世界的なインフレで円安が進む? 外為オンライン佐藤正和氏

 10月31日に実施された総選挙では、自民党が単独で議席の過半数を獲得。マーケットでは岸田政権が信任されたとして株式市場が大きく上昇した。さらに、数10兆円に及ぶと言われる経済対策が実施されるとの見込みから、ドル円相場は1ドル=114円台を回復している。一方で、米国経済は景気回復を鮮明にしつつあり、一過性と思われていたインフレ懸念が継続していることを受けて、今週は「FRB(米連邦準備制度理事会)」が金融政策の新たな方向性を示してくるのではないかと注目されている。そんな状況の中で11月はどんな為替市場になるのか・・・。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に11月の為替相場の動向をうかがった。  ――自民党政権が4年振りの総選挙で勝利しましたが、為替市場への影響は?  自民党が過半数を上回る259議席を獲得し、公明党との連立で絶対安定多数を上回る293議席を確保したことで、ドル円は114円台前半まで円が売られました。政権の安定というプラス面では株式市場が大きく上昇し、為替市場は「リスクオン」と判断されて、円が売られドルが買われました。  いずれにしても、自民党と公明党の連立政権体制は今後も続くことになり、当面は現在のトレンドが続くのではないかと思われます。ドル円相場では1ドル=114円~115円の攻防がしばらくは続くのではないでしょうか。  岸田政権の政策内容がまだはっきりしていないため何とも言えませんが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言発令などで、大きなダメージを被っている飲食業や航空、鉄道などの運輸関連、そして観光業等を支援するという意味でも、安定多数を背景に様々な経済対策を打ち出してくるはずです。日本だけの要素で決まるわけではありませんが、とりあえずはリスクオンで円安の限界が試されそうです。 ――その一方で、米国はテーパリングがスタートしそうですが、その影響は?  11月2日-3日に実施される「FOMC(米連邦公開市場委員会)」では、テーパリング(資産買入縮小)の開始が宣言されると予想されています。すでにマーケットでは織り込み済みですが、単なるテーパリング開始の発表ではなく、その期間や利上げまでのタイムスケジュールなどがどこまで示唆されるかに注目度が集まっています。  背景には、パウエルFRB議長がずっとこだわってきた「一過性のインフレ」という認識が、実際のインフレ率と乖離し始めており、この部分をどう修正してくるのかが注目されます。実際に、先週発表された8月の「PCE(個人消費支出)デフレーター」が年率で「4.4%」と高い水準となり、インフレの長期化が懸念され始めています。この数字は、1983年以来38年ぶりの数字となっており、今回のFOMCでは、ひょっとしたら利上げまでの期間を短縮してくるかもしれません。ゴールドマン・サックスも利上げは2023年と予想していましたが、最近になって利上げ予想の時期を2022年7月に前倒ししてきました。  10月5日に発表される米国雇用統計でも、景気回復の勢いはさらに拍車がかかると予想されています。10月の非農業部門雇用者数は45万人の増加が予想されており、9月の19万4000人を大きく上回ると予想されています。10月の失業率も予想値で4.7%と、新型コロナウイルスのパンデミックが始ってから最低の数字になっており、米国の雇用情勢が確実に回復しつつあることを物語っています。  新規失業保険申請件数も、10月23日までの1週間で28万1000件と最低レベル。また、7-9月期の雇用コスト指数が「1.3%」上昇し、過去最大の伸びとなっています。労働力不足を背景に、あらゆる業種で賃金上昇圧力が強まっていると言って良いでしょう。  ――ブラジルや韓国はすでに利上げを実施、カナダなども追随しそうですが・・?  ブラジルはすでに政策金利を1.5%引上げ、韓国は8月に3年ぶりとなる利上げを実施、11月の追加利上げも示唆されています。同様に、カナダも早期の利上げを示唆しており、2024年まで利上げはしないとしているオーストラリアも国債の利回りが上昇しており、利上げの時期は大幅に前倒しされるかもしれません。世界中が、金融政策転換の時期に差し掛かっているといって良いでしょう。  そんな流れの中で、唯一、蚊帳の外になっているのが日本です。世界中で原油などのエネルギー資源や鉄鋼、希少金属といった資源価格がここに来て急騰しており、日本でも小麦などの食料品をはじめ様々な価格が上昇しています。円安の影響もあり、ここに来てやっとデフレから脱却する動きがあります。実際に、日銀が重視している生鮮食品を除く「全国消費者物価指数(CPI)」の総合指数が、1年6か月ぶりに対前月比でプラス0.1%に転じています。  まさに、日本だけが周回遅れという感じですが、世界中がインフレに見舞われている中で、さらに円安が進んだ場合、日銀の現在の金融政策はどうなるのか・・・。11月は日銀の金融政策決定会合はありませんが、今後の動向に注目したいものです。  ――今後、ドル円相場はどのあたりまで円安が進むのでしょうか?  現在のドル円相場は1ドル=115円あたりが節目になっていますが、それを抜けていくようなことになれば、トランプ政権時代の1ドル=118円が円安の抵抗線になると思います。  世界中が金融政策を転換してゼロ金利から脱却するようなことになれば、円の独歩安が進み、次の118円を目指すことになるかもしれません。万一、それを超えるようなことになれば、次は「黒田ブロック」といわれる1ドル=125円の突破にチャレンジすることになります。  そういう意味では、原油価格や資源価格の動向などに注意しながら、市場と付き合っていく必要があると言って良いでしょう。  ――11月相場の予想レンジを教えてください。  今後、1週間程度が11月相場の山になるかと思います。FOMCでパウエルFRB議長がどんな記者会見を行うのか、あるいは、雇用統計でどんな数字が出てくるのか注目したいところです。  また、忘れてならないのは中国経済の影響です。「中国恒大集団」の利払いは一時的に乗り切ったものの、今後も課題として続きそうです。また31日に発表された中国の10月の「PMI」では、製造業PMIが好況と不況の節目となる「50」を割り込み「49.2」でした。これで2ヶ月連続の50割れとなっており中国経済の先行きにも不安が残ります。11月の予想レンジは次の通りです。 ●ドル円・・1ドル=112円50銭-116円  ●ユーロ円・・1ユーロ=130円-135円  ●ユーロドル・・1ユーロ=1.145ドル-1.175ドル  ●英国ポンド円・・1ポンド=153円-158円  ●豪ドル円・・1豪ドル=84円-88円  ――11月相場で注意する点を教えてください。   当面は円が売られる展開になると考えられますが、金融市場には何が起こるかわからない部分があります。中国の債務問題や地政学リスクなどがもっとクローズアップされる可能性もありますし、原油などの資源価格がさらに大きく上昇するかもしれません。ETFを通じて莫大な資金が流れ込んでいるニューヨーク株式市場も、いつそのトレンドが変わるかわかりません。  様々なニュースをチェックしながら、円安トレンドに賭けてみる方法もあるかもしれませんが、大切なことは余力を残しながらの「ポジション管理」を心がけたいものです。(文責:モーニングスター編集部)。
11月はどんな為替市場になるのか・・・。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に11月の為替相場の動向をうかがった。
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2021-11-02 11:15