英ISAは年255万円に拡大、英米で拡充進む資産形成支援策の背景

 英国では非課税貯蓄口座(ISA)の限度額を大幅に拡充し、確定拠出年金の制度変更など、個人の資産形成を支援する制度に関心が高まっている。日本においても、NISA(少額投資非課税制度)の拡充をめぐる議論の中で、退職後に向けた資産形成という視点が重要だ――フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏は、英国と米国の退職資産形成に関する調査出張の結果を振り返って、このように語っている。(写真は、フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏。サーチナ撮影)  英国ISAは、2014年4月5日まで年間拠出額の上限1万1520ポンド(株式型と預金型の合計。だたし、預金型の上限は5760ポンド)が、4月6日に1万1880ポンドに拡大。7月1日から1万5000ポンド(約255万円)に引き上げられる。また、預金型ISAは総枠の50%以内という上限が撤廃された。野尻氏は、この制度変更について、「預金型の拡充策は、退職者の保守的な運用ニーズに応えるため。また、英国では確定拠出年金の引き出しに関する議論を踏まえ、年金資産引き出し後の受け皿としての役割をISAに期待しているのではないか」と分析している。  英国では2436万口座(成人人口の約半分)に達するISA口座で、上限まで投資を行っている人は、株式型で130万人、預金型で500万人に達している。このため、今回の上限引き上げによってISAの投資額が増える可能性がある。なお、英国ISAの残高は、2013年4月現在で4428億ポンド(約75兆円)で、その内訳は、株式型ISAが2222億ポンド、預金型ISAが2206億ポンドになっている。  なお、英国ではISAの拡充策と並行して、確定拠出年金の引き出しに関する議論が続いている。2015年4月以降の実施をめざし、確定拠出年金資産を退職時に引き出す際の自由度を高めようとするものだ。55歳以上であれば、資産の25%までは非課税で引き出せるようになっているが、この上限を超えて引き出す場合は、現状は55%という高い税率を課して実質的に引き出しができなくしているものを、より自由に引き出せるようにしようとしている。  一方、米国では野尻氏はAARP(全米退職者協会)に取材し、「50歳以上(米国で1億人以上が対象)が挙げる課題は、(1)日々の生活のための貯蓄、(2)退職資産形成、(3)退職資産の引き出しの3つ。特にAnnuity(年金)への関心が高い」と感じたという。  このように英米ともに、退職後に備えた資産形成に関する関心が高まっている。「米英ともに、ここにきて年齢を理由に退職を求めることができなくなり、高齢者が長く企業にとどまる傾向を、企業側が懸念しているため、従業員が安心して退職できるように従業員の退職に向けた資産形成を支援するインセンティブが強くなってきている――このような意見を、英米ともに専門家がコメントしていた」という。  野尻氏は、「米国は2006年のPPA(年金保護法)で、Auto Enrollment(自動登録)、Auto Increase(自動増額)、Default Fund(初期設定ファンド)を認め、英国はNEST(National Employment Savings Trust:公的な確定拠出年金制度)やAuto Enrollment導入など、資産形成に関する自動化を進めている。このように、入り口の段階では、自動的に資産形成を促す施策がこのところ続いている。  一方で、英国での確定拠出年金資産の引き出しに関する大幅自由化など、出口では自由度を高める動きだ。出口を自由にするのであれば、せっかくの資産を短期間で使い果たすことにならないように、退職者向けの投資教育の充実が必須という議論につながっている。NISAを導入した日本においても、“自動化”と“自由化”という2つの潮流を、どのように取り込んでいくのかということは、大いに注目する必要がある。団塊世代が退職し、先進国の中でも退職者を多く抱えている日本において、退職資産形成についての議論が英米と比較して遅れていることは気になるところ」と警鐘を鳴らしている。(編集担当:徳永浩)
日本においても、NISA(少額投資非課税制度)の拡充をめぐる議論の中で、退職後に向けた資産形成という視点が重要だ。(写真は、英米の資産形成市場視察について語るフィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏。サーチナ撮影)
2014-04-25 15:30