米金利上昇で緩やかな円安進行が続く? 外為オンライン・佐藤正和氏

 6月最終日には1ドル=145円の大台を瞬間的に超えるなど、ドル高円安が進んでいる。欧米の中央銀行の金融引締め策が今後も継続され、金利の引き上げが続く中で、ずるずると円が売られる状況だが、このまま円安が継続するとしたらどこまで円は売られるのか……、それとも日本政府による為替介入はあるのか……。予測が難しい7月相場になりそうだ。そこで、外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに7月の為替相場の見通しを伺った。 ――パウエルFRB議長が今後2回の利上げの可能性を示唆しましたが……?  ポルトガルで開催されていたECBフォーラムで、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「政策は景気抑制的だが、十分に抑制的でない可能性がある。抑制的な政策はまだ十分行われてはいない」と、今後2回の利上げの可能性について言及しました。さらに、「コアインフレについては2025年まで当局の目標の2%まで戻ることはない」との見方を示しました。  一時、市場では年内利下げまで織り込んで株価などが上がりましたが、大きくその予想が外れた形になりました。7月25-26日にかけて行われるFOMC(米連邦公開市場委員会)では、0.25%の利上げはほぼ確実になったと言っていいでしょう。  さらに、まだ2年以上もコアインフレの目標値には届かない可能性についてまで指摘したことで、少なくとも当面の間、利下げはないと判断せざるをえなくなりました。こうした発言を背景に、ドル円はずるずると円安方向に動いており、6月30日には瞬間的に145円を超えて来ました。 ――どこまで円安が進むのでしょうか……?  1ドル=145円台と言えば、前回1ドル=150円を突破した円安局面のときの為替介入のタイミングでした。今回もすでに鈴木財務大臣や神田財務官が円高を牽制する発言を行っていますが、その効果はあまりなさそうです。とりわけ、今回は以前と異なり穏やかに円安が進行しているため「過度の変動」とは認定しづらく、介入する大義名分が見つかっていないような状況です。  米国の大手銀行である「バンク・オブ・アメリカ」もレポートで「FOMCでの追加利上げが年内続くようであれば、ドル円は160円もある」といった見通しを発表しています。為替介入の警戒体制には入っているものの、以前のような急激な円高回帰にはなかなかならない状況といえます。  また、今回のドル円相場で注目したいのは、前回のようにドルが上昇しても「ボラティリティ(変動幅)」が上昇して行かないことです。むしろボラティリティが下がっているのが特徴的で、通常の相場とは異なっていると言って良いでしょう。ちょっと難しい話になりますが、ドル高になれば通常は 「ドルコール(買い)」と「ドルプット(売り)」の差がプラスになる傾向があり、事実昨年5月6日と、9月6日にドル高が進んだ際にはプラスに上昇しています。今回は、ドル円が145円台に進んだ際でも同指数は「マイナス0.97」にとどまっています。 ――どんな点に注目していけばいいのでしょうか?  とりあえずは、7月7日に発表される米雇用統計も重要な指標と言って良いでしょう。今のところ、非農業部門雇用者数は20万人の増加(前回は33万9000人増)となっています。失業率は3.6%(前回3.7%)という見通しが発表されています。依然として雇用は悪くない見通しといえますが、なにかサプライズがないか注目しておきたいところです。  また、2023年1-3月期のGDP確定値が「1.3%」から「2.0%」に上方修正されたことからも、米国の景気は依然として好調さが維持されているようです。ただ、米国家経済会議(NEC)のブレイナ―委員長は「消費者物価の数字は今年後半に、持続的に改善することが予想される」と発言するなど、政府内部でも意見は分かれているようです。それだけ判断が難しい局面にあると言っても良いでしょう。 ――7月の予想レンジを教えてください。  先のECBフォーラムでは、ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁が「(利上げの停止については)現在は考えていない。我々がまだやらねばならないことがある」と明言するなど、欧州では依然として利上げが継続しているようです。英国のイングランド銀行は6月の金融政策委員会で0.5%の利上げを発表して驚かれました。オーストラリアも依然として利上げの予想が残っています。金融緩和を続ける円の全面安という状況です。  日銀の植田総裁は、ECBフォーラムでも相変わらず金融緩和の姿勢を維持すると明言しましたが、「来年インフレが上向くと確信が持てれば、金融政策の正常化に着手することはあり得る」と、いままで発言から一歩踏み込みましたが、7月の金融政策決定会合では何もないと考えられます。7月の予想レンジは次の通りです。 ●ドル円……1ドル=139円-147円 ●ユーロ円……1ユーロ=152円-160円 ●ユーロドル……1ユーロ=1.06ドル-1.11ドル  ●英国ポンド円……1ポンド=177円-185円  ●豪ドル円……1豪ドル=93円-97円 ――こういう不透明な相場では、どんな点に注意すべきでしょうか?  1ドル=145円-150円までのレンジでは「ロング(買い)」で行くのか、「ショート(売り)」で行くのか迷いがちですが、少なくともロングで勝負しているときには細かく利益確定をするような取引がいいと思います。以前のように、政府の為替介入がいつあるのか予想が難しく、また実際に介入がなくても介入を見込んでショートのポジションが積み上がっていくため、相場は不安定になります。  とりわけ、1ドル=150円を超えて行くような局面になった時には、神経質な相場が続くことになるはずです。ポジションを小さくして、こまめな利益確定を心がけましょう。(文責:ウエルスアドバイザー編集部)
6月最終日には1ドル=145円の大台を瞬間的に超えるなど、ドル高円安が進んでいる。予測が難しい7月相場になりそうだ。そこで、外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに7月の為替相場の見通しを伺った。
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2023-07-03 12:45