サービス開始に大反響の「SBIラップ」、注目の運用成績をFOLIO代表の甲斐真一郎氏に聞く

 SBI証券が今年3月末に取り扱いを開始した「SBIラップ」は、取り扱い開始から4営業日で申込件数が1万件を突破し、15営業日目には預かり資産残高が50億円を突破するなど急速な立ち上がりとなった。サービスの開始時点が、米国の利上げや株安、ウクライナ紛争、中国での新型コロナ感染拡大など、先行きの不透明感が高まったタイミングだっただけに、既存の投資家にはリスク分散の手法の1つとして受け入れられた側面もあったと考えられる。気になるのは、その運用成績だが、「SBIラップ」の運用を担っているFOLIO代表取締役CEOの甲斐真一郎氏(写真)に、SBIラップのAIによる予測を活用した運用の仕組みと運用実績について聞いた。    ――「SBIラップ」の運用がスタートして1カ月の運用成績は?  最初の約定ができた4月7日に運用をスタートし、4月28日までの運用実績は、マイナス0.59%になりました。この間、米国株は3%程度、新興国株は4%程度のマイナスとなり、米国債やハイイールド債、不動産、金などはプラスリターンでしたが、米国株式を最も多く保有していた関係もあり、トータルリターンはマイナスになりました。  ただ、4月最終営業日の29日が日本は祝日であり、「SBIラップ」が投資対象とする公募投信は米国現地27日の終値で基準価額が算出されています。しかし、投資信託が実際に投資している米国ETFは29日まで取引があり、米国株式は28日に上昇し29日に反落しました。かつ、円安も進みました。日本の営業日(4月28日分まで)に合わせて計算している他社ロボアド等と比較するために、「SBIラップ」の実質的な投資対象である米ETFの値動きを円換算して4月28日米国市場を反映した数値を計算すると、運用開始時点から4月末までの運用実績はプラス2.85%になります。  ロボ・アドバイザーのサービスは、米国ETFに直接投資するものと、国内投信を通じて米国ETFに投資するものがあります。同じ月末比較でも、投資対象に国内投信を使っている場合は、米国ETFの月末前日価格での評価額ですので、ETFを投資対象とするサービスとは実際の評価基準が異なることになります。月次実績など短期の運用成績を比較する際には、その点はご留意していただきたいと思います。  ――「SBIラップ」の運用の仕組みは?  FOLIOの「ROBO PRO」のAI(人工知能)を活用し、景気循環を先読みすることで、毎月ダイナミックに資産配分を変更します。また、配分比率の決定にはゴールドマンサックスが開発した「ブラック・リッターマン・モデル」を使っていますが、期待リターンとしてAIが計算した1カ月先の予想リターンを入れて配分比率を計算します。AIは40種類以上のマーケットデータを分析し、機械学習によってどんどん進化しています。  投資する資産クラスは、株式(米国株/先進国株/新興国株)・債券(米国債/ハイイールド債/新興国債)・その他(不動産/金)の合計8種類です。それぞれの資産に対応した米国ETFを個別に投資対象とした国内投信8本を使います。この8つの資産の組み合わせを毎月1回、また、マーケットの変動時にもダイナミックに変更しながら運用します。  このような機械学習を用いたリターン予測を運用に活かしているロボ・アドバイザーはこれまでありませんでした。一般的なロボ・アドバイザーは運用に伝統的な金融工学の考え方に基づいた「平均分散法」を使っています。ここでは、マーケットの過去データを用いて期待リターンやリスクを算出して資産配分比率を決定しています。  ――実際に「SBIラップ」のAI予測を活用した運用は、一般的なロボ・アドバイザーとは、どのような違いが出るのですか?  「SBIラップ」と同じ考え方で運用している「ROBO PRO」の実績で説明します。「ROBO PRO」は米国上場のETFを投資対象とし、投資銘柄を2~8銘柄の間でダイナミックに変更します。「SBIラップ」は国内投信を投資対象とし、常に8銘柄に分散投資しますので「ROBO PRO」に対してマイルドな運用成績になります。また、AIによる予測の寄与度も「ROBO PRO」と比べると低く設定しています。それに伴い、運用に関する手数料は「ROBO PRO」が年1.1%(税込み)に対し、「SBIラップ」は年0.66%です。この点も運用実績には差となります。ただ、資産配分の変更については、同じような変更が加わります。  たとえば、2020年3月の「コロナ・ショック」の時、「ROBO PRO」は2月18日に突然、債券の投資比率を引き上げ、株式への投資比率を引き下げました。その直前に、銅の価格が大きく下落し、AIが景気後退に備えた配分比率への変更を求めたからです。