始動する植田日銀新体制に動きはあるのか? 外為オンライン・佐藤正和氏

「シリコンバレー銀行(SVB)」に端を発した欧米の金融不安は、金融当局や中央銀行などの素早い対応で収束したかに見える。金融不安の原因となった急激な金利引き上げのペースは、一時的にストップするかとさえ思われたものの、欧米の中央銀行は金利引き上げを継続。金利上昇が続く中でも、利上げペースは鈍化するとの見方が増えて株価は上昇している。為替市場でも、ドルが買われて円が売られている。そんな状況で4月の為替市場はどんなトレンドになるのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに為替相場の見通しを伺った。
--SVB破綻などの金融危機で、一時的に円高が進みましたが……?
全米で16位のSVBの破綻をきっかけに始まった一連の金融不安は、その後同じ米中堅銀行「シグネチャー銀行」やスイスの金融大手「クレディ・スイス」の経営危機にまで拡大しました。しかしながら、米財務省や中央銀行の「FRB(米連邦制度準備理事会)」「FDIC(連邦預金保険公社)」が、いち早く破綻した銀行の預金を全額保護することを打ち出しました。クレディ・スイスもスイスの金融大手「UBS」に買収されるなど、素早い対応が功を奏して、いまのところ落ち着きを取り戻しているように見えます。
金融不安が表面化したときには、ドルが売られて円が買われ1ドル=129円65銭まで円高が進行。有事の円買いが一瞬垣間見えました。しかし、リーマンショックを教訓にしたFDICが中心となり、銀行に対する「セーフティーネット」が十分に機能したことを証明してみせたために、金融危機は収束に向かったようです。
結局、市場には「リスクオン」の機運が拡がり、3月末から4月初めにかけてはドル円が買い戻されて、1ドル=134円台にまでドル高が進んでいます。今回の金融不安の原因が、中央銀行による金融引き締めの副作用として債券価格が下落し、債券の含み損が金融不安につながったため、急激な金利引き上げはもうないのではないか……。そんな思惑が広がりました。
--今後、中央銀行はどこまで金利を上げるのでしょうか……?
SVBやシグネチャー銀行の経営破綻が、急速な中央銀行の利上げであったことがわかり、一時は利下げもあるのではないかと噂されましたが、結局のところ3月は、FRBが0.25%、EUの中央銀行であるECBと英国の中央銀行であるイングランド銀行も0.5%の利上げに踏み切りました。インフレはまだ継続していくと判断したようです。
とは言え、以前のように急速な金利引き上げは想像しづらくなり、株式市場では、金利引き上げにブレーキがかかるとの見方から株価が上昇。合わせて為替市場でドルやユーロも買われたと考えて良いでしょう。例えば、金利引き上げを決めたFOMC(米連邦公開市場委員会)参加者の予測によれば、フェデラル・ファンド(FF)金利の最終的な誘導目標、いわゆるターミナルレートは「5.1%」でした。この予想通りであれば、現在の4.75%の金利から考えて、あと1回0.25%の利上げで金利引き上げは打ち止めになる可能性が出てきました。
ECBやイングランド銀行は、3月の0.5%ずつの利上げでどんな景気指標が出てくるのか注視する必要があるものの、金利上昇のトレンドはまだ続きそうな気配です。今後の金融危機の状況や景気指数の動向次第では、もうしばらく利上げが続く可能性もあります。
――原油価格がこのところ急激に上昇していますが、その影響は?
一方で、原油価格の上昇が急ピッチで進んでおり、その影響がどうなるのか懸念されます。OPECとその非加盟国の主要産油国で構成する「OPECプラス」は、4月2日になって、5月から日糧100万バレルを上回る減産を実施すると突然発表しました。
発表では、サウジアラビアとロシアが日量50万バレルずつ減産すると発表されており、原油価格が急騰しました。3月末には1バレル=75ドル67セントで取引されています。4月に入ってからも、NY原油先物市場で80ドル台をつけるなど急激な上昇が見られます。原油価格の上昇は、インフレを促進させる大きな要因になるために、今後の原油価格の動向には要注目です。原油価格の上昇は、ドル高円安に結びつきます。
――次期日銀総裁の植田氏の政策はどう考えればいいのでしょうか?
4月27日-28日にかけて行われる日本銀行の「金融政策決定会合」では、新たに就任した植田和男日銀新総裁が初めて、今後の金融政策の詳細について話すことになります。植田総裁は、急激な金融政策の変更はないと国会で述べましたが、そのままその言葉を踏襲するのか、それともかつての黒田東彦前総裁のようにサプライズがあるのか、注目したいところです。
もしサプライズがあるとしたら、「イールドカーブコントロール(YCC)」の修正になると思われますが、そのときには為替も含めて金融市場は大きく揺れることになります。YCCの修正があるとすれば、具体的には現在の上限金利を0.5%から0.75%に引き上げる、といったことが考えられますが、可能性は低いと思います。ただし、警戒は怠らないほうがいいかもしれません。
――4月の予想レンジを教えてください。
4月はFRBのFOMCやEUのECB理事会などがないために、中央銀行絡みの大きなイベントは無いかもしれません。ただし、為替市場などの金融マーケットは、5月の次回の政策会議までに発表される様々な景気指標や経済指標に大きく影響されます。とりあえずは、4月7日に発表される米雇用統計の非農業部門雇用者数の状況は、大きなサプライズもあるので、きちんとチェックする必要があります。また、CPI(消費者物価指数)やPCE(個人消費支出)などのデータにも要注目です。4月の予想レンジは次の通りです
●ドル円……1ドル=127円-136円
●ユーロ円……1ユーロ=139円-147円
●ユーロドル……1ユーロ=1.05ドル-1.11ドル
●英国ポンド円……1ポンド=160円-168円
●豪ドル円……1豪ドル=87円-91円
―― 4月の取引で注意すべき点は何でしょうか?
現在の為替市場は、金利差よりもリスクオンを重視した相場になっており、株価は大きく上昇し、それにつられてドルも買われているという状況です。とはいえ、これまでのような急激な円安が進むとは考えにくく、思い込みだけでトレードするのは危険かもしれません。
やはり、随時発表されていく経済指標を見ながら、5月のFOMCまでにどんな状況になっていくのか、きちんと見極めたいものです。日本国内では、とりあえず植田新総裁の発言内容に注目しましょう(文責:ウエルスアドバイザー編集部)。
「シリコンバレー銀行(SVB)」に端を発した欧米の金融不安は、金融当局や中央銀行などの素早い対応で収束したかに見える。金融不安の原因となった急激な金利引き上げのペースは、一時的にストップするかとさえ思われたものの、欧米の中央銀行は金利引き上げを継続。金利上昇が続く中でも、利上げペースは鈍化するとの見方が増えて株価は上昇している。
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2023-04-04 16:30