急激な円安相場の終焉か?混迷続くドル円相場! 外為オンライン・佐藤正和氏

1ドル=139円台までドル高円安が進み、このまま一気に140円台に行くかと思われたドル円相場だが、ここにきて円安トレンドのシナリオが崩れ始めてきた。予想を超えるインフレが世界で同時に進み、米国を筆頭に金利を引き上げてインフレ退治を始めたことで、ドルが買われて来た。ところが、最近になって金利上昇によるドル高一辺倒の相場にやや陰りが見えてきた。ドル高円安トレンドは転換したのか……、それともまた異なるシナリオが始まるのか……。外為オンライン・アナリストの佐藤正和さんに8月相場の見通しを伺った。
--139円台をつけた後、急速に円高に戻していますが、トレンドは変わったのでしょうか?
7月27日に開催された米国の金融政策を決定する「FOMC(米連邦公開市場委員会)」で、予想通り0.75%の利上げが決定されましたが、市場には0.75%で済んだという安心感が広がったのか、ドル円相場は一時136円台にまで円高に振れました。今年3月に0.25%の利上げを決めてから4会合連続の利上げとなり、その間の利上げ幅は「2.25%」となります。
米国の直近の消費者物価指数は6月の「9.1%」となり、実に40年ぶりの高水準まで上昇しています。2ヶ月連続の0.75%の金利上昇もやむを得ないところです。問題はこれからどうなるのかですが、7月のFOMC後の記者会見で「FRB(米連邦準備制度理事会)」のパウエル議長は、次回の会合で大幅な利上げの可能性を残しつつも、「判断は今から次回の会合までのデータ次第だ」と述べ、「いずれ利上げペースを落とすことになる」と説明しました。次回のFOMCは9月になるため、当面は経済指標を見守っていくということです。
要するに、パウエル議長は今後も景気指標次第では大幅利上げの可能性もあるとしながらも、データ次第では利上げペースが鈍化する可能性も示唆。こうした議長発言に、市場は予想したよりもハト派的な発言だったと受け止め、ドル円相場は急激なドル買いのトレンドを修正し始めたと考えられます。
――2四半期連続のマイナス成長となりましたが、リセッション(景気後退)の可能性は?
米国のGDP成長率の第2四半期(4-6月期)が「マイナス0.9%」となり、市場予測の「プラス0.4%」を大きく下回りました。「2四半期連続のマイナス成長」というのは、教科書的にはいわゆる景気後退状態となるわけですが、バイデン大統領やパウエル議長が「リセッションとは考えていない」というコメントを出しています。リセッションになれば、金融引締めのスピードは弱まると捉えられて、NYダウやナスダックといった株式市場は軒並み大きく上昇。為替市場も一時的に132円台まで円高が進みました。
イエレン財務長官もGDPの公表後、「米経済がリセッションに陥っているとは考えていない」と景気後退入りを否定するコメントを出し、さらに「消費者物価の伸びは近いうちに、低下する可能性が高い」と発言しました。
その言葉をそのまま鵜吞みにするのは難しいかもしれませんが、マイナス成長に陥りながらも物価を守る、という姿勢は堅持したと言えます。ただ、問題は急激な利上げを実施したにもかかわらず、インフレが止まらなかった場合です。いわゆる「スタグフレーション(不況下の物価高)」となるわけですが、今回のインフレはロシアによるウクライナ侵攻など地政学リスクが背景にあるため、楽観はできそうもありません。
――どんな経済指標をチェックすればいいのでしょうか……?
