「よくなる企業を選び育てる」次世代型サステナブル株式ファンド、「ツイン・アセンダーズ」がめざす未来<前編>

UBSアセット・マネジメントのマネージング・ディレクターで、運用本部長ならびに株式運用部長を務める松永洋幸氏(写真)に、サステナブル投資の最新の潮流、ならびに同社が2022年10月末に設定・運用を開始した「UBSサステナブル向上・コアバリュー株式ファンド(愛称:ツイン・アセンダーズ)」の魅力について、モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也が聞いた。(前編・後編のうち、前編)
◆なぜ今、「サステナブル投資」なのか? 揺るがぬその重要性
朝倉 ESGは世界的な潮流となり、ESGファンドに多くの資金が流れています。一方で、コロナ・ショックやロシアのウクライナ侵攻等の影響により、世界的な資源価格の高騰やインフレの加速が見られ、また、ポピュリズム(大衆主義)の台頭により、社会の多様性が脅かされています。いわゆる「ESGの危機」とも言われる中、なぜ今、ESGなのでしょうか? また、なぜ「サステナブル投資」が重要なのでしょうか?
松永 投資は、そもそも将来の成長の果実から恩恵を受けようという動きです。それを踏まえて、私どもは「サステナブル投資(ESG投資)」は長期投資そのものであると考えています。サステナブル投資によってガバナンスも含めて、より網羅的に企業を理解することができるのです。また、世界的な課題や潮流に対し、企業の対応の可能性を見定めるのにも、サステナブル評価が非常に重要です。
確かに、2022年は世界的に「株安」、「資源高」、「規制強化」という3つの逆風がESG投資に吹きました。
しかし、「株安」の面では、長期的な視野を持つ投資家は「Stay invested」(投資し続ける)の有効性を知り尽くしています。また、「資源高」の面では、中長期的に化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を促す動きだったとも言えるでしょう。日本、欧米、アジアで進む「規制強化」は、個人投資家にとってもESG投資が重要になったからこその動きであると考えます。
これら3つの逆風は表面的に過ぎず、「長期投資とはサステナブル投資である」との認識は世界中で一層強まっていると考えます。
朝倉 投資の世界では、残念ながら「グリーンウォッシュ」と言われる「見せかけのESG投資」の問題も指摘され、世間の目も厳しくなっています。規制も一層強化される方向で、サステナブル投資を取り巻く足元の状況は厳しくなってきているように見えますが、UBSアセット・マネジメントでは、この動きをどのようにお考えでしょうか?
松永 規制の整備は、ESG投資の比重が高い欧州で先行しています。特に、EU(欧州連合)によるSFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation、サステナビリティに関する情報開示規制)は、日本も含め、多くの国が参照している重要な枠組みになりつつありますが、世界的な各種規制の整備の本質は、「個人投資家の保護」だと思います。
ESG投資は、非常に広い概念です。「なんちゃってESGファンド」といわれる「グリーンウォッシュ」を防いでいくことも必要な一方で、個人投資家に対する投資対象の分かり易い説明努力は運用業界の責務です。新規制が出た当初は、投資家はESG投資を警戒し、金融機関側はESGファンドの販売を控える、という動きがあるかもしれませんが、いずれ規制に対応したESGファンドの展開が当たり前になっていくと考えます。私たちUBSアセット・マネジメントは、ESG投資に対する社会的合意や規制作りで先行する欧州で、先進的なサステナブル運用のノウハウを蓄積してきました。それを踏まえて、日本で果たし得る役割は大きいと考えています。
朝倉 このタイミングで「サステナブル投資」のファンドを日本の個人投資家向けに設定した理由をお聞かせください。
松永 私たちの「サステナブル投資」の長期的な重要性の認識に、一切揺らぎはありません。新たな知見を取り入れたサステナブル運用戦略の開発に取り組む中で出てきたのが、サステナブル特性が「これから良くなる企業を選び、育てる」という新発想のファンドです。
加えて、割安な銘柄、すなわちバリュー株に投資する運用手法を組み合わせました。個人投資家のポートフォリオでは、現状、成長株(グロース株)の比率が高くなっていますが、当ファンドの活用により、投資のスタイル分散効果にもつながるという点にも注目していただきたいと思います。
