「日本株」に見直し機運、万年割安からの脱却につながる日本企業の変化とは?

世界的に株価が不安定な動きとなる中で、万年割安といわれてきた日本株の底堅さが見直されている。日本バリュー株ファンド(愛称:黒潮)を運用する三井住友DSアセットマネジメントの部奈和洋氏(写真:右)は、「ROEの向上に取り組む日本企業の前向きな変化」が日本株の再評価をもたらすと語っている。果たして、ダークホースと言われて久しい日本株の逆襲はあるのか? 部奈氏と同社オンラインマーケティング室の樋口嘉一氏(写真:左)が日本株の現状と見通し、そして企業の前向きな変化を捉える日本株ファンド『黒潮』の魅力について語った。
◆「割安×企業の変化」で好成績の『黒潮』
樋口 部奈さんが運用する『黒潮』の特徴について教えてください。
部奈 日本バリュー株ファンド(愛称:黒潮)(以下、黒潮)は、ファンドの名前の通り割安株(バリュー株)に投資するファンドであり、バリュー株投資を強みとする当社の伝統的なファンドです。バリュー株投資といっても「万年割安」のような銘柄には注意が必要ですが、『黒潮』はこれまで23年間にわたって良好なパフォーマンスを実現してきました。また、割安さに加え、企業の変化にも注目している点が『黒潮』の運用の特徴です。
樋口 運用する上で、こだわっているポイントは?
部奈 とにかく「ブレない」ことです。投資環境によっては、バリュー株が評価されない局面も多々あります。そのような中でも、本質的な「割安」をしっかりと見極めることができれば、パフォーマンスに繋がると信じて運用を続けてきました。
樋口 当ファンドの騰落率は、TOPIX(東証株価指数)と比較すると、コスト控除後のリターンでもTOPIXを上回っています。今、投資家の関心はインデックスファンド中心ですが、コストを差し引いてもインデックスを上回るリターンはアクティブファンドの魅力です。
◆「日本株」の逆襲はあるのか?
樋口 投資家の目線は、どうしても米国株式を中心にした海外株式にあると思います。その中で、注目度が低い「日本株」の逆襲はあるのでしょうか?
部奈 現地通貨ベースで過去10年間のパフォーマンスを主要国、先進7か国と中国でみると、配当込みのトータルリターンがアメリカに次いで高いのは日本です。アメリカとの差は、10年間で10%未満です。ですから、「逆襲」という言葉を使うほどには、実は日本株は負けていません。
樋口 一般的な認識として、日本株はどうしてもパフォーマンスが良くないというイメージが強いので、あえて「逆襲」という言葉を使いましたが、今後の日本株の注目ポイントは?
部奈 日本株の注目ポイントは(1)デフレからインフレへの転換、(2)円安による相対的な割安感、(3)堅調な企業業績、(4)株主還元に対する姿勢の変化、の4つです。これらは過去10年間、日本株のパフォーマンスがしっかりしていた背景でもあります。
10年以上前は、デフレだから株価が上がらないという論調一色でした。しかし、アベノミクス以降デフレは終わり、緩やかなインフレに変わりました。ただ、本当に大事なことは、個別の企業に関わる変化です。
樋口 具体的に、個別企業の変化とは?
部奈 今、日本企業の経営がどんどん欧米化しています。それは、株主を意識した経営への変化です。私はこの変化こそが非常に重要だと考えています。この変化の結果が数字として表れているのが企業業績と株主還元です。
昔は、収益よりも、「長いお付き合いがあるから(取引を継続する)」というようなことが重視されてきましたが、今は、そのような慣行は株主から賛同を得られません。そして、利益をため込むことにも、株主からの厳しい視線が向けられています。結果として株主還元(配当と自社株買いの合計)は過去最高になっています。
樋口 株主還元といえば、先日のニュースで1月から8月の自社株買いの取得枠の設定が過去最高となったことが報道されていました。まさに、現在進行形ということですね。
◆日本株の可能性、日本企業の変化は本物か?
