フィデリティ初の公募ESGファンドを設定、「脱炭素」で世界をリードできる日本企業の成長力に着目

フィデリティ投信は8月30日、同社で初となる公募ESGファンド「フィデリティ・脱炭素日本株・ファンド」を設定する。ESGファンドは、2021年には前年比2.3倍の96本が設定されたが、欧米で「グリーンウォッシュ(ESGを誤魔化した実態の伴わない環境商品)」が問題視され、大手の運用会社が当局によって調査や処分を受けたことなどを機に、ESGファンドの設定は急速に下火になった。その中で、「ESGファンド」を設定し、しかも、主たる投資対象を日本株にした狙いはどこにあるのか? フィデリティ投信の投信営業部長の新村光秀氏(写真:左)と、プロダクト・スペシャリスト部シニア・プロダクト・スペシャリストの早藤寛記氏(写真:右)に聞いた。
――このタイミングで、日本株のESGファンドを設定する意図は?
新村 私どもは、革新的な商品開発について積極的に取り組んでいますが、一方で、社名の「フィデリティ(誠実)」が示す通り、新しい分野には慎重に取り組む企業文化があります。「ESG」は、国際的に「グリーンウォッシュ」の問題が指摘されているだけに、「ちゃんとやろう」という意識を強く持って取り組んできました。欧米で導入されているESGファンドに関する指針や規制、国内の金融庁の見解など、あらゆる文書を厳格に読み込み、十分に準備が整ったと判断できたので、満を持して「ESGファンド」を設定することにしました。
また、米国が金融引き締めに転じ、世界的にジャブジャブに資金が出回っていた状況が変化し、金融緩和時に大幅に上昇した米国株等と比較して割安に放置されてきた日本株にチャンスが来ているという判断もあります。私どもは日本株の調査を始めて50年以上の歴史があり、「フィデリティ・日本成長株・ファンド」は、日本株投信として国内最大級のアクティブファンドになっています。このファンドに匹敵するほどの大きな成長が期待できる分野として「脱炭素」は、これからのメガトレンドになると考えました。
世界各国の企業には、それぞれ特徴があります。たとえば、アメリカはイノベーション(技術革新)に高い価値を認め、新しいアイデアで新市場を開拓する企業が多く存在します。日本企業の得意分野は、精度や品質の高いモノづくりです。きめ細かなアフターサービスができて安心・安全なものを提供することに優位性があります。安心安全を提供する自動車産業に強みがあり、電子部品など世界のリーディングカンパニーが多く存在します。
「脱炭素」、すなわち、グリーン・トランスフォーメーション(GX)は、世界的な潮流です。具体的には、「再生エネルギー」と「省エネ」が2本の柱ですが、中でも「省エネ」は、日本の高品質なサービス力が発揮される分野です。日本は、2050年までのカーボン・ニュートラル実現を宣言し、グリーン成長戦略を打ち出しています。今後、政府による後押しもあって、日本企業は脱炭素分野において世界市場をリードしていく存在になると確信しています。
――「ESGファンド」は欧州系の運用会社が積極的に取り組んでいる印象です。米系であるフィデリティの「ESG」の特徴は?
新村 フィデリティは1946年に米国・ボストンで創業し、1969年に外資系運用会社として初めて日本拠点を開設しましたが、それはボストンのグローバル調査拠点の1つとしてでした。フィデリティが米系とご認識いただいているのはもっともなのですが、実は、日本拠点も含め、北米以外の地域で運用サービスを提供するフィデリティ・インターナショナルは英国ロンドンに本部を置く欧州系の運用会社です。欧州で拡大・発展してきた「ESG」は、私どもも当事者として関わり、長年の経験を積んできています。
早藤 フィデリティは独自の「ESGレーティング(格付)」を考案し、現在3700社以上の企業に格付けを付与していますが、独立したコンセプトとして「ESGレーティング」を開始したのは2019年からになります。フィデリティに「ESG」のイメージが薄いのは、この辺りにも理由があるのかもしれません。
ただ、フィデリティの運用の根幹であるボトム・アップ・リサーチにおいて、「ESG」は長年重要視してきた要素です。「E(環境)」や「S(社会)」は5年、10年という企業の成長性を考える上でテールリスクを排除する意味でも必ずチェックしてきた項目ですし、「G(ガバナンス)」は短期的な企業リスクを排除する上で重要かつ、企業価値創造の機会を分析する上で非常に重要な項目です。このように、改めて「ESG」と断るまでもなく、従来の企業調査の中でESGの評価にはしっかり取り組んできました。
フィデリティのESGの特徴は3つあります。1つは、企業のファンダメンタル分析を行っているアナリストが、ESG分析も並行して行っていることです。例えば、ESG調査専門会社などでは、個別企業のESG分析を企業が発表する過去データに基づいて行っています。当社では、過去のデータに加えて、足元の動きや将来の計画などフォワード・ルッキングな観点からもESG評価をしています。誰よりも当該企業について精通しているアナリストがESGまで評価していることが、最大の特徴といえます。
次に、ESG分析のスペシャリストがグローバルで約30名在籍し、アナリストの企業調査をフルサポートしています。金融庁が今年5月に発表した「資産運用業高度化プログレスレポート」で、ESG分析の専門的な人材や組織の不足が指摘されていましたが、フィデリティのESG専門チームは、国際的な機関投資家からも高く評価していただいています。
そして、質の高いエンゲージメントです。フィデリティは年間2万件におよぶ企業面談を行い、年間で1400回のエンゲージメントを実施しています。国内企業のエンゲージメントは年間100回程度ですが、1回ごとの密度が濃く、ある国内の化学メーカーからは「フィデリティのおかげで会社が変わった」とコメントいただいているほどです。企業アナリストがESGについても評価し、対話することによって、経営層に響く提案ができていると思います。
――なぜ、「日本株のESGファンド」なのでしょう? グローバルに投資先を探した方が、より良いポートフォリオができるのではないでしょうか?
