技術革新と成長に着目した環境ファンド、「イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド」の新しい価値

三井住友DSアセットマネジメントが設定・運用する「イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド」が3月30日に設定から1周年を迎える。ファンドの基準価額は21年11月に1万2000円を超えたが、22年に入ってから米国の利上げ加速懸念やウクライナ問題などによる株式市場の調整安の影響を受け、1万1000円を割り込む水準になった。同ファンドの今後の見通しについて三井住友DSアセットマネジメントの中田葵氏と、ファンドの実質的な運用を担うアリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパンの井村真也氏に聞いた。
――「イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド」の企画意図は?
中田 2020年になって、米国と中国が「カーボンニュートラル」の目標を掲げたことで、世界中が「2050年(中国は2060年)のカーボンニュートラル」に向けて動き始めました。カーボンニュートラル関連の投資額は、2050年までに1.48京円という大きな金額が想定されています。
ただ、現実問題として現在ある技術だけでは、カーボンニュートラルの実現は不可能です。新技術の開発などイノベーション(技術革新)が必要です。「カーボンニュートラル」には巨額な投資が見込まれるビジネスチャンスに加えて、画期的な新技術によってもたらされる成長のチャンスがあると考えます。
当ファンドが、ファンド名に「イノベーティブ」を入れたのは、新たな成長企業を発掘していくという強い意志を表しています。カーボンニュートラルへの挑戦を通じて大きく成長が期待される企業に厳選投資します。一般的なESG(環境・社会・企業統治)ファンドとは大きく異なる、当ファンド独自の魅力だと思います。実質的な運用は、「グローバルAIファンド」でテクノロジー企業の発掘に実績を示していただいたアリアンツ・グローバル・インベスターズU.S.LLC社が務めます。
当ファンドでは、カーボンニュートラルについて3つの分野に注目しています。1つは、発電に関する「クリーンエネルギー生成」です。再生可能エネルギーの生成に寄与する企業群、また、安定供給に欠かせないエネルギーの貯蔵に関する企業群です。次に、「交通・輸送の変革」です。EV(電気自動車)や水素燃料電池など、スピード感をもった技術開発が期待されます。そして最後が、「産業用エネルギー転換」です。脱炭素は、発電所や工場、ビル等、産業のあらゆる分野に波及します。CO2の排出量が少ない「グリーンビルディング」、消費電力の少ない半導体などの開発、また、CO2を回収・貯蔵する技術など、この分野は関連する技術が多く、多くのイノベーションが期待される分野でもあります。
これら、多面的な切り口でカーボンニュートラルに関連する企業群を捉えることで、テクノロジー銘柄のみならず、素材や化学など、幅広いセクターに対象銘柄を広げ、結果的にバランスの良いポートフォリオを構築することができています。
――カーボンニュートラルに関連する企業群の成長力は?
井村 運用開始以降ポートフォリオの向こう3~5年先の市場コンセンサスに基づく予想EPS成長率は20%近く、MSCI オールカントリーワールドインデックス(ACWI)の同成長率が10%台前半ですので、これを上回る高い成長率が期待されます。
――過去1年間のパフォーマンスは、21年11月から12月に非常に大きな上昇局面を迎えたものの、22年に一転して厳しい運用成績になっています。この理由は?
井村 昨年10月30日から11月13日に開催された「COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で、カーボンニュートラルについて世界的な関心が高まり、関連企業の成長への期待も高まりました。ちょうど、その当時に決算を発表した企業が事前予想よりも強い決算を発表すると、株価がより大きく値上がりするということがありました。21年12月にかけて当ファンドの基準価額が大きく値上がりした背景です。
ただ、22年になって世界各国で想定を超える強いインフレ(物価上昇)が観測され、米国が量的緩和の終了と同時に始める利上げが、当初の予想よりも加速しそうだという見方が強まり、ネガティブな影響を与えました。株価は理論的には将来の利益を金利で割り引いて算出されます。今後2年から3年後に大きな成長が期待できる高成長企業群の株価にとって、金利上昇は将来の利益を割り引く割引率の上昇に繋がり、マイナス要因となります。
また、インフレについては、たとえば、風力発電のブレード〈羽)一つをとっても非常に大きなもので、風力発電所を1つ作るのに大量の素材を必要とします。素材価格の値上がりはコストアップ要因につながり、収益見通しの悪化が懸念されました。
加えて、ロシアとウクライナの問題の悪化により、リスクオフの動きが進んだ事もマイナス要因となりました。
しかし、前述の通り、当ファンドでは、テクノロジー銘柄を中心とした高成長企業のみならず、資源・エネルギー、素材、資本財・サービスセクターなどのカーボンニュートラルに貢献するイノベーティブな企業に幅広く投資をしています。これらの株式はバリュー、シクリカルな要素が強く、高成長企業の株式がより調整する局面で、相対的に耐性を発揮しました。結果、年初来ではMSCI先進国情報技術指数と比べても、マイナス幅は小さくなっています。
――今後の見通しは?
