナウイルス感染拡大に対する支援策や脱炭素の実現に向けた成長戦略などの経済対策を立案する動きがあるようです。選挙対策という見方もありますが、実現すれば株式市場等には好材料になるかもしれません。ただ経済対策=景気刺激策で円が買われる、といった動きにはつながらない可能性が高いと思います。
――9月の金融相場は、どんな動きになるのでしょうか?
欧州では、ドイツの8月のCPI(消費者物価指数、EU基準速報値)が3.4%と28年ぶりの高水準になるなど、ウィズコロナの動きに合わせてインフレ気配が出ているようです。またメルケル独首相が引退するスケジュールも迫っており、しばらくは不安定な動きがあるかもしれません。
一方、オーストラリアでは一時期利上げが近いのではないかとも言われていたのですが、新型コロナの再感染が拡大し、再びロックダウンに入っている地区が多いようです。真冬と言うこともあり、しばらく金融緩和はお預けというところでしょうか。
それ以外で注目すべきは、やはり米国のアフガニスタン作戦終了です。タリバン政権がどんな国家建設をするのか注目されるところですが、ドル相場に大きく影響を与えるファクトではなさそうです。ただ、米国の国際的権威の失墜に繋がり、長期的には米国経済に悪影響があるかもしれません。
――9月の各通貨の予想レンジは……?
短期的にはドルの上値が重い展開にはなると思いますが、ジャクソンホール会議の結果を受けて利上げを急がないことが確認され、株や債券が上昇し、金利のつかない「金」や原油価格なども上昇しています。9月の予想レンジとしては次のようになると考えています。
●ドル円・・1ドル=108円50銭-111円
●ユーロ円・・1ユーロ=128円-132円
●ユーロドル・・1ユーロ=1.1650ドル-1.19ドル
●英国ポンド円・・1ポンド=149円-153円
●豪ドル円・・1豪ドル=79円-81円 50銭
――9月相場で注意する点を教えてください。
現在のドル円相場は、1ドル=109円から111円の固定レンジの状態になっているといっていいと思います。ドルの高止まり相場が続いており、この固定レンジを抜けていくきっかけになるものが見当たりません。しばらくは、このレンジの中でトレードするしかないのかもしれません。
幅の狭いレンジの中でFX投資をするには、例えば1ドル=110円台のどこかで売って、下がったら買い戻す。ただし、111円台まで続伸するようだったら損切りを確実に入れる・・・。こうしたトレードを繰り返して、細かく利益を積み重ねていく。そんな投資法になるかと思います。
とは言え、最近になって投機筋のドル買いポジションが約91億ドル(約1兆円)にも膨らんでいる、といった報道がありました。1年半ぶりの高水準だそうですが、何らかのきっかけでポジション整理が始まれば、ドルが売られて急速な円高が始まるかもしれません。現在のような狭いレンジで動く相場の時こそ、過去には大きな暴落があり、思わぬレンジで動くケースもあります。独りよがりの判断を避けて、市場全体を見ながら相場と付き合っていくことが大切です。(文責:モーニングスター編集部)
アフガニスタン情勢も懸念材料のひとつだが、金融マーケットへの影響は少なそうだ。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に9月の為替相場の動向をうかがった。
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2021-09-01 13:15