早藤 日本企業の環境分野における技術力は世界のトップクラスです。過去10年にわたって、脱炭素分野の特許出願件数が世界トップを維持し続けていることにも技術力の高さがうかがえます。省エネ技術は長年の技術の蓄積がありますし、水素エネルギーやEV(電気自動車)、次世代電子部品などの分野に大きなチャンスがあります。新興国諸国は大量の化石燃料を使って大量のエネルギーを生み出していますので、日本の高い技術力はグローバルに価値を発揮すると考えています。
真に脱炭素関連と言える企業、かつ、フィデリティのESGレーティングで基準以上の評価がつく銘柄が現在150社程度あります。そこから絞り込んだモデルポートフォリオを作ってバックテストをすると、過去10年のパフォーマンスが「TOPIX(東証株価指数)」のみならず、世界株式「MSCIワールド」よりも高いという結果になりました。
グローバル株、特に欧州株は、ESGの情報開示で先行し、脱炭素関連銘柄として株価が上昇し高いバリュエーションがついている銘柄が多くあります。日本株は開示不足によって外部ESGベンダーから正しい格付けが付与されていないケースがある他、その技術やビジネスモデルが脱炭素に貢献できると企業自身が気づいていないケースも見受けられます。当ファンドで行うエンゲージメントによって、企業の行動変容が起きれば、市場からの評価も上がり、株価の底上げにもつながると考えています。
――「ESGファンド」として独自の情報開示は?
早藤 当ファンドは、投資先企業の収益100万円あたりの炭素排出量をモニタリングし、市場全体(TOPIX)よりも低い炭素排出量を維持する運用を行いますので、そのモニタリング結果を月報(月次レポート)で開示していく予定です。また、組み入れ上位銘柄については、脱炭素のための取り組み内容を解説していく予定です。また、個別銘柄のESG分析のポイントなどもわかりやすく伝えていきたいと考えています。さらに、エンゲージメントの事例なども紹介できればと考えています。
――当初の取り扱い金融機関は東洋証券、七十七証券ですが、今後の販社拡大の見通しは?
新村 「フィデリティ・日本成長株・ファンド」と同じように、日本を代表するファンドにしていきたいと考えています。いわゆる「テーマ型ファンド」の1つとしてではなく、日本株のコアになるファンドとして多くの販売会社様にご提案しているところです。
過去10年くらいの間、「TOPIX」と「S&P500」の利益成長を比較すると、ほとんど変わりがありません。それでも「S&P500」が大きく上昇し、日米で株価に大きな格差ができたのは、バリュエーションの違いです。日本株のPERは10倍台に留まり、世界の投資家がほとんど見向きもしない存在になってしまいました。しかし、私どものように企業調査をベースにしたアクティブハウスは、日ごろの企業との対話の中で、一般には気づかれていない企業の強みを理解しています。
日本で50年以上にわたって企業調査をしてきた私たちが、今こそ、日本企業の脱炭素技術に注目すべきだと思っています。今後、20年、30年にわたって続くメガトレンドの先頭を行く日本企業に厳選投資する「フィデリティ・脱炭素日本株・ファンド」を、これからの資産形成の手段としてご検討ください。
フィデリティ投信は8月30日、同社で初となる公募ESGファンド「フィデリティ・脱炭素日本株・ファンド」を設定する。(写真は、フィデリティ投信の投信営業部長の新村光秀氏(左)と、プロダクト・スペシャリスト部シニア・プロダクト・スペシャリストの早藤寛記氏(右))
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2022-08-29 10:00