たとえば、8月5日に発表される米国の「雇用統計」は、景気の良し悪しを最も早く察知するデータとして重視されています。「非農業部門雇用者数」では、前回6月のデータでは38万人増でしたが、7月の市場予想では25万人という数字が出ています。失業率も予想では3.6%と前月と同じになっています。市場予想を大きく上回れば、依然として景気は好調に推移しており、逆に少なければリセッションを裏付けるものになります。
また、8月10日に発表される「CPI(消費者物価指数)」、FRBが重視する食品やエネルギーを除く「コアCPI」をはじめとして、製造業PMI、新築住宅販売件数(共に8月23日発表)といった指標は注意深く見ていく必要があると思います。
ちなみに、7月28日に発表された「週間失業保険申請件数」は、25.6万件。前週の指標では今年1月の第4週以来の26万件超えとなりました。失業保険を申請する人の増加は景気後退を示唆する前兆かもしれません。このような指標が次々に発表され続ければ、利上げのスピードは弱まり、ドルが売られ円が買われるトレンドに転換する可能性もあります。
――日本銀行は、相変わらず頑なな姿勢を守っていますが……?
米国を筆頭に世界中が金利を引き上げている中で、日本銀行だけが金融緩和の方針を崩していません。7月21日に行われた日銀金融政策決定会合後の記者会見でも、黒田日銀総裁は「金利を引き上げるつもりは全くない」と言い切りました。
日本銀行が置かれている立場を考えると、確かに量的緩和を転換すると宣言したり、イールドカーブコントロールに修正を加えたりするような政策変更は容易にはできそうもありません。ただ、黒田総裁の発言はあくまでも「自分の任期中」という条件付きのコメントだと思われます。
いずれにしても、日本ではインフレが徐々に進行しており、毎月のように生活必需品が値上がりしている状態です。いずれ何らかの形で、現在の金融政策が見直される可能性があるかもしれません。
――8月の主要通貨の予想レンジを教えてください。
8月は、2日に「オーストラリア準備銀行(豪中央銀行)」、4日にはイギリスの中央銀行「イングランド銀行」の政策決定会合が予定されており、豪中銀は利上げも予想されています。その一方で、日銀やFOMC、ECB(欧州中央銀行)は予定されておらず、金利面では大きな動きはないと考えていいでしょう。
その半面で、投資家の多くが夏休みとなるため、ボラティリティの高い相場になることが予想されます。最近のドル円相場では1日に3円程度動くケースもあり、変動幅の大きさに注意が必要です。8月の予想レンジは次の通りです。
●ドル円……1ドル=130円-137円
●ユーロ円……1ユーロ=134円-140円
●ユーロドル……1ユーロ=1.000ドル-1.045ドル
●英国ポンド円……1ポンド=160円-168円
●豪ドル円……1豪ドル=92円-96円
--8月の為替相場で注意すべきことは?
ドル円相場に関しては、FOMCによる0.75%の金利引き上げ、そして四半期GDPの発表という大きなハードルを通過したことで、1ドル=140円台突破にチャレンジという状況から、一転して1か月半ぶりの132円台にまで円安が進みました。8月がどんな相場になるのかは、やはり今後発表される各種の景気指標次第と言っていいと思います。米国、中国共に景気を減速させており、その影響がどんな形で出てくるのかを見極める1か月といっていいでしょう。
むろん、ロシア・ウクライナ情勢の変化にも注意する必要があります。事態が変化すれば原油や食料など、資源価格に大きな影響をもたらすかもしれません。いずれにしても、ドル円相場はこの3か月で13円ほど動いており、ボラティリティが高いうえに、経済の先行きも不透明です。
FX取引では、あまり深追いはせずに、淡々とテクニカル指標などを参考にしながらポジションを抑え気味にトレードすることが大切です。1ドル=140円手前で買ってしまっている人も含めて、あまり無理せずに深追いはしないことです。波乱含みの相場では、「利益を細かく積み上げる」トレードをすることが基本です。(文責:モーニングスター編集部)
1ドル=139円台までドル高円安が進み、このまま一気に140円台に行くかと思われたドル円相場だが、ここにきて円安トレンドのシナリオが崩れ始めてきた。外為オンライン・アナリストの佐藤正和さんに8月相場の見通しを伺った。
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2022-08-01 11:45