金融緩和への第一歩か、YCC柔軟化が意味するもの?外為オンライン・佐藤正和氏

日本銀行の金融政策決定会合で発表された「YCC(イールドカーブコントロール)柔軟化」は、ドル円相場に大きな影響を与え、ドル円相場は瞬間的に3円以上動く荒れた相場となった。結局、1ドル=143円台まで上昇し円安傾向が進んでいるものの、ドル高に対する警戒感も根強く、今後の展開には市場関係者も判断に苦慮していると言っていいかもしれない。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに8月の為替相場の見通しを伺った。
――今回の日銀の金融政策修正はどう考えれば良いのでしょうか?
金利の上限幅を「0.5%」から「1.0%」まで認める姿勢を示したことは、やはりサプライズであり、金融政策の転換かとも思われましたが、短期金利はそのまま据え置きであり、金融緩和は依然として続けると言う姿勢を明確に示していることを考えると、やはり「柔軟化」であり「修正」と言って良いのではないでしょうか。
実際に、日本の長期金利が0.6%台にまで上昇したところで、日銀の買いオペが入り、それ以上の金利高を阻止する姿勢を明確に示しました。市場参加者の多くは、金融緩和政策が転換されたわけではないことを確信したと思います。
わかりやすく言えば、今回の柔軟化は「金融緩和への第一歩」であり「とりあえず様子を見た」と言って良いかもしれません。日本のインフレが収束する気配を見せていない現状では、今のうちに金融緩和への姿勢を見せたときに市場がどんな対応を見せるのか、様子を見た、といって良いでしょう。
――米金利は0.25%引き上げられましたが、今後はどうなるのでしょうか?
9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で再び金利が引き上げられるかどうかは、今後の景気指標などの結果次第と言えます。ただ、現在の米国の消費者物価指数は3.0%(6月、前年同月比)となっており、日本の3.3%(同、総合指数)よりも低い数値になっています。
8月は、FOMCや日銀の金融政策決定会合がないため、政策金利はこのまま推移することになります。ただ金融マーケットは、長期金利の推移や様々な経済指標、FRB(米連邦準備制度理事会)メンバーの講演などでの発言内容によって影響を受けるため、8月相場が平穏に終わる可能性は低く、やはり大きな動きになることが予想されます。
とりわけ、8月24日~26日に行われる経済政策シンポジウムの「ジャクソンホール会議」では、パウエルFRB議長が出席してどんなことを語るのか、大きな注目を浴びることになるはずです。日銀の植田和男総裁も参加することになれば、注目を集めると思われます。こうした要人の発言によっても、相場はしばしば大きく動くため、様々な経済ニュースには目を通しておく必要があります。
――トレンドは「ドル高円安」と考えて良いのでしょう?
今回の日銀の修正を「中途半端な試み」として、1ドル=145円ぐらいまで円安が進むのではないかと、ブルムバームが専門家の意見として指摘しています。そこまで円安が進めば、今度は逆に日本の政府当局の介入が可能性を帯びてきます。そういう意味では、急激な円安には注意が必要かもしれません。
米経済は、インフレが急速に収束しつつあり、加えて、第2四半期GDPの速報値が「2.4%」と発表されるなど、予想外の強さを示しています。米経済は景気の強さを示しており、ソフトランディングに成功しつつある、と市場関係者の多くは捉えているようです
金利引き上げの可能性が少なくなったとして、金利上昇に弱い「金価格」は2ヶ月ぶりに1トロイオンス=2000ドルを突破しています。もっとも、原油価格はこの1ヶ月で20%も上昇しており、インフレ懸念が完全に払拭されたわけではありません。
――8月の予想レンジを教えてください。
8月は、世界的にサマーバーケーションの季節になり、市場参加者が減っていくため、どうしても変動幅の大きな相場になることが予想されます。注目すべき経済指標で注意したいのは、やはり8月4日の米雇用統計です。非農業部門雇用者数では、6月の20万9000人増に対して20万人増の予想になっています。失業率は6月と同じ3.6%です。
その他、8月4日には英国の金融政策委員会が実施され、利上げがもう一度あるかもしれません。8月の予想レンジは次の通りです。
●ドル円……1ドル=138円-144円
●ユーロ円……1ユーロ=153円-159円
●ユーロドル……1ユーロ=1.07ドル-1.12ドル
●英国ポンド円……1ポンド=178円-186円
●豪ドル円……1豪ドル=93円-97円
――8月相場では、どんな点に注意すべきでしょうか?
やはり、市場関係者の多くが夏休みをとっているため、どうしても値動きが荒くなると考えられます。しばしば「フラッシュ・クラッシュ」と言われる急激な相場変動が起こる可能性もあり、ポジションを抑え気味にして細かな利益確定を心がけたいものです。
とりわけ急激な円安では、政府による市場介入を念頭に入れて、一方的なトレンドに賭けるのはリスクが高いかもしれません。様々な指標やFRB、日銀などの理事の言動には注目しておきましょう。(文責:ウエルスアドバイザー編集部)。
日本銀行の金融政策決定会合で発表された「YCC(イールドカーブコントロール)柔軟化」は、ドル円相場に大きな影響を与え、ドル円相場は瞬間的に3円以上動く荒れた相場となった。結局、1ドル=143円台まで上昇し円安傾向が進んでいるものの、ドル高に対する警戒感も根強く、今後の展開には市場関係者も判断に苦慮していると言っていいかもしれない。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに8月の為替相場の見通しを伺った。
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2023-08-02 12:30