「資産運用立国」実現に向け役割を果たす、国内市場改革にできることは?=野村アセットマネジメントの決意

 野村アセットマネジメントは3月17日、東京・丸の内の東京會舘で、年金基金等の機関投資家を対象としたProject BRIDGEセミナー2025「資産運用立国実現に向けた課題と展望」を開催した。基調講演を前内閣総理大臣の衆議院議員の岸田文雄氏が行い、特別講演を東京証券取引所の代表取締役社長の岩永守幸氏が行った。セミナーの冒頭であいさつに立った野村アセットマネジメントのCEO兼代表取締役社長の小池広靖氏は「野村グループは2025年12月25日に創立100周年を迎える。この大きな節目に責任ある投資家として資産運用立国実現プランの理念実現の一翼を担えるよう、一段と取り組みに力を入れていきたい」と力強く宣言した。セミナーの後半では、野村アセットマネジメントのグローバル・リサーチ部チーフ・エコノミストの胡桃澤瑠美氏が「トランプ政権の日本経済・金融政策への影響」をテーマに、野村アセットマネジメント常務CIOの村尾祐一氏が「日本株式市場見通しと海外投資動向」、野村資本市場研究所常務の関雄太氏が「資産運用立国実現に向けてインベストメント・チェーンの参加者が果たすべき役割」をテーマに講演した。(写真はセミナーの様子) ◆資産運用立国議員連盟で改革の継続を提言  基調講演で岸田氏は首相時代を振り返り、「デフレ脱却に向けて『新しい資本主義』を掲げてさまざまな改革に取り組んだ」とし、その改革の方向性として(1)物価高に負けない賃上げの定着へ、(2)リスキリングや職務給の導入など労働市場改革、(3)価格転嫁の徹底――などをあげた。そして、賃上げを起点とする成長と分配を持続的に確保することが重要であり、その成長と分配の実現を支えるのが金融であるとした。そして、資産運用立国の実現によって資産形成に向けた投資が根付けば、「企業に成長資金が届き、企業価値の向上によって分配の恩恵が家計に還元され、資金が好循環することによって国民生活が豊かになる」と資産運用立国の目的を語った。そして、「資産運用立国に向けて資金の流れを変えることは一朝一夕にはいかないだろう。家計や企業、アセットオーナーなどインベスメント・チェーンの参加者が1つの方向に向けた改革の努力を継続することが重要」と説いた。  岸田氏は現在、資産運用立国議員連盟を率いて政府に対してさまざまな提言を行っている。たとえば、金融庁が今年7月の設置を決めた「資産運用課」についても議員連盟が提言した内容の1つと紹介。「銀行課、保険課、証券課に並ぶ第4の柱として資産運用業の育成、発展に努めてほしい」と期待を込めた。また、現在は4月末を目標に6月に発表される予定の政府の骨太の方針に盛り込んでほしい提言をまとめていると語った。その内容については、「家計の資産の60%を保有する高齢者の資産を活用するための制度」「NISAの利便性を拡充する提案」「DC(確定拠出年金)の商品選択の幅を広げる提案」「家計へのアドバイスや金融教育の拡充策」などさまざまな分野について検討しているとした。そして、岸田氏が声を大にして訴えたのは、「日本の改革について海外に向けて発信し続けること」だった。日本の改革に対して海外の評価が高まることが改革の実効性を高めることにつながると強調していた。 ◆東証改革は上場企業と投資家の「対話」の促進へ  東証の岩永氏は、東証が発したいわゆる「PBR要請」から2年が経過したことで、「企業価値向上に向けた取り組みは『開示』より『中身』が問われている」と現状を語った。企業価値向上について実効性のある取り組みは、プライム市場の上場企業で10~20%程度、スタンダード市場では10%程度にとどまるのではないかという見方もあり、「企業の目標設定から取り組みの内容などについて投資家の期待とのギャップがある例が少なくない。そのギャップを埋めるために投資家との対話が重要だ」と指摘した。東証では機関投資家との対話を求めている上場企業を公表し、投資家と企業との対話を促す取り組みを強化しているという。対話を求める企業の数は、今年1月末時点で235社が2月末には270社に増えている。  そして、東証は個人株主を増やす取り組みに注力していると紹介した。