「米国割安株」にも投資機会、アライアンス・バーンスタインのポートフォリオ・マネージャーに聞く

史上最高値を更新し続けている米国株式市場にも転換点が近づいているといわれる。政策金利が5%台に高止まりし、インフレが抑制されるとともに経済成長も鈍化しつつある。これまで一部の大型ハイテク株の上昇が支えてきた米国株式市場の流れも景気の変調によって変化する可能性がある。「アライアンス・バーンスタイン・米国割安株投信」のポートフォリオ・マネージャーであるクリストファー・コトウィッツ氏(写真)に、米国経済の現状や米国株式運用戦略について聞いた。
――米国の株高が続いていますが、実際の米国経済の現状を、どのように捉えていますか?
昨年までの金利の大幅な引き上げによって、住宅販売戸数、自動車販売など耐久消費財を中心に成長の鈍化を示す経済指標が表れてきています。米国景気がスローダウンしていることは間違いないと考えますが、それでも米国の株価が上昇しているのは、米国株式市場独自の理由によります。
米国株式市場は、「マグニフィセント・セブン(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、エヌビディア、テスラ)」と言われる一部の大型ハイテク株に集中した株高になっています。生成AI(人工知能)の実用化の進展によって社会が変革されるという大きな成長ストーリーがあったため、「マグニフィセント・セブン」が上昇することの理由付けとなっていました。実際に、エヌビディアの発表する業績などは、市場の予想を超えるほどの好調な決算が続いていたのです。
ただ、今後の企業業績見通しについて、2024年7-9月期、10-12月期、2025年1-3月期を見ると、「マグニフィセント・セブン」とその他の企業の利益成長が、徐々に均質化していく見通しになっています。これが、現在の米国株式市場で起こっていることです。
これまで、一部の大型株が突出して市場をけん引してきましたが、今後は、期待成長率が非常に高いために割高な水準にまで上昇した銘柄については動きが鈍化し、それ以外の銘柄に投資機会が広がると考えています。米国の金利は1年ほど高止まりして横ばいだったことで、収益が改善している企業が増えてきています。
――米国株式市場ではエヌビディアなど半導体関連株の株価が上昇し、グロース優位の市場が続いているようですが、バリュー投資の観点で、投資機会はありますか?
直近の米国株式市場は、S&P500指数構成銘柄のうちS&P500指数のリターンをアウトパフォームしている銘柄は3分の1程度でしかありません。通常は50%くらいの銘柄がS&P500をアウトパフォームしていることと比較すると、非常にいびつな形になっています。この是正が起こりつつあります。その動きの中で、特に、バリュー銘柄には活躍の機会が広がっていると考えています。
――アライアンス・バーンスタインの「バリュー戦略」の特徴を教えてください。
「アライアンス・バーンスタイン・米国割安株投信」の運用戦略である「レラティブ・バリュー」戦略は、一般的なバリュー戦略である株価の割安度に着目した「ディープ・バリュー」とは一線を画しています。「レラティブ・バリュー」戦略では、株価の割安度だけではなく、企業のビジネスの強さやクオリティなどもしっかり評価したうえで、「優れたビジネスモデルを有し、業績改善の兆しがある企業を発掘し、その上で株価が割安な銘柄」に投資します。株価だけでなく、企業をしっかり見ているところが大きなポイントです。
それは、運用体制にも表れています。「レラティブ・バリュー」戦略を担当するチームは、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」を運用している「ラージ・キャップ・グロース」戦略を担当するチームと同じです。同じアナリスト、同じクオンツなどのリサーチチームのサポートを受けて運用しています。
ポートフォリオの構築にあたって、1200銘柄以上の投資ユニバースから、株価の割安度などからクオンツ分析によって、投資対象候補を300銘柄程度に絞り、そこから個々の企業のファンダメンタル分析によって確信度の高い銘柄をピックアップして60~90銘柄のポートフォリオに落とし込んでいきます。この間、ポートフォリオ・マネージャーとアナリストは継続的に協働します。このような規律あるポートフォリオ構築は、アライアンス・バーンスタインの運用を支えるバックボーンとして、成長株投資にも割安株投資にも共通のものです。
「レラティブ・バリュー」戦略の過去10年(2024年3月末時点)のリターンは米ドルベースで年率10.9%で、ラッセル1000バリューの9.0%を上回り、競合の米国大型バリュー戦略の中央値をも上回っています。グロース優位の期間が長かった過去10年においても年率2ケタのリターンを獲得できています。これは、上昇追随率は競合の米国大型バリュー戦略の中央値にはやや劣るものの、下落追随率は大幅に小さいことが要因です。
――米国大型株運用チームは、「グロース」も「バリュー」も両方の戦略を並列して実施しているということですが、そのことによるメリット、デメリットは?