その後、3月には株価が大きく下落しました。株式への投資比率が小さくなっていたため、下落のショックを抑えることができました。そして、最安値圏にあたる3月19日に、AIは株式と値下がり率が大きかった不動産の比率拡大を指示しました。この配分比率の変更によって、より大きな資産価値の回復を実現しました。  また、株価が横ばいになっていた20年6月22日に、金への投資比率を増やし、債券の保有比率を大きく落とす指示を実行しました。一般に、金はリスク回避局面で保有を増やす資産ですので、金を大きく持つときには株式の保有比率を落とします。しかし、AIは大規模な金融緩和と財政出動によって金や株式などのリスク資産が同時に値上がりすることを学習していますので、株式の保有比率を落とさないまま、金の保有割合を高めました。その結果、株価が横ばい中で金の値上がりによって資産価値を増大しました。  22年になって米国株価は1月4日をピークに下落しましたが、「ROBO PRO」の21年12月末のポートフォリオは新興国株48.7%、金30%、米国債券21.3%で、米国株の保有はゼロ%でした。12月末は米国株価が史上最高値にあった時で、「米国株を保有しないで大丈夫か」と心配されたのですが、結果的に米国株価が下落したことで、「ROBO PRO」の運用成績は他社比較で非常に良好な成績になりました。  AIの特徴が出た代表的な局面を紹介しましたが、AIが魔法のように将来を予測できるわけではありません。むしろ、AIの指示通りにポートフォリオを変更すると、さほど良い結果が得られません。あまりに極端な投資比率の変更を指示する場合は、AIの分析結果に信頼性が低いと判定し、AIの分析結果を反映させない仕組みも入れています。ただ、経験豊富なファンドマネージャーが首をかしげるような指示をAIが出し、その通りに資産配分して運用がうまくいくケースが少なくないのです。AIは日々、機械学習をして予測精度を高めようとしていますので、私たちは、その結果としての資産配分の変更指示がどのような根拠で出されているのか理解しようと努めています。  ――現在のところ各社の「ロボ・アドバイザー」の運用情報の開示姿勢にはバラツキがあります。「SBIラップ」の運用情報の開示は?  SBI証券から「できるだけ透明な情報開示をしたい」、「8つの資産配分の変化とともに、その変化がパフォーマンスにどんな影響があったかまで分かるようにしたい」という要請を受けています。これまで、「ROBO PRO」の運用開示については踏み込んで行ってきたつもりですが、「SBIラップ」では、より透明な情報開示に努めます。  毎月の運用成績を振り返る「マンスリーレポート」の他、半期、1年の運用報告、そして、臨時レポートなど、運用情報は「SBIラップ」の利用者のみならず、一般に公開して、「SBIラップ」の活用を考えてくださっている方々の参考情報にします。  ――現在のところ「SBIラップ」は1つの運用ポートフォリオですが、他社のようにリスク許容度別に複数のコースを用意する計画は?  「SBIラップ」の第一弾は、運用効率が一番良いポートフォリオを提供する1コースにしました。ただ、お客さまには、もっとリスクの小さい運用を希望される方、また、もっと高いリスクを常に取りたいと考える方もいらっしゃると思います。様々な運用ニーズにお応えするコースを今後、第2弾、第3弾とリリースしていく予定です。  私どもが独自に開発した「4RAP」というラップ口座のシステム基盤は、柔軟なラッププランの提供を可能にします。たとえば、通常のラップ口座では、1つの口座で1つのラップ(投資一任契約)を管理しますが、「4RAP」は1つの口座で複数のラップ契約を管理できます。1つは、老後の資産形成のため、1つは子どもの大学入学資金のためなど、複数の目的に応じたラップを同時に保有することができます。さらに、投資運用業務を請け負う会社も、「4RAP」では複数指定することができるのです。  この「4RAP」のシステムとしての拡張性の高さを活かして、お客さまが必要とされるサービスを追加していきたいと考えています。低コストの投資一任サービスでありながら、非常に使い勝手の良いサービスとして「SBIラップ」を進化させていく計画があります。是非、ご期待いただきたいと思います。(情報提供:モーニングスター社)
「SBIラップ」の運用を担っているFOLIO代表取締役CEOの甲斐真一郎氏(写真)に、SBIラップのAIによる予測を活用した運用の仕組みと運用実績について聞いた。
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2022-05-16 09:45