「ロボ・アドバイザー」は大波乱相場の救世主になるか? 主要サービスの運用実績を比較して見えた可能性

 リーマンショックの大底(2009年3月)以降に投資を始めた投資家にとって、今年の下落相場は、「異次元」に感じられる変化ではないだろうか。2020年3月のコロナショックでは「リーマンショックに匹敵する」といわれる下げは経験したものの、当時はその後の切り返しが大きく、かつ、急速だったため、一瞬目をつぶっているだけで、暴落の痛手は概ね回復していた。下げて戻っても再び下げるを繰り返す今回の下落局面は、待てば待つほど損失が膨らむ陰湿な苦難と感じられるだろう。このような局面で、今後の対応策について「アドバイザー」に相談したいという人も少なくないと考える。そこで、今大いに注目されるのが、「ロボ・アドバイザー」だ。投資理論に基づいたアドバイスをリーズナブルな費用で受けられ、中には、AI(人工知能)を使った市場予測を取り入れているサービスもある。代表的な「ロボ・アドバイザー」のサービス内容、特に、その運用実績について比較した。  「ロボ・アドバイザー」とは、一般的なアドバイザーとは異なる。現在の運用状況に対して、「Aを売却してBを購入した方が良い」などのアドバイスは受けられない。投資一任契約という契約に基づいて、1つの口座にある資金の運用を全て任せるサービスだ。投資の基本は、「長期・分散・積立」といわれるが、この中で「分散」が一番難しい。分散投資する投資先に何を選ぶのか、そして、その選んだ投資先資産をどのように組み合わせるのかによって、投資成果は大きく異なってくる。しかも、値上がりした資産は一旦売却して利益を確定しないと、評価益が「絵に描いた餅」になってしまう。経済や市場の環境は日々変わり続けている。半年前まで有効だった考え方が、今もまだ有効とは限らない。このような環境変化に機敏に変更して、投資先(運用ポートフォリオ)を柔軟に変更して運用するのが「ロボ・アドバイザー」の魅力だ。  「ロボ・アドバイザー」に似たサービスに、「投資一任サービス/ラップ口座」がある。そして、その「ラップ口座」の投資対象を投信にして小口化した「ファンド・ラップ」。さらに、投信のバランス型で「リスクパリティ型」(一定のリスク水準を維持するように柔軟に運用ポートフォリオを変更する)などという商品がある。この中で、「ラップ口座」や「ファンド・ラップ」は、オーダーメイド型で、顧客の意向に沿って、運用プランを設計してもらえる。その分、手数料(運用コスト)も高くなる。また、もっとも自由に運用計画の相談ができる「ラップ口座」は、数百万円以上など最低投資金額が大きくなる。「ラップ口座」であれば、今の運用資産(株式や投資信託など)をそのままに、運用を任せることもできる。本来の「アドバイザー」に期待される役割を果たしてくれる。  これと比較すると、「ロボ・アドバイザー」や「バランス型投信」は現金で購入する必要があり、かつ、運用プランが定型化している。「バランス型投信」は数ある投信の中から選ぶことができるが、1つの商品に運用方針は1つと決まっている。自由度が制限される分、手数料(運用コスト)は低くなる。また、投資単位も1万円以上など少額でスタートできる手軽さがある。そして、近年主流の「ロボ・アドバイザー」は、投信と同程度の水準の手数料率になっている。特に、ネット証券などで取り扱っている「ロボ・アドバイザー」は、運用の情報開示も進んでいて運用成績を比較検討の上で始められるため安心だ。  ネット大手の「ロボ・アドバイザー」として情報開示がしっかりしている「WealthNavi」(取扱いは、ウエルスナビ、SBI証券など)、「楽ラップ」(楽天証券)、「ON COMPASS」(マネックス証券など)、そして、今年4月にサービスがスタートした「SBIラップ」(SBI証券)について、公開されている情報を基に比較した。この他に、比較的知られているサービスに「THEO」と「SUSTEN」があるが、これらは、運用の部品にあたる投資先ファンドの運用成績はわかるものの、それらを組み合わせた具体的なポートフォリオの運用成績が確認できなかった。たとえば、「THEO」は231通りのポートフォリオ、「SUSTEN」には9種類のタイプがあるというが、そのひとつひとつの運用成績がわからない。その他のサービスは、少なくとも月次で運用成績のデータがダウンロードできた。  