日銀のサプライズでどう動く「ドル円相場」? 外為オンライン・佐藤正和氏

12月20日に突然発表された日本銀行の「金融政策修正=長期金利の変動幅拡大」は、ドル円相場を1ドル=137円から一気に132円台にまで円高を進めた。「黒田ショック」とも「日銀ショック」とも呼ばれるサプライズだったが、今回の修正はこのところ続いていたドル安円高の流れを決定づけるものなのか……。それともドル高円安の方向に再び戻るのか……。極めて難しい判断の局面に入ってきたと言って良いかもしれない。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに来年1月の為替相場の見通しを伺った。 ――日銀による長期金利の変動幅拡大の意味とは何でしょうか? 市場関係者の多くはまったくのノーマークで、まさに「寝耳に水」のサプライズでした。日銀が、これまで進めてきた「イールドカーブ・コントロール(YCC)」での長期金利の変動幅を、従来のプラスマイナス0.25%から同0.5%に拡大すると言うのは、実質的には利上げですが、日銀の黒田東彦総裁は「利上げではなく、金融緩和の出口でもない」と繰り返し否定しました。 つい最近まで、日銀関係者も含めて「YCCの許容幅拡大は実質的な利上げになる」と述べており、そういう意味でも「まったくの想定外」だった投資家がほとんどだと思います。近年の中央銀行は、金融政策の先行きを示唆する「フォワードガイダンス」が常識になっている中で、市場の混乱に拍車をかけるような黒田総裁の姿勢には批判が集まっています。 黒田総裁は「金利の引き上げではない」と繰り返し述べていますが、やはり実質的な利上げにつながると考えられます。問題は、この修正によって円高が定着していくのか、それとも来年も不安定な相場になるのか。判断は難しいところですが、やはりある程度は円高方向へと進むのではないかと思われます。 ――円高への一方的なトレンドになるのでしょうか? 米国や日本のインフレがどう進んでいくのか、その状況によって変わって行くのではないでしょうか。インフレが進むかどうかの鍵を握っているのは「労働市場の行方」がひとつのポイントになると思います。米国のインフレは、「消費者物価指数(CPI)」 や「個人消費支出(PCE)」などの景気指標が以前に比べてやや鈍化しており、物価上昇圧力の緩和とインフレの頭打ちを示唆しています。 とは言え、賃金の上昇は止まっておらず、雇用統計など労働市場が崩れていないことを考えると、FRBの利上げは今後もしばらくは続くと見た方がいいかもしれません。政策金利に当たる「FF(フェデラルファンド)金利」は最終的に5%を超えると見る人が多く、FRBの利上げスタンスに変化はないと報道されています。 とりあえず、1月6日に発表される「米雇用統計」でサプライズがないか、注意深く見る必要があると思います。「非農業部門雇用者数」は、市場予想は11月の26万3000人に対して、12月は20万人と予想されています。失業率は先月同様3.7%と予想されています。 ――1月の注目すべきイベントは何でしょうか? まずは、1月6日の雇用統計を無事に乗り切れるかどうかですが、「FOMC(米連邦公開市場委員会)」が1月31日から2月1日にかけて開催され、利上げ幅が0.25%で済むのか。あるいは0.5%まで拡大するのか、見極める必要があります。それまでに、雇用統計の他にCPI(1月12日発表)、コアCPI(同)、ISM非製造業景気指数(1月7日)などの統計発表があります。 ちなみに、日銀の金融政策決定会合も1月17日から18日かけて行われます。さすがにもうサプライズはないと思いますが、黒田総裁の任期が4月8日と決まっており、それまでに何らかの追加の動きがあるのかどうか、注視して行く必要があります。 特に日本では、11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)が前年同月比でプラス3.7%と40年11か月ぶりの上昇となり、インフレがどこまで進むのか見極める必要があります。12月の消費者物価指数の発表は1月20日になります。 ――1月の予想レンジを教えてください。 日銀が長期金利の許容変動幅を引き上げたとは言え、急激な円高に振れる可能性は低いと思います。というのも、いまだに高いインフレ率に悩む米国にとって、ドル安の進行はインフレを再び招きかねませんから、急激なドル高円安に対しては何らかの動きがあるかもしれません。 急激な円安の進行で、日本政府は少なくとも2度為替介入を実施しており、場合によっては米財務省が議会に提出する資料の中で、日本が為替介入をしたことを報告して、共和党が多数派になった議会が問題視するかもしれません。そうした点を踏まえておくことも重要です。1月の予想レンジは次の通りです。 ●ドル円……1ドル=130円-135円 ●ユーロ円……1ユーロ=138円-145円 ●ユーロドル……1ユーロ=1.03ドル-1.08ドル ●英国ポンド円……1ポンド=156円-162円 ●豪ドル円……1豪ドル=87円-91円 ――1月相場の注意点は?また来年はどんな相場になるのでしょうか? 年末年始は為替相場も市場参加者が少ないために、例年通り市場の急激な動きには注意が必要かもしれません。「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる変動幅の大きな動きが数年に一度の割合で起きていることを忘れないことです。 一方、中国の新型コロナ感染者が爆発的に増えていることについても、注意が必要です。ブルームバーグが、「最大で中国の人口の18%に相当する2億4800万人が12月1日から20日の間に感染した模様だ」というニュースを配信しており、経済への影響などが心配になります。 長期的な視線で見た場合、新年以降の為替相場は1ドル=120円前後から150円前後の間で、やはり変動幅の大きな相場になるのではないかと考えています。インフレがどこまで進むのか、いつ収束に向かうのか……。はっきりしているのはインフレの収束には時間がかかるということです。一方的な思い込みだけで、トレードしないことが大切です。(文責:モーニングスター編集部)
12月20日に突然発表された日本銀行の「金融政策修正=長期金利の変動幅拡大」は、ドル円相場を1ドル=137円から一気に132円台にまで円高を進めた。極めて難しい判断の局面に入ってきたと言って良いかもしれない。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに来年1月の為替相場の見通しを伺った。
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2022-12-28 13:45