インフレ時代に「グローバル・リート・ESGフォーカス」、シュローダーが新インフレヘッジ策を提案(上)

英国ロンドンに本拠を置くシュローダー・インベストメント・マネジメントは、世界で最先端のESG(環境・社会・企業統治)基準を設ける欧州に立脚し、かつ、コロナ禍の克服に加えて、戦闘が続くウクライナ情勢とも真正面から向き合っている。コロナ禍とウクライナ紛争の長期化が、エネルギー価格や穀物価格を押し上げ、世界的に深刻なインフレ(物価上昇)をもたらした。そのために、世界の金融市場は大きな転換期を迎え、資産運用は非常に難しいかじ取りが求められるようになった。欧州の雄であるシュローダーは、この難しい時代をどのように見通しているのか? コロナ禍のさ中といえる2020年5月にシュローダー・インベストメント・マネジメントの代表取締役社長に就任した黒瀬憲昭氏(写真:右)に、モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也(写真:左)が聞いた。(上・下の2回シリーズの1回目)
◆資産運用は「インフレヘッジ」がポイント
朝倉:ニューノーマル(新常態)といわれるようにコロナが少しずつ落ち着いてきた一方、今度は運用の世界がだいぶ変わってきたような気がします。いわゆる異次元金融緩和に変化の兆しが現れ、市場に影響が出てきていますね。
黒瀬氏:これまで金融緩和が行われてきて、2022年からは利上げのフェーズに入っていますが、これだけ過剰流動性があるとマネーの行き場がポイントになってきます。インフレが既に足元で起こっていますから、今後の資産運用ではインフレヘッジがポイントになってくると思います。
朝倉:2021年はインフレ懸念から金利が上がり(債券の価格は下がり)、株式も下がりました。債券と株式は、片方が下がれば片方が上がるから一緒に保有すればよいといわれてきましたが、両方下がってしまいました。インフレヘッジとしていろいろな投資商品が考えられますが、何に注目されますか。
黒瀬氏:実物資産に注目しています。2020年春のコロナショックで、世界的に株式が大きく下落した局面がありましたが、その後の金融緩和や財政政策で持ち直しました。翌年2021年の株式とリートの年間パフォーマンスをみると、リートの方が高パフォーマンスでした。そうした中、「シュローダー・グローバル・リートESGフォーカス・ファンド」を2021年5月に設定しました。インフレヘッジとして活用できる商品です。
朝倉:これまで各国の中央銀行がどんどんお金を刷ったために、足元ではお金があふれた状態です。当然、実物の価値は上がってしかるべきですので、その意味ではやっぱり不動産は注目でしょうね。
黒瀬氏:はい。不動産の中でも注目する業種はどんどん変わってきています。コロナ禍によって都心のオフィスでは空室率が上がり、一方で住宅については在宅勤務のためにもう1部屋欲しいという需要が出ています。都心から郊外へ移住して、一回り大きい家を探すといった需要もあります。諸外国でも同様で、特に米国では住宅の価格が上昇しています。動きがあるところに勝機がありますから、投資のチャンスがあると思っています。
朝倉:オフィスや住宅用不動産に動きがあるわけですね。コロナ禍を受けてeコマースも伸びていますが、その関連の不動産には動きがありますか?
黒瀬氏:かなりあります。倉庫など物流関連や、データセンターなどのデジタルインフラストラクチャーなどで需要が高まっています。
◆不動産で進むESG評価を活用した新ファンド
朝倉:世界のリート市場全体についてはどうでしょうか。
黒瀬氏:実はリートの市場が発達している地域は意外と少ないのです。米国が一番発達していて、日本は15~16兆円の市場規模です。あとはオーストラリアでしょうか。欧州は市場としてはさほど発達していません。中国はリートが数銘柄できた程度ですし、東南アジアもわずかです。
こうした背景から、「シュローダー・グローバル・リートESGフォーカス・ファンド」は、7割程度をリート、3割程度は株式に投資しています。株式は不動産の運営会社などです。グローバルのリートに加え、不動産関連の株式にも投資することで、リートが発達していない地域の不動産セクターの成長も期待できる商品です。
朝倉:ファンド名にESGと入っていますが、ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を指しますね。似た言葉にSDGsなどもあります。環境や社会を意識した投資手法は当然存在してしかるべきだと思いますが、リートの世界でESG重視というのは珍しいのではないですか。
黒瀬氏:珍しいと思います。欧州には、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)というESG投資に関連する開示規則があります。その中で、サステナブル投資を目的とする第9条という、最も基準の厳しいカテゴリーに該当するファンドは全部で10本もありません。その一つが「シュローダー・グローバル・リートESGフォーカス・ファンド」の主要投資対象ファンドです。
実は、不動産・建設セクターは世界の二酸化炭素排出量の38%を占めています。ESGのE(環境)のためには、不動産・建設セクターにおける排出量の削減は重要です。
朝倉:もともとSDGsやESGの流れというのは、御社の拠点がある欧州がリードしていて、その動きが米国や日本にも波及してきました。日本も2050年に向けて脱炭素という目標を掲げ、身近なところではレジ袋の有料化などもあって、投資の世界でもESGというのは避けて通れないものになりましたよね。
黒瀬氏:はい。アクティブ運用全てがESGを加味した投資であるべきだと思っています。シュローダーでは2020年の段階で、株式、債券、プライベートアセットを含めた全ての運用資産において、ESGインテグレーション(ESGの要素を明確に運用プロセスに組み込んだ運用手法)を完了しました。
朝倉:我々は評価会社ですので様々なESGファンドを見ていますが、資産運用会社には口先ばかりでないカルチャー、哲学や理念が重要だと思っています。シュローダーはまさにESGという考え方が会社全体に浸透している会社ですね。国連責任投資原則(PRI)によると、6年連続でA+という高い評価ですね。6年連続とはすごいですね。
黒瀬氏:現在のシュローダーのCEOが環境や社会に対して強いコミットメントを持っていますので、グループ全体でこの流れはどんどん加速しています。
シュローダーは、この10年で10社ほど買収しています。ESGに関連する最近の動きとしては、「ブルーオーチャード」という会社が傘下に入りました。この会社は、環境や新興国のマイクロファイナンスなどに関連した投資を行っています。
さらに2022年は、「グリーンコートキャピタル」という会社も傘下に入りました。この会社は代替エネルギーや再生可能エネルギーなどに特化した運用会社です。再生可能エネルギーが注目されている中、お客さまからの問い合わせが増えている状況です。
朝倉:シュローダーは歴史が長く、会社の哲学や思想がしっかりとありますから、いい会社が周りにどんどん増えていきそうですね。(つづく)(情報提供:モーニングスター社)
シュローダー・インベストメント・マネジメントの代表取締役社長の黒瀬憲昭氏(写真:右)に、モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也(写真:左)が聞いた。
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2022-05-10 09:30