きちり、東証1部上場をステップに「きちりスタイル」を一段と深化

 きちり <3082> は、2014年5月8日に東証1部に指定される。2007年7月に大証ヘラクレス(現JASDAQ)に上場して以来、2013年3月に東証2部に上場、そして、東証1部に指定替えと、順調に成長の階段を上がってきた。同社代表取締役社長の平川昌紀氏(写真)に、東証1部上場を機に今後の展望を聞いた。 ――2007年7月に大証ヘラクレス(現JASDAQ)に上場してから、東証1部に上場するまで、順調に成長を続けてきていますが、その成長の背景は?  外食産業に「新しいスタンダード」を創りたいと考え、徹底した付加価値追求戦略を進めてきた結果だと考えています。当社のメインの業態である「KICHIRI」について、“若い女性を対象としたモダンなカジュアルダイニング”などと表現することがありますが、実際には「付加価値の高い外食店舗を展開したい」と考えて出店した結果、若い女性の方々に、その価値を評価していただいたのです。  当社が志向しているのは、多店舗展開が可能なゾーンの最高価格帯にフィットした業態です。私は、外食とは、「小売り」+「サービス」と考えました。このバランスの上に成り立つもので、「小売り」を重視すれば価格を訴求する業態に行き着きます。半面で「サービス」を重視すれば、ロングテールとなってチェーン展開が難しくなります。多店舗展開をしていく上で、「小売り」と「サービス」の最適なバランスを見極めて店舗開発をしています。  上場企業としては、株主の期待に応える成長が必須の条件になります。そこで、時代やライフスタイルが代わっても、成長し続けられる外食産業の新しいビジネスモデルを追求してきたのです。 ――付加価値の高さとは?  企業理念として「大好きがいっぱい」を掲げ、「大好きがいっぱい」を形にしてお客さまに提供しようと、常々、従業員には呼びかけています。そこには、「3つのカタチ」があると思っています。  それは、お客様への接し方、行動や言動などの「振舞い」、店舗のあり方やBGMなどの「設え」、そして、身だしなみなどの「装い」です。従業員の一人ひとりが、この3つのカタチを考え、それぞれ最適なカタチでお客様に提供するよう、常に心がけるようにしています。  この3つのカタチは、おもてなしの心に通じるのですが、これを一人ひとりの従業員が、それぞれに最高なカタチで表現することができれば、それこそが付加価値になります。ですから、当社にはチェーン店に備え付けの接客マニュアルがありません。一人ひとりが、自ら考えることが大切だと考えているからです。 ――どのような「店」をめざしているのですか?  「KICHIRI」がめざしているのは、居酒屋のように気軽に集まれる店であり、かつ、ディナーレストランとしても考えていただけるような店です。今でこそ、居酒屋でローストビーフやオマールえび、フォアグラなどを出すことは珍しくなくなりましたが、「KICHIRI」では最初から高級フレンチや高級イタリアンで使われている食材を積極的に採用し、提供してきました。  また、「いしがまやハンバーグ」もハンバーグの素材と焼き方にこだわり、そのこだわりをプレゼンテーションしながら付加価値を乗せて提供することで、1300円-1500円という価格帯であっても、ご来店したお客様に高い満足度を感じて頂けています。 ――接客マニュアルがない中で、より良いサービスを提供しようとすると従業員に高いモチベーションが必要なのでは?   お客様満足度とともに、従業員満足度は大きな経営指標として意識しています。たとえば、毎年、全社員が参加する「社員総会」を開催し、当社の現状と5年後の目標について私から直接伝え、全社員の参加意識を促しています。  また、ピラミッド型の組織を崩してネットワーク型の組織にし、一人ひとりの働く意欲を高める仕組みを取り入れています。たとえば、「きちりMBA」という制度は、従業員の得意分野について評価し、優れた社員には「マスター」の称号を与え、他のスタッフへの教育研修に出向いてもらっています。厨房の掃除が得意な社員、おもてなしでお客様から優れて高い評価を得る社員がいます。このような社員は、自らの技術を共有化するための企画書をつくり、「マスター」に申請するのです。  一方、従業員と、その家族が参加する社員旅行も定期的に開催しています。前回はバリ島に行ってきたのですが、家族の方々にも、働いている仲間や現場を知っていただくことの価値は大きいと思っています。  さらに、アルバイト(パートナー)に対しても、毎年、リッツカールトンで「きちりパートナー卒業式」を開催して、アルバイトとして働いてくれたことに感謝し、ねぎらっています。店舗で働いてくれているすべてのスタッフに対し、きちんとした信頼関係を築いていきたいという思いから実施している社内イベントです。 ――今後の成長戦略は?  自社ブランド展開事業と、当社が独自に展開しているプラットフォームシェアリング事業を両立させながら、安定的な事業成長を図っていきたいと考えています。  たとえば、「KICHIRI」などの自社ブランド直営店は、現在72店舗ですが、これを2018年6月期までに立地を厳選しながら100店舗に拡大したいと考えています。現在、首都圏では28店舗を出店していますが、200店以上の出店余地があると考えていますので、自社ブランド展開事業の成長余力は依然として大きいと考えます。  一方、プラットフォームシェアリング事業は、計量器メーカーのTANITAと共同展開する「タニタ食堂」や、精米機メーカーであるサタケと展開する「おむすびのGABA」、ファッションブランドの「オロビアンコ」とのイタリアンレストラン、農事組合法人福栄組合と共同展開するはかた地どりのアンテナショップ「福栄組合」など、着実に成果を重ねています。  強いブランド・コンテンツを持っておられるリーディングカンパニーと当社のプラットフォーム(外食のインフラ)を掛け合わせることで、新しいレストランビジネスの創出を行っています。また、同業の外食企業にもこのプラットフォームを提供しており、既に4社(約100店舗)で活用していただいています。今後は、同業外食企業への提供先を500店舗にまで広げる計画です。(取材・編集担当:徳永浩)
きちりは、2014年5月8日に東証1部に指定される。同社代表取締役社長の平川昌紀氏(写真)に、東証1部上場を機に今後の展望を聞いた。
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2014-05-01 09:00