5月の為替市場見通し 金融危機再燃、金利引き上げの継続でどうなる為替市場? 外為オンライン・佐藤正和氏

欧米の中央銀行による金利引上げ継続の見通しが続く中で、米国の「ファースト・リパブリック・バンク」の株価が大きく下落し、再び金融危機が意識されるようになっている。そんな中で、米国の景気指数は意外と強い結果が相次いでおり、不透明感の強い相場が続いてきた。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに5月の為替相場の見通しを伺った。 --再び米銀行の経営危機説が浮上してきましたが……?  シリコンバレー銀行(SVC)、シグネチャー・バンクそしてクレディ・スイスと続いた金融危機が終息したかと思われたのですが、米国のファースト・リバブリック・バンクの資金流出に歯止めがかかっていないという報道が出て、株価が大きく下落しました。同行の株価は、4月25日のマーケットでは50%の下落を記録し、26日は一時41%下落し、上場来安値を記録しました。 ファースト・リバブリック・バンクと言えば、SVCなどが破綻したときに、複数の大手米銀が財務基盤を安定させようと約3000億ドル(約4兆円)を同行に預金する形で財務強化を図ったことで知られましたが、資金流出に歯止めがかかっていないようです。2023年1-3月期の決算では、1000億ドル余の預金が流出したことが明らかになっています。ブルームバーグは、同行は保有する資産など500億ドル-1000億ドルの売却を検討していると報道していますが、先行きは見通せていません。 先ごろ来日した世界最大の資産運用会社である「ブラックストーン」のシュワルツマンCEOがインタビューで「今後、さらに米地銀がつぶれる可能性はある」と述べています。金融機関にとってやはり「信用」は経営の根幹と言っていいでしょう。 --今回の金融危機が「リーマンショック」のようになる可能性はないのでしようか……?  経営危機に陥り、USBに買収されたクレディー・スイスグループも、1-3月期は612億スイスフラン(約9兆2000億円)の資金が流出したと報じられており、とりわけ富裕層に特化した「ウエルスマネジメント部門」からの資金流出が多く、USB買収後も依然として資金流出が続いているようです。  ただ、今回の金融危機は、体力のない金融機関、あるいは資産と負債を総合的にリスク管理する「ALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)」がきちんと構築されていない金融機関、盤石な経営基盤を持たない金融機関などが、FRB(米連邦準備制度理事会)の急激な金融引き締めによって「あぶり出された」結果であると考えています。  こうした金融機関の信用不安が収まるには時間がかかるかもしれませんが、リーマンショックのような構造的で広範囲な危機にはならないと考えています。FRBの引締めも「終盤に近い」と見られており、この先よほどのことがない限り深刻な事態にはならないのではないでしょうか。 ――そのFRBの動きですが、今後の見通しは?  5月2-3日にかけて行われるFRBのFOMC(米連邦公開市場委員会)では、0.25%の金利引き上げが続くと予想されていますが、問題は6月以降の動きに対して、どんな言及があるかです。FRBの内部でも意見が分かれている状態で、金利引き上げを打ち切るべきだという理事もいれば、継続すべきだという理事もいて、コンセンサスが得られていないようです。  最終的な金利引き上げの目安である「ターミナルレート」も、平均では5.1%程度となっていますが、セントルイス連銀のブラード総裁のように「5.625%」と主張している人もいます。今後発表される景気指標次第ともいえますが、その景気指標もたとえば4月のPMI(購買担当者景気指数)では全体的に市場予想を上回っており、NY連銀製造業景況感指数に至っては、「マイナス18.0」の予想に対して「プラス10.8%」と、予想を大きく上回りました。方向感がつかみにくい相場が続くと予想されます。 --ここ数日、ユーロ高が続いていますが今後も続くのでしょうか?  5月4日にECB(欧州中央銀行)の理事会が開催されますが、0.25%あるいは0.5%の追加利上げが予想されています。やはりCPI(消費者物価指数)が高止まりしているためですが、金利の先高観が強く、現時点ではユーロが一番強い通貨になっています。  ECBの中でも、ドイツやオランダといったインフレに敏感な国のタカ派傾向が強く、ロシアによるウクライナ侵攻の影響によって高止まりした資源価格の下では、冬を乗り切ったとはいえ、もうしばらく金利の上昇は続くかもしれません。 --日銀の植田新体制がスタートしますが、今後の見通しは?  4月27日-28日にかけて、日銀の植田和男新総裁による初めての金融政策決定会合が開催されています。大きな動きはないと思われますが、問題は今後の動向です。植田総裁も、大規模緩和の副作用は認めており、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の修正を皮切りに、6月、7月、9月あたりの金融政策決定会合で、何らかの「示唆」が出てきてもおかしくはありません。  いずれにしても、当面は大きなサプライズはないと思われます。ただ、それでも一気に円安が進むといった動きにはならず、FRBの「金利引き上げ終了」が近づいている現実がある限り、ドル円は神経質な動きになると思われます。特に、日本の国内投資家が揃って円買い(ロング)ポジションを保有している段階では、AI(人工知能)を使ったプロの投資家は円売り(ショート)を仕掛けてくるケースが目立つと思われます。 ――5月の予想レンジを教えてください。 5月前半はゴールデンウィークになるため、日本市場が連休になります。その間に、米国の雇用統計が発表されるために、しばしば「フラッシュバック」と呼ばれる急激な価格変動が起こることがあります。ちなみに、4月の非農業部門雇用者数の予想は18万人増(3月は23万6000人)、失業率は3.6%(3月は3.5%)と予想されています。発表日の5月4日前後は特に要注意です。5月の予想レンジは次の通りです ●ドル円……1ドル=129円-135円 ●ユーロ円……1ユーロ=141円-149円 ●ユーロドル……1ユーロ=1.07ドル-1.13ドル ●英国ポンド円……1ポンド=160円-170円 ●豪ドル円……1豪ドル=86円-91円 ―― 5月の取引で注意すべき点は何でしょうか?  やはり、前半のゴールデンウィークの期間中は注意が必要です。数年に一度は、大きな変動があります。プロの投資家が、明け方のような取引の少ない時間帯に、個人投資家のポジションのロスカットを狙って仕掛けてくるもので、ドル円の場合は「急激な円高」に注意が必要です。  ドル買いのポジションを大量に抱えたまま休日を過ごすのではなく、ポジションを縮小してこまめな取引を心がけたほうがよさそうです(文責:ウエルスアドバイザー編集部)。
欧米の中央銀行による金利引上げ継続の見通しが続く中で、米国の「ファースト・リパブリック・バンク」の株価が大きく下落し、再び金融危機が意識されるようになっている。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに5月の為替相場の見通しを伺った。
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2023-04-28 10:15