リスクパリティを超える新クォンツ型マルチアセットファンド、auアセットが機関投資家向けに提供開始

 米国が緩和的な金融政策を転換しようとする中、世界的なインフレ(物価上昇)とウクライナ危機が重なって起こって、証券市場のボラティリティ(価格変動率)が高まっている。市場の変動期に市場変動リスクを抑えて安定的な収益を獲得する手段として「リスクパリティ(リスク均等化)」といわれる運用戦略が利用されてきた。ただ、「リスクパリティ」は万能な投資戦略とはいえず、特に、金融引き締めの環境下ではパフォーマンスが低下するデメリットがある。auアセットマネジメントは、「リスクパリティの弱点を克服した新しいマルチアセットファンド商品」を開発した。「近い将来、クォンツ・ブティックとして一目置かれる存在になりたい」(CIO最高運用責任者の東出卓朗氏=写真)という同社が、適格機関投資家向けに提供する戦略商品だ。東出氏に、新ファンド開発の狙いと運用戦略の特徴について聞いた。    ――適格機関投資家限定で新しいマルチアセットファンドを開発したということですが、新ファンドの特徴は?  過去10年ほど、クォンツ運用では「リスクパリティ」が人気カテゴリーでした。株式や債券などに幅広く分散投資し、投資資産のリスク量が均等になるように配分比率を調整してポートフォリオを組成する投資戦略です。「リスクパリティ」は、ポートフォリオとして取るリスクを4%や2%など、自由に変えることができるなど、機関投資家が好む運用戦略としてここ数年で大きな残高を積み上げました。さらに、国内の公募投信にも波及し、運用資産残高が6000億円を超える大きなファンドも現れました。  ただ、この「リスクパリティ」には弱点があります。リスク量を均等化させる「リスクパリティ」戦略では、株式よりも相対的にリスク量の低い債券の投資比率が高いポートフォリオになるため、債券のパフォーマンスが悪化する「逆金融相場」(金融引き締めによって企業業績が減速し株式のパフォーマンスも悪化する局面)に構造的に弱いのです。新ファンドは、このようなリスクパリティ戦略の弱点を克服するための機能を加えることで、「リスクパリティ」を上回るパフォーマンスをめざします。  ――「リスクパリティ」を超えるリスクパリティとは?  一般に相場局面は、景気循環を背景とした金融政策と企業業績の変化によって「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」という4つの相場局面に分類されますが、株式と債券のパフォーマンスは、この4つの局面で得手・不得手がはっきりしています。たとえば、2020年3月の「コロナ・ショック」以降の市場は、世界的に金融緩和が実施され企業業績の回復を後押しする「金融相場」でした。この間は、金融緩和によって債券にプラスの効果が大きく、また、金融緩和によって将来の業績拡大期待が高まりますので株式のパフォーマンスも上向きます。  そして、実際に企業業績が拡大する「業績相場」では株式のパフォーマンスが非常に良くなります。2020年から21年にかけては、この「金融相場」から「業績相場」への移行があったため、世界的に株式市場が大きく値上がりしました。そして、「業績相場」では、将来の金融引き締めを読み込み始めるため、債券の運用成績は徐々に厳しくなっていきます。「業績相場」で企業業績が拡大するとインフレ(物価上昇)の懸念も高まり、徐々に金融引き締めに転じる「逆金融相場」に転じます。現在は、ちょうどこの転換期にあたると考えられます。この間は、株式投資のパフォーマンスはプラスを維持していますが、金融引き締めによって債券のパフォーマンスは最悪期を迎えます。そして、金融引き締めによって企業業績が悪化する「逆業績相場」に向かいます。「逆業績相場」では株式のパフォーマンスは悪化しますが、債券は将来的な金融緩和を読み込んで、徐々に底入れから回復に向かいます。  このように、相場の局面によって株式や債券市場は影響を受けます。したがって、相場局面を正しく特定できれば、適切な資産配分比率にすることが可能となり、その分でリターンの向上が可能になります。この相場局面を正しく判断し、この判断に基づくポートフォリオ組成を実現する定量モデルを開発したのです。  ――具体的に、どのような手段で相場局面を特定するのですか?  相場局面の判定にはこれまでの経験を活かした様々なクォンツ手法を活用しています。当社が独自に開発した定量モデルは、各国の株式と債券相場の時期や特徴を細かく捉えた上で、シャープレシオを最大化する最適な資産配分比率を計算します。  具体的には、米国、ドイツ、日本、英国、豪州、カナダ、フランスの7カ国の株式と債券の先物、そして、国内の短期公債・キャッシュの16資産を投資対象とし、4つの相場局面においてシャープレシオを最大化する最適な資産配分比率を計算し、局面の変化に伴って、配分比率を変更します。この相場局面を判断するのは、経済理論に裏付けされた中長期の相場局面分析と、2000以上のグローバルマーケット指数等をウォッチして異常を検知すると投資資産をキャッシュ化してファンドを守る短期のマーケット分析を組み合わせて判断します。投資判断はクォンツベースのデータ処理の結果によって行います。  そして、常に変化するマーケットにフィットするように大学やフィンテック企業等との協業を進め、クォンツ・モデルのブラッシュアップを続けています。  ――どの程度の運用成績が期待できるのですか?  当ファンドのモデルを使って目標リスクを年2~5%程度(平均3.5%程度)として運用すると、2009年9月24日から2022年1月31日まで約12年半の期間でバックテストを行った結果、全期間のリターンは年率6.36%、リスクは年率3.37%でした。シャープレシオは1.89という結果を得ています。この同じ期間にリスクパリティで運用したと仮定すると、リターンは年率3.71%、リスクは3.03%、シャープレシオは1.22になります。マルチアセットファンドの良し悪しを比較するうえで最重要の指標であるシャープレシオから、当ファンドの定量モデルが上手く機能していることがお分かり頂けると思います。  また、同じバックテストで、これから訪れる米国の金融引き締めの過去の期間である2015年~2019年にかけての米国の利上げ局面での動きを確認すると、当ファンドは年率リターンが6.85%、年率リスクが5.07%でした。同期間でリスクパリティが年率リターン2.31%、年率リスクが2.31%でしたから、リスクパリティを大きく上回る成績になりました。シャープレシオに直すと、当ファンドが1.35に対し、リスクパリティが0.60ですから、その差は歴然としています。  ――今後の計画は?  当ファンドのモデルについてご理解をいただける適格機関投資家の資金を受け入れて、2022年2月28日に目標リターンを中長期に年率6%程度、目標リスクが年2~5%程度(平均3.5%程度)のファンドを立ち上げました。幅広いお客様にご納得頂けるファンドであると自負しておりますので、徐々にファンドの規模を大きくしていきたいと考えます。また、当ファンドの派生形とする元本確保型商品の展開も視野に入れています。  当ファンドは、お客様のご要望に応じて目標リスクを変化させることができ、よりリスクを抑える運用も、よりリスクを高める運用も可能です。例えば現在の金融環境から、年6%のリターンは必要ないなど、投資ニーズは様々だと思います。その際には、年率3%程度にリターンを抑え、リスクの水準も下げるなど、お客様のご要望に応じたカスタマイズが可能です。  まずは、機関投資家を対象とした私募ファンドとしてスタートしますが、運用の実績を重ねて、いずれは、公募投信として一般の個人の投資家の方々にも当ファンドを使っていただけるようにしたいと考えています。多くの方々の資産形成にしっかりとした運用実績のある安定的な収益が期待できるマルチアセットファンドをご活用いただけるように努めてまいります。(情報提供:モーニングスター社)
auアセットマネジメントは、「リスクパリティの弱点を克服した新しいマルチアセットファンド商品」を開発した。「近い将来、クォンツ・ブティックとして一目置かれる存在になりたい」(CIO最高運用責任者の東出卓朗氏=写真)という同社が、適格機関投資家向けに提供する戦略商品だ。
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2022-03-08 10:30