井村 カーボンニュートラルは、目標が2050年に置かれ、ずいぶん気長な取り組みのように感じられるかもしれませんが、様々な研究開発は今、佳境に入っているといえます。ここで生まれるアイデアや技術が、今後30年にわたって磨かれ、洗練された新しい常識を作っていきます。たとえば、1990年代に生まれたインターネットがGAFAM(グーグル、アマゾン、旧フェイスブック(現メタプラットフォームズ)、アップル、マイクロソフト)という巨大企業を生み出したように、カーボンニュートラルへの挑戦が、世界的な大企業を育てることにつながると考えています。
たとえば、エンフェーズ・エナジーは、太陽光発電のマイクロインバータ技術を提供する米国企業ですが、太陽光発電システムの効率を向上させると同時に、高電圧による加熱、火災のリスクに対しても、同社製品の耐久性やクオリティが非常に高いと産業界で評価されています。同社の技術はデジタルテクノロジーとの融合性も高く、今後の社会インフラに不可欠な存在になっていくと期待されており、運用チームは、中長期に株価の上昇余地は非常に大きいと話していました。
また、炭素の回収は、今まさに商業化の一歩手前にある技術です。現状では炭素回収コストが高過ぎて実用化が難しいのですが、これを何とか商業化しようとアメリカのスタートアップ企業を始め、多くの企業が競い合っています。産業用ガス大手のリンデ、エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズなどの大手企業も参入してきています。
ファンドの運用は、米サンフランシスコに拠点を置くテクノロジー株式運用チームと、クリーン・インフラ株式運用チームが連携しています。さらに欧州やアジアの運用拠点におけるリサーチ情報も活用し、グローバルな視点でカーボンニュートラルに関連する企業を発掘しており、ファンドは中長期に大きな成長が期待できます。
中田 カーボンニュートラルが、国際社会の大きな課題であることは知られていますが、そのビジネスチャンスについては意外と知られていないのではないかと思います。そこで、当社では気象予報士の依田司氏、「EnergyShift」統括編集長の前田雄大氏、宇宙開発からカーボンニュートラルについて考えているSPACE WALKER代表CEOの真鍋顕秀氏らを講師に迎えたWEBセミナー「今こそ知りたい! カーボンニュートラル社会の勝者とは?」を3月22日に開催します。
お笑い芸人のハマカーンさんやテレビ等でもコメンテーターを務める馬渕磨理子さん、辻愛沙子さんをゲストに迎え、「第4の革命」として世界的に加速するカーボンニュートラルを徹底解説します。カーボンニュートラル社会のチャンスをつかみ取るヒントについて知っていただく機会になると思います。このWEBセミナーには井村さんも講師として参加いただき、ファンドで注目している企業の取り組みなども紹介していただく予定です。
是非、多くの方々にカーボンニュートラルをチャンスとしてご認識頂き、このファンドが狙う大きな成長の機会について理解を深めていただきたいと思います。(グラフは、「イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド」の設定来の推移)(情報提供:モーニングスター社)
「イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド」の今後の見通しについて三井住友DSアセットマネジメントの中田葵氏と、ファンドの実質的な運用を担うアリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパンの井村真也氏に聞いた。(グラフは、「イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド」の設定来の推移)
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2022-03-09 10:15