樋口 日本企業は変われるのでしょうか? 「ROE(自己資本利益率、当期純利益を自己資本で割った指標)」は、株主の目線からみて効率的に利益をあげているかどうかを測る指標になります。特に海外投資家はROEを重視しています。このROEについて日本企業に変化が起きています。
ROEを高めるためには、当期純利益を増やすために業績を改善したり、コストを削減するなどの取り組みがあります。また、利益を内部にため込まずに還元し、資本効率を高めることも効果的です。ROEの水準を国際的に比較すると、日本はまだ高くありませんが、ROEを高める努力をしています。これらにはどういった背景がありますか?
部奈 一つには、「政策保有株」の縮減です。今、買収防衛策を継続しようとしても、株主の賛同はほぼ得られません。多くの会社で政策保有株の撤廃が相次いでいます。アクティビストといわれる投資家も多く活躍しています。こういった背景が、企業を株主重視の経営に向かわせていると考えています。
樋口 ROEと株価の関係について、部奈さんは独自の考え方をしていますね?
部奈 我々のバリュー株投資の重要なポイントは、ROEを考慮して適正なPBRを推計し、投資判断の基準としている点です。世界的にROEとPBRには明確な関係性があり、ROEが上がれば、PBRは上がります。ですから、企業がROEをどのように上げていくかという点が重要になります。私は、ROEの向上が見込まれる銘柄に、適正PBRよりも割安な水準で投資します。保有を継続する、売却するという判断も同じです。
樋口 ROEが何%だとPBRは何倍というような目安はあるのでしょうか?
部奈 その辺は運用ノウハウですのであまり公にはしたくないのですが、感覚的にはROEが8%でPBRは1倍、15%で2倍くらいで考えるとよいと思っています。
樋口 ROEに着目したバリュー株運用の『黒潮』の特徴について詳しく教えてください。
部奈 『黒潮』は変化しそうな割安株に投資するファンドです。最初のポイントは「割安度」です。基本的にはROEを考慮した適正なPBRに対し、割安に放置されている銘柄が投資対象になります。さらにその中から変化しそうな企業に着目し、変化の角度やポテンシャルを見極めて投資を行っています。
樋口 企業の変化をどのように捉えているのですか?
部奈 変化とは、とても抽象的で難しいものです。企業の変化をとらえることが重要という点は皆さん理解されているものの、あまり投資のテーマにはなりません。「変化」は数値化することが難しいのです。ただ私は、人工知能(AI)を使って変化の数値化に取り組んでいます。過去に変化した企業の実例をAIに覚えこませ、同じような会社を抽出するような仕組みを独自に開発しました。このシステムを活用していることも、当ファンドのユニークな点であると思います。
樋口 『黒潮』で積立投資を行った場合、過去20年間のシミュレーションではTOPIXを上回る成績となりました。例えば毎月5万円の積立では、積立金額1200万円に対し倍以上の2470万円となっており、中長期の積立でもしっかり結果を残しています。積立投資には株式等の値動きのある資産が効果的ですので、ぜひ『黒潮』の積立もご検討ください。
部奈 私は日本企業が今まさに転換期にあり、企業価値を高める方向に変化をしていると考えています。その変化の兆しの1つがROEであり、『黒潮』はこういった企業の前向きな変化を捉えることを目指しています。変化しようとする日本企業の姿勢が評価され、割安からの脱却に繋がると信じていますので、ぜひ日本株、および『黒潮』に注目していただければ幸いです。
日本バリュー株ファンド(愛称:黒潮)を運用する三井住友DSアセットマネジメントの部奈和洋氏(写真:右)と同社オンラインマーケティング室の樋口嘉一氏(写真:左)が日本株ファンド『黒潮』の魅力について語った。
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2022-10-27 10:15