「レラティブ・バリュー」戦略のパフォーマンスを要因分析すると、ラッセル1000バリュー指数などのインデックスをアウトパフォームしている要因は、ほとんどが銘柄選択効果です。たとえば、2024年1月~5月で、「レラティブ・バリュー」戦略はラッセル1000バリュー指数を1.4%程度アウトパフォームしましたが、その要因のほとんどが銘柄選択効果という結果でした。このように、銘柄選択がパフォーマンスの決め手であり、バリュー戦略でもグロース戦略でも優れたビジネスを行っている企業を見極めるということに特化したチームの存在は大きな財産だと思います。
米国大型株運用チームは、割安株投資でも成長株投資でも、ともにビジネスのクオリティを重視しています。同じフレームワークを使って、いくつかの要素について重視するポイントが違うことで異なるポートフォリオを作ることができます。2つの戦略は、ともに収益性、資産成長、バリュエーションという3つの特性を重視していますが、「ラージ・キャップ・グロース」戦略では、なかでも収益性と資産成長をより重視しています。このことによって、「持続的に成長する非常に優れたビジネスを組み入れる」というポートフォリオを構築し、ベンチマークを上回る実績を残してきました。
これに対し、「レラティブ・バリュー」戦略では、収益性とバリュエーションをより重視しています。「優れたビジネスを魅力的な価格で組み入れる」ことをめざしているためです。バリュエーションだけでなく、企業の収益性やビジネスの強さを評価しているため、一般的なバリュー戦略と比較してバリュー相場の時に上昇率がやや劣るという部分はありますが、バリュー戦略が下落する局面において「レラティブ・バリュー」戦略の下落率は低く抑えられ、結果として中長期のリターンでは他のバリュー戦略に勝るパフォーマンスを残しています。
これまでの株式市場は、「グロース」が優位な局面と「バリュー」が優位な局面が交互に起こってきました。過去10年という期間では、「グロース」が優位な期間が長くなっていますが、その中にあっても「バリュー」が活躍した期間もあります。「グロース」と「バリュー」が、どちらが優位な展開になるのか、その変化のタイミングを見極めることは非常に難しいことです。ですから、どちらかの戦略をタイミングを見計らって入れ替えて投資するというより、両方の戦略を平行して保有することによって、ポートフォリオ全体として安定的なパフォーマンスを獲得することにつなげることができます。
――米国株式市場の中長期的な見通しを聞かせてください。過去数十年にわたって、米国株式市場は世界の株式市場をリードする存在であり続けました。インドなど新興国が台頭する中、引き続き、米国は世界の中心であり続けることができるのでしょうか?
米国企業には、イノベーションの先端企業が多く含まれており、他の市場よりも高い成長が期待できる市場であるということができます。米国は医薬品や医療機器、産業機械など多くの分野で世界のリーダー企業がそろっています。このような優位性は、他の市場に勝っていますので、引き続き世界の投資家の注目を集め続けると考えます。
もう一つは、米国株式市場の投資家層の厚さを背景に、世界の企業が米国株式市場への上場をめざしています。英国発祥の半導体開発会社であるアーム、オランダの半導体関連企業であるASMLなど、米国市場を主たる市場にしている外国企業は少なくありません。世界の有力な企業が米国上場を目指すということも米国株式市場が世界の中心であり続けることの要因の1つになっています。
「アライアンス・バーンスタイン・米国割安株投信」のポートフォリオ・マネージャーであるクリストファー・コトウィッツ氏(写真)に、米国経済の現状や米国株式運用戦略について聞いた。
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2024-07-30 10:45