比較可能な4つの「ロボ・アドバイザー」の運用成績を、比較データが揃う2020年1月末から、2022年3月末までの約2年間で比べた。ちょうど、2020年3月の「コロナショック」で世界的に株価が大きく下げた局面での運用成績をみることもできる。なお、SBI証券の「SBIラップ」は「ROBO PRO(FOLIO)」のデータに近い成績が期待される。「ROBO PRO」の運用対象はETFで「SBIラップ」は投信を使うなど異なる点もあるが、同じ運用手法を使っているためだ。2022年3月末までの2年2カ月間の運用成績では、「ROBO PRO」の成績が最も良かった(添付のグラフ参照)。「WealthNavi」は5コース、「楽ラップ」は9コース、「ON COMPASS」には13コースがあるが、その中で、最も高いパフォーマンスをあげているコースで比較した。「ROBO PRO」は、投資対象資産の組み合わせの中で、もっとも投資効率の良い組み合わせを使うため1コースしかない。なお、「バランス・成長型」は、公募投信の「バランス・成長型」に属しているファンドの平均的な運用実績といえるモーニングスターインデックスを使ったが、「ロボ・アドバイザー」は4つの全てが公募投信の平均を上回った。  一方、2022年3月末を基準にして過去1年間の騰落率は、「ROBO PRO」が15.16%に対して、「WealthNavi(5)」は15.85%と運用成績で上回っている。「ROBO PRO」が他より良い成績になっているのは、コロナショックの20年3月の下落率が小さかったアドバンテージによるところが大きい。この20年3月に付いた差を「WealthNavi(5)」と「ON COMPASS(H)」は徐々に詰めている。運用期間がより長くなれば、現在見えている運用成績とは違う印象になるかもしれない。ただし、2022年の3カ月間の運用成績は、「ROBO PRO」が3.64%で最も高い。同期間の運用成績は「WealthNavi(5)」は1.69%、「ON COMPASS(H)」は0.92%、「楽ラップ(かなり積極)」はマイナス1.46%だ。  「ロボ・アドバイザー」の運用力は、それぞれの運用実績を確認することで評価していくしかないが、最も運用期間が長い「WealthNavi」でも設定は2016年1月19日で、運用期間は6年超でしかない。資産形成の手段として活用するのであれば、10年、20年という長期の実績が問われる。その運用実績の良し悪しを判断するには、もうしばらくの運用実績が必要だ。たとえば、「楽ラップ」には「DRC(下落ショック軽減機能)」があるが、今のところ、「DRCあり」の成績は「DRCなし」に劣っている。本来であれば、下落時にそのショックを抑制できれば、運用成績はより良いものになるはずだ。現時点での「DRC」機能は市場環境に適応していないようだが、市場環境が大きく動く中で、市場にフィットしてくるかもしれない。また、「ROBO PRO」はAI(人工知能)を使って市場の変化を学習し続けているが、その学習効果がより良い運用成績につながっていくのかは、今後の成績で確認するしかない。  世界の証券市場の環境は、「コロナショック」からの回復を狙った「利下げ・量的金融緩和」から、インフレ(物価上昇)の抑制を狙う「利上げ・量的金融緩和の縮小」へと180度変わってきた。「投資していれば投資収益が得やすかった」といえる環境が、「漫然と投資しているだけでは資産残高が目減りする」という時代に変わっている。20年、30年という超長期投資であれば、「市場の変化に関係なく、ひたすら積立投資を継続する」ことで短期的な下落を将来の収益チャンスに変えることも可能だが、3年、5年という投資では、市場の変化に対応した運用資産のきめ細かなメンテナンスが必要だ。そのメンテナンスを自動的に行ってくれるサービスが「ロボ・アドバイザー」といえる。投資手段の1つとして検討してみたい。(グラフは、代表的な「ロボ・アドバイザー」のパフォーマンス推移)(情報提供:モーニングスター社)
今大いに注目されるのが、「ロボ・アドバイザー」だ。代表的な「ロボ・アドバイザー」のサービス内容、特に、その運用実績について比較した。(グラフは、代表的な「ロボ・アドバイザー」のパフォーマンス推移)
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2022-05-13 17:00