また、運用チームは、バリュエーション分析とESG分析を統合して投資リターンを追求し、優れた実績を上げてきました。2021年秋、富裕層部門向けに欧州籍の類似ファンドを運用開始して以来、2022年12月末時点で約560億円の残高となっています。欧州で支持された運用戦略を日本でも展開することで、日本の個人投資家の皆様の長期的な資産形成に貢献したいと考えています。
◆「ツイン・アセンダーズ」が持つ「双発エンジン」
朝倉 日本では2024年から新NISAが始まり、個人投資家の方々の中でも若い方に今後、長期投資がますます根付いていくと思います。ファンドの概要および特徴について、教えてください。
松永 当ファンドは「次世代型のサステナブル株式ファンド」であり、銘柄選択の基準として「インプルーバー企業の発掘」を行うのが一つ目の特徴です。二つ目が「バリュー投資」の観点で、これらの二つの「双発エンジン」で運用を行います。
ファンドの愛称「ツイン・アセンダーズ」は、一つには、今後ESG特性が改善に向かうとされる「インプルーバー企業」を発掘すること。二つには、その中でも、長期成長を加味した割安度が高いと判断される「コアバリュー銘柄」に投資することで、経済的リターンを追求しながら、投資を通じてよりよい未来の実現をサポートしていきたい、という私たち運用会社としての思いが込められています。
朝倉 「双発エンジン」の一つ目、「インプルーバー企業」についておたずねします。既に高いESG評価を受けている企業ではなく、インプルーバー企業に投資をすることが当ファンドの特徴ですが、そもそも、なぜ、今現在、ESGで高評価を受けている企業に投資をしないのでしょうか?
松永 一般的にESGファンドは一定のESG基準をクリアする「良い企業」に投資するものが主流です。しかし、昨今のESGブームでバリュエーションが割高になっていることも事実です。一方、市場全体を見ると、ESGスコアの上昇に伴ってバリュエーションが上昇するという傾向があります。そうであれば、ESGの面で優等生だが割高な銘柄に投資するより、なんらかの課題はあるものの、改善が期待される銘柄に投資することが有益であるという考え方に基づいています。これが、私たちの新しいESG投資のアプローチです。
朝倉 次に、二つ目の双発エンジン「バリュー投資」についても教えてください。当ファンドにおけるUBSアセット・マネジメントならではの「バリュー投資」の考え方はどのようなものでしょうか。
松永 目先の短期的な収益ではなく、10年間の長期的な業績予想に基づいた割安度評価である点が大きな特徴です。具体的には、世界各国に展開する30名超のアナリスト*が、およそ2500銘柄についてボトムアップ調査を実施しています。そこで長期的な業績推移を予想し、これを独自のディスカウント・キャッシュフロー・モデルで本源的価値に引き直し、個別株価の割安度を算出しています。2022年12月末までに30年超の実績を持つ株価評価プロセスです。
朝倉 世界の株式市場は、長年にわたりグロース投資が主流だった中、当ファンドはバリュー投資のスタイルを取りますが、今後の市場環境をどのようにとらえ、なぜグロースより、バリューなのかを教えてください。
松永 株式市場ではリーマン・ショック前夜から15年以上にわたって長期金利が低下し、グロース株が優位に推移してきました。これが、昨年のインフレ圧力の高進に対応する政策金利上昇を織り込む長期金利の上昇により、バリュー株優位の局面に変わっていきました。足元では、インフレ圧力は低下しつつありますが、構造的に世界中で労働力需給がひっ迫しやすい構造です。今後は、インフレ圧力が弱まり、金利が低下するような局面になっても、グロース一辺倒相場の復活ではなく、バリューとグロースが局面によって攻守を変える、スタイル拮抗がトレンドとなると考えています。当ファンドのご活用を通じて投資のスタイル分散をする意義は大きいと考えています。
朝倉 投資先の国、地域、資産などを分散することも大事ですが、「グロース」と「バリュー」の投資のスタイル分散も、今後は大事になってくると思います。(ファンドの運用内容について切り込む後編に続く)
UBSアセット・マネジメントのマネージング・ディレクターで、運用本部長ならびに株式運用部長を務める松永洋幸氏(写真)に、サステナブル投資の最新の潮流、ならびに「ツイン・アセンダーズ」の魅力について聞いた。
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2023-03-17 10:45