日経平均株価が34年ぶりの高値を付けた2024年には個人投資家は国内株式について金額ベースで約2兆円の売り越しになった。しかし、株数ベースでみると24億株の買い越しになっているという。岩永氏は「個人投資家は株高によって長年の塩漬け株を利益を出して売却した後で、将来に備えて有望な株式を購入している」と推察した。実際に個人株主数は拡大を続け、新NISAでも株式や国内株を投資対象とした投資信託の購入が買い付け代金の約半分に達していると手応えを語った。個人株主の拡大に向けて、2018年に実施した最低売買単位の100株への統一に続いて、最低売買金額を50万円以下にする取り組みに注力してきたという。企業は株式分割などによって既に90%以上の企業の株価が50万円以下で購入可能になっているが、「個人投資家の意向を聞くと30万円以下にしてほしいという要望が強いことがわかっている」として一段の取り組み強化を考えているとした。「個人株主は、株価が高くなると売り、株価が下落すると買うという逆張りの行動をする。それが結果的に株価の変動率を抑えることにつながり、市場を健全に保つための重要な存在」と語っていた。 ◆国内市場の変革を促す投資家の存在  野村アセットマネジメントの胡桃澤氏は2年連続で実現した大幅な賃上げによって実質賃金がプラスになり、国内消費の安定化につながるポジティブな変化があったとし、「外的なショックがなければ、日本経済は堅調に推移し、日銀は計画している利上げを実施して金融の正常化に向かうだろうと予測できる。しかし、トランプ政権の関税策がどこまで日本に対して影響度のあるものになるのか今のところわからない。これからの動きを注意深くみていきたい」とした。そして、日銀の金融政策は株価や為替の動きを見ながら慎重に進められるだろうという前提を置きながら、「半年に0.25%の利上げが進むだろう。政策金利の水準は2025年7月に0.75%、2026年4月には1.0%になるのではないか」という見通しを示した。  野村アセットマネジメント常務の村尾氏は、2022年3月から進めている「Project BRIDGE/日本株で元気に!」の中で海外投資家との対話を通じて受け取っている海外投資家の日本株に対する見方について紹介した。「海外投資家の日本株への強気の姿勢は2024年1月にピークだったが、再び強気の見方が増えて2025年2月時点では80%程度は日本株に強気の見通しをしている」とした。ただ、日本株を強気にみる理由は変化してきており、2023年2月時点では「割安」が主な理由だったものが、現在では「コーポレートガバナンスの変化」「企業業績が伸びる」「株主還元の改善」などが強気の理由になっている。また、今後は円高を予想する海外投資家が多く、2015年から10年間にわたって続いた円安局面とは異なる見方をし始めていると指摘した。そして、「日本の市場では株価格差が顕著。個別企業の変革の中身をいかに海外投資家に伝えていくかということが重要になっている」と指摘していた。  最後に野村資本市場研究所の関氏は、東証の市場区分見直しから進んでいる国内株式市場の変化について語った。東証の上場企業数が2024年に初めて1社減少していることを指摘。2025年になって3月6日までに30社の上場廃止があり、2025年には一段と上場企業数が減少する見通しにある。「実は、上場企業数の減少は米国では2004年頃から進んでいるトレンドになっている。米国における株式市場の意義は、『資金調達をする場』から『株主に還元する場』に変わっている。国内市場も米国が進んだ方向を向き始めている」と指摘した。そして、米国の個人金融資産が日本の8倍に相当する巨大な市場になった背景に、企業型確定拠出年金「401k」と個人向けの税優遇口座「IRA(個人退職勘定)」の存在が大きかったとし、「確定拠出年金などにおいて行われるつみたてで買い続けるという投資行動が資産形成には非常に大きな力になる」として、NISA口座の拡充に続いて進んでいる確定拠出年金市場の改革にも期待していた。
野村アセットマネジメントは3月17日、東京・丸の内の東京會舘で、Project BRIDGEセミナー2025を開催した。(写真はセミナーの様子)
economic,company
2025